一睡もできなかった話

 友人が何者かにとらわれたという電話があった。
 私は急いで電話で伝えられたゴシックの廃墟へと駆けつけた。私が窓から様子をうかがいつつ一部屋一部屋を確認していくと、ある一室で椅子に縛り付けられた友人が数人の悪漢に取り囲まれているのが見えた。
 ガシャン!と窓を叩き割ってなかに入り、折り畳み式の自動機関銃を取り出してダダダッと撃った。すると、ヒラヒラと紙切れが舞ったと思うと、そこには何枚かのトランプが散らばっているだけだった。
 私は椅子の上に残った一枚のスペードのカードを払い除けると、そこに座り、シガレットに火をつけ、いつもよりも青白い煙を吐き出した。
 そして、その晩は結局一睡もすることができなかった。

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