月とアフロディーテ

 ある三日月の夜に市立公園を散歩していたら、休憩所のある丘の上で、キャスケットをかぶった女が背伸びをしてお空のお月さまに腕を回してキスをしていた。
 女はアセチレン灯の下に私が立っているのに気づくと、顔を赤らめてヒールをコツコツと鳴らしながら走り去っていった。お月さまには、ほんのりと口紅の跡が残っていたが、びゅうっと風が吹いたと思ったら、もうすっかり元通りになっていた。
 後日、その話を悪友のFにしてみると、『今月はAprilだから、彼女はアフロディーテだったに違いない』という話であった。

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