鎌状赤血球-Sickle Cell

今回は「鎌状赤血球(Sickle Cell)」ついてお話ししたいと思います。
命に関わる大事なことですので、特にAT、S&Cコーチ、監督/コーチの方々は最後までお付き合いいただければ幸いです。

まず、話を進める前に想像してみてください。夏休み明けの炎天下のなかでのサーキットトレーニングで、ある選手が開始直後に「息切れがひどくて…」や「足つった感じがする」など言ってきたら…?ある外国人選手が、新シーズンへ向けての強化練習中に「立ってられない」や「足に力が入らない」と訴えてきたら…? コンディション不足!
根性ない!

…ホントにそれだけ??🤔🤔🤔🤔🤔 .

では本題!
アメリカでは人種の"るつぼ"と言われるだけあり、様々な身体的、遺伝的特徴の違いをみてきました。

その中で日本ではほとんどみない/知られていないものが「鎌状赤血球症」です。血液検査でこのコンディションがあるかどうか調べられますが、これは遺伝的なコンディションで、アフリカ、地中海、カリブ、中東、インドに遺伝的ルーツを持つ人々に多くみられています。アメリカでは約8~9%のアフリカ系と4%の南米系にこのコンディションがあるようです。

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赤血球は血液中の成分で、身体中に酸素を運ぶ役割をしています。通常は中心がへこんだ円盤状をしており、狭い血管内で詰まることなく血流に乗っています(上の写真)。この赤血球が、脱水症状、感染症、酸欠状態などで形が崩れ、鎌状(三日月状🌙の方がわかりやすいかと思います)になってしまうのが鎌状赤血球症です。

この遺伝的コンディションを両親から受け継いでしまった場合(Sickle Cell Disease)は、残念ながら運動を行うことは無理で、あまり長く生きることもできないようです。ただ、片親からのみ受け継いだ場合(Sicke Cell Trait)は半分は通常の赤血球のため、実はほとんどの場合無症状で、運動もほぼ問題なく行えます。アメリカでは大学入学時にNCAAから義務付けられている血液検査で知る選手も多くいます。

鎌状化を引き起こす要因としては…
・高強度でレスト時間が短い高反復運動
・気温が高く、脱水症状や熱中症になりやすい環境下での運動
・酸素濃度の低い高地での運動
・喘息持ち
・ストレス、など
高強度で酸欠状態が起こるとなりやすいと言われています。

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鎌状になってしまった赤血球は酸素運搬能力が下がるだけでなく、血管内でスムーズに流れることができなくなり詰まりを引き起こしてしまいます(写真右側)。すると筋肉がつったような痛み(ただし実際に筋痙攣はなし)、腫れ、弱さ、極度の息切れなどの症状があらわれます。

重症になると、腎臓や脾臓、心臓など臓器に支障をきたし、最悪の場合死に至ることもあります。実際にアメリカでは、2000年以降大学アメフトの選手だけで、10名が夏の体作りの時期に亡くなっています。

少しレアなケースとしては、2007年にはNFLスティーラーズの選手が、10月下旬に標高が高いデンバーでの試合で発症、極度の腹痛で病院搬送されています。結果、脾臓と胆嚢を切除する大手術となり、その年の残りの10試合をすべて欠場となりました。

重症度に関係なく、すぐに行わなければならない処置として、運動停止、心拍数や血圧などバイタルチェック、救急要請、そして何より迅速な高濃度の酸素吸引となります。軽度であれば酸素吸引で症状は解消していきます。

ここで最初の質問に立ち返ってください。もし彼らが鎌状赤血球を持っていたら?それを知らずに根性論で続けさせたら?もしくはただ日陰で休ませるだけの処置だけしかしなかったら?? 先程のNFL選手も亡くなってしまった選手たちも、肉体的にはトップレベルのアスリートです。それまで全く症状が出たことのなかった選手もいたでしょう。鎌状赤血球は今まで症状がなかったから今後もならないというものでは決してありません。

日本もスポーツの世界に目を向けると外国人選手や留学生、外国にルーツがある親を持つ選手など、近年増加傾向にあります。

夏には高温多湿になる日本では、もし所属選手が自分が鎌状赤血球を持っていることを知らないのであれば、検査する必要があると思います。そしてもし持っている選手がいるのであれば、選手のみならず、監督やコーチといった指導者にも予防策や対処法を伝えてください。

今までは知らなくても問題なかったかもしれませんが、国際化が進んできている近年は、もう知らないでは済まされない時代です。便利な世の中ですから、世界中から情報を集めて、1件でも不幸な事故を防げるようにしていきたいですね。

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