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アストロニート!

【キャッチコピー】
スチームパンクで
バイオパンクな
ガリバー旅行記で
西遊記で
桃太郎の鬼退治な話
もちろん、そこに正義はない

【あらすじ】
ミューグレナ!
それは夢の微生物!
バイオ燃料や食用はもちろん秘めていた再結晶化、超ポリマー構造などの多様な素材特性は半導体材料、環境、水問題の解決などにも寄与する世界の救世主
シンの父・真山ジンミューグレナの素材としての潜在多様性を発見し、それを生かした多機能3Dプリンタ「ジン・マシーン」を開発した。突然のジンの死。国家予算レベルの特許料収入から遺産の行方に世間の注目が集まったが、一人息子であるシンが相続を許されたのはマイルポイントのみで食いつなぐための「ポイ活アプリ」だけだった。しかしそれは悪い冗談などではなく、来るべきミューグレナ危機とも言うべき人類の大問題の解決を我が子に託したものだった。

【第1話のストーリー】
 星間連絡船の事故。シンの父の訃報を自動受信したシステムは各方面への通知などを含む事後処理を速やかに行った。
 会見を兼ねた葬儀にはマスコミ関係者も押し寄せてくるだろう… 

20××年、夢の微生物ミューグレナは人類に革命をもたらした。当初はバイオ燃料や食品用途であったがニューグレナを素材として使う3Dプリンター「ジン・マシーン」の出現によって状況は一変した。
 マシーンの真価は多様な素材特性を引き出すことだった。超高分子構造体「四次元ポリマー」は信じ難いほどの水を貯えるだけでなく容易に放出することができ完全自動農業を実現した。
 超耐震性能を備えた建築資材は現代のバベルの塔のごとき超巨大建築を可能にした。そのマシンの発明者がシンの父・真山ジンだったのだ。
 「ミューグレナ革命」で職にあぶれたシンのようなニートは多数いたが自動農業が象徴するように「革命」はすべての人々に最低限の優しさを提供できる社会システムを実現した。これはジンの特許取得の目的が己の利益のためでなく大企業に利益を独占されないためだったことが影響していた。
 それでも革命の規模は全世界に及んだためその遺産は天文学的額といわれれていたので天文学的数の隠し子がいない限りは安泰だとシンは安心しきっていた。来訪者は生体認証が見守っていたが隠し子らしき人物はいなかった。
 ところがマスコミも見守る中で「遺言状検認システム」が再生した父のホログラム映像は、財産のすべては「ザイダン」に寄付する。愛する息子シンにはポイ活アプリ「マイルはいサルート」を授けると言い放った。星間連絡船に搭乗し、そこで得られたマイルで生活ができるというのだが、商売に疎い自分でも分子が分母をうわまるなんてことがないことくらいはわかると急に不安に襲われた。
 生体認証ゲートでただひとり「エラー」と出た人物がいたので気になって声をかけてみると目が合うよりも前に開口一番

「おれも行くよ、宇宙!」

 彼が言うには、マイル旅のからくりは「フロンティアコース」というまだ商品化されていない未踏のコースのいわゆるモニターなのだという。そしてこれは人類の行く末についての重要な調査を含んだ旅になるのだとも。 なるほど…いやいや地球のこんなに近くに惑星があったっけ?しかもこんなにたくさん。
「作ったんだよ」
「え?星を?だ、誰が?」
「それも調べに行くんだ」

そしてニートは宇宙へと旅立った。

【第2話以降のストーリー】
「フィトンチッドって知ってるかい?」
「ああ、森林浴のさわやか成分ですよね」
「それだけじゃない、植物はそれで通信するんだ」
「え?」
「たとえば森の入口で君が花を踏みつけるとしよう」
「なんかいやだな」
「すると森の中の植物にむかって一斉に警報が送られるんだ」
「それでぼくは花たちに何かされるんです?」
「いや、とくには…そういう研究があるってことだ」

 ぼくのマイル旅に同行したこの男は、松戸サイモンといって、科学ライターだという。彼には持論があり「科学ライターは何かしらの問題に対処するという意味においては科学者を越えた存在なんだ。専門家という人たちは深いけど狭い。その点、俺らはとことんひろいし、いざとなればけっこう深入りもできる」ということらしい。
 父は発明家だったが、やはり知識は幅広い分野にわたっていた。それでジン・マシーンの開発につながったわけだけど、論文をひとつも書いていない父は科学者からは「素人の作ったまとめサイトのような存在」と揶揄されたこともあったとか。
 サイモンさんはそんな父にシンパシーを感じて取材きっかけで交流を深めていったらしい。
 さっきのフィトンチッドのくだりは、最初に着陸した惑星での会話で実は続きがある。
 ぼくたちの会話を聞いていた、その星の唯一の住人であるコルグさんが突然割って入ってきた。
「森には気をつけろ」
「はい?」
「森は残酷だ」
そんな台詞を残すと彼は翌日にはいなくなっていたのでビビったものだが、その後も、各々の惑星で遭遇する住人たちは謎めいた人たちが多かった。後になって思えば、かれらは皆、なにかしらの「手がかり」を提示してくれてもいた。
 なかでもレオノール号の元乗組員たちは大きな手掛かりをくれた。レオノール号事件とは、10人の科学者が突然、宇宙船レオノール号と共に宇宙へと旅立ってしまった事件で、どうやって彼らだけで打ち上げの段取りができたのかはいまだに不明だが、ひとつ判明したのは、彼らが「惑星群」を作った実行犯だったということだ。
 その背景にあった事実としてはミューグレナは地上ではおもに光合成をしていたが、放射線を浴びると「超光合成」を行い、ただでさえ速い成長速度が輪をかけ超絶高速度で増殖・成長するという特性があったのだった。
 それに気づいた"彼ら"は宇宙線をもとめて宇宙に飛び出すことにしたらしい。
 それには人間の助けが必要だった。それがレオノール号のクルーたちだったというわけ。
 そうした事実はサイモンさんが父から託された言葉ともつじつまが合う。父はジン・マシーンなどというものを開発しておきながらミューグレナに数々の疑問を抱いていた。
●各方面の許認可が早すぎる。
●種子会社など強大な権力を持つはずの既得権益者たちがなんの策も講じてこない
●過去の遺伝子組み換え作物の例と比べるにつけ異論を表明をする勢力が皆無だ
●ミューグレナは誰が作ったのか。
●そもそもなぜ自分はジン・マシーンを作れたのか
●なぜ作りたいと思ったのか

