旅先で男の子に「添い寝」をしていただいた②
前回までのあらすじ
【30歳を目前に控え、海外ひとり旅に初挑戦した私。現地に駐在する日本人の友人Y君と、その後輩T君を頼りに、どうにかベトナム空港まで到着した】
■
Y君に別れを告げ、私とT君はホーチミン市内の中心部まで出ることにした。
タクシーに乗りこむと、荒い運転で車は走り出す。
土埃が舞い、窓辺には混沌とした街並みが広がる。
鳴呼!
これぞ、私が旅に出るまで求めていた世界だ。
カラフルな電飾で彩られた飲食店や風俗店に、無数の人が散らばる。
夜だというのに、大人だけではなく野良犬も子供も元気よく走り回ってる。
その景色は寂しさと希望が混在しており、私はしばし言葉を忘れてしまう。
流れ行く街の景色を眺めながら、ふと私は、小さな頃を思い出す。
あの頃は毎日、父が運転する車に乗り、図書館やスーパーに連れて行ってもらったものだ。
小さいけれど、ぎっしりと脳みそが詰まっていた私は、この世に存在する全ての景色がキラキラと見えていた。
「お父さん、あのお城、なあに?」
「ん? いつか分かるよ」
「綺麗なお城だね」
「そうだね」
それが安いラブホテルだと知ったのは、大人になってからのことだ。
現存する建物の意味を知り、大抵のことに感動しなくなったのは、いつの頃からだろう。
そのまま、すっかりオトナの女になってしまった。
あの頃の私は、父に保護責任があった。
だが、今は、誰も私を守ってくれない。
もう、「大人」だから。
しかし、ベトナムに到着してからというものの、私の面倒を見てくれているのは、あろうことか年下の男の子である。
しかも、25歳という若さで現地の企業で懸命に働き、私と違う世界に住む健気な子。
会社の先輩からの無茶振りで、謎の女(私)をアテンドしてくれる優しさを兼ね備えている。
そう考えると、私は年下の彼に対して「父性」を覚える。
同時に、彼の肌は若さを隠せずピチピチと弾けていることも、私は見逃さなかった。
目尻にも口元にも、何1つシワが無い。
彼の顔をまじまじ眺めていると、目が合う。
戸惑いながらも、
「僕の顔、何かついてます?」
そう言って照れる彼の表情が、セクシーというよりも生命力に溢れ、私は少しゾグっとする。
■
市内へ向かう途中、ベトナム風つけ麺「ブンチャー」を食べるために、小さな定食屋に寄り道することにする。
パイプ椅子とテーブルが置かれた簡素な空間の中、出てきたのは、”この世の終わり”のような食べ物であった。
妙に濁った汁に肉が浮かび、お世辞にも美味しそうとはいえない。
だが、嬉しそうに
「食べてみて下さい」
と言うT君の手前、私は貼り付けた笑顔で箸を手にとる。
「ブン」と呼ばれる半透明な麺を、その謎汁に浸して食べると、鶏ダシの旨味が口の中に広がった。
さらに、汁に沈む炭火焼きつくねを引き上げて頬張る。
すると、甘く味付けされた肉の衝撃的な旨味が滴り落ちた。
「うっそ…。美味しい…」
思わずそう呟く私に、T君は満足そうな笑顔を浮かべる。
さぁ、腹も満たしたところで、いよいよ本格的に2人の旅に突入だ。
■
彼が最初に連れて行ってくれたのは、ホーチミン市内にあるガールズバーだった。
まさか私、このガールズバーで、働かせられたりしないよね?
しないよね?
〈to be continued ③に続く〉
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