 誰が作ったのかに関していえば、ミューグレナは表向きには生物学者の儀賀英一郎氏がゲノム編集で作ったということになっていたが、実際には原発事故の発電所で発見された突然変異種だったということらしい。

 あまり認めたたくはないが父の疑問リストの最後の二つに関してもレオノール号の乗組員たちが教えてくれたことと符号した。
 まず、レオノール号のクルーがミューグレナの「星づくり」に加担した手口はこう。「惑星玉」というある程度の塊を保護カプセルに入れた、いわば苗をつくり、それを宇宙線とびかう空間に放つ。一定以上の大きさになれば自己で「かさぶた」を作れるようになる。やがては十分な重力を帯びてくると体内に溜め込んだ気体を放つことで大気を帯びそれが保護膜となる。
 急激成長したミューグレナはやがて星の体裁を整えるのだが、もうひとつの機能としては細胞同士、或いは「星」同士が通信しあいあたかもひとつの器官のようなふるまいを見せる「集合知」という状態になるらしい。
 地球の地上ではミューグレナは「集合知」を形成するほどの大集合ではなかったはずで、その状況でやつらの「脳力」やその強さがどのレベルにあったのか定かではないが、蟻をゾンビ化してあやつる菌のようにミューグレナは何人かの人間を操っていたのかもしれない。アリを操る菌は脳をバグらせて異常行動させるのではなく、脳を借りて自分で考えるという。もしこっちもそうなのだとしたら、より厄介だしキモチワルイ。正常と異常の境界がより曖昧になってしまうからだ。

 実際、父のリストを見る限りでは違和感を自覚した後でさえどこまでが自分の意志かわからなかったようだ。そのまますべてが自分の意志だと思いこんだまま一生を終えたら幸せだったかもしれないが、少なくとも父は違和感に気づいてしまったのだ。

密航少女ミトのこと
 キモチワルイとか違和感のはなしは最優先事項ではない。それよりももっとシンプルな大問題がこのミトの告白の内容だ。
 マイルの旅の宇宙船にはCAも操縦士も含め生身のクルーは一切いない。搭乗している生身の生物はサイモンさんとぼくだけ…のはずだったが、出発2日目にして密航者が発見された。

17歳女子。日本人。名前:ミト

 密航者の目的を考えたときにただの家出少女である確率はどれくらいあるだろうか?と考えてみた。
 たしかにこの船のセキュリティがゆるゆるゆであることを考えると、その可能性もあるかもしれないが、セキュリティがゆるいかどうかは実際に来てみないとわからないことだし、この超イレギュラー便は散らかり倒した工場のようなところから打ち上げられた。善良な市民は打ち上げ場所までたどりつけないだろう。
 つまりサイモンとぼくになんらかのチャチャをいれにきたか、情報を盗みに来たのかと考えてみたが、よくよく考えるとそれはそれで違和感がないわけではない。なにしろ「敵」は人間ではないし哺乳類ですらない、微生物なのだから。
 まず彼女にミューグレナについて知っているかと聞くとイエスやつらの手先なのかと聞くと
ノー
…たしかに微生物が少女を工作員としてよこすというのは全然、現実的ではない。
 それでは一体何しにきたのかと問いつめてみると、夢を見たのだと言う。それは「大崩壊」という「Xデー」の風景だったと。ミューグレナ由来の材料で建造された超巨大建築たちが一斉に崩れ落ちる。結晶構造は「ボタンからの号令」でいとも簡単に砕け散るらしい。治水対策で水を蓄えていた山林や都会の4次元ポリマーは一斉に放水するという地獄絵図。

自分は夢の意味がさっぱりわからなかったけど、なんだか知らせなきゃいけない気がして、気が付けば打ち上げ場所についていたのだと。
 自分の意志ではない行動をさせられたという体験の中では、はじめて人類に味方する例だ。
 あるいは彼女は他の「操られていた人々」同様にシンクロしやすい体質なだけで、ミューグレナの「思考」だけを受け取ったのかもしれない。

たしかにミューグレナ1つにインフラを集約し多様性を排除した時点で人類のリスクは最高潮だったのかもしれない。

彼女の「証言」から推察するに、その「ボタン」は惑星群の一番遠くにある星が担っているらしい。とりあえず自分たちはそこを目指すしかない。

いすせれにせよ宇宙に「明日」はやってくる

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