見出し画像

旅先で男の子に「添い寝」をしていただいた②

前回までのあらすじ

【30歳を目前に控え、海外ひとり旅に初挑戦した私。現地に駐在する日本人の友人Y君と、その後輩T君を頼りに、どうにかベトナム空港まで到着した】

Y君に別れを告げ、私とT君はホーチミン市内の中心部まで出ることにした。

タクシーに乗りこむと、荒い運転で車は走り出す。

土埃が舞い、窓辺には混沌とした街並みが広がる。

鳴呼!

これぞ、私が旅に出るまで求めていた世界だ。

カラフルな電飾で彩られた飲食店や風俗店に、無数の人が散らばる。

夜だというのに、大人だけではなく野良犬も子供も元気よく走り回ってる。

その景色は寂しさと希望が混在しており、私はしばし言葉を忘れてしまう。

流れ行く街の景色を眺めながら、ふと私は、小さな頃を思い出す。

あの頃は毎日、父が運転する車に乗り、図書館やスーパーに連れて行ってもらったものだ。

小さいけれど、ぎっしりと脳みそが詰まっていた私は、この世に存在する全ての景色がキラキラと見えていた。

「お父さん、あのお城、なあに?」

「ん? いつか分かるよ」

「綺麗なお城だね」

「そうだね」

それが安いラブホテルだと知ったのは、大人になってからのことだ。

現存する建物の意味を知り、大抵のことに感動しなくなったのは、いつの頃からだろう。

そのまま、すっかりオトナの女になってしまった。

あの頃の私は、父に保護責任があった。

だが、今は、誰も私を守ってくれない。

もう、「大人」だから。

しかし、ベトナムに到着してからというものの、私の面倒を見てくれているのは、あろうことか年下の男の子である。

しかも、25歳という若さで現地の企業で懸命に働き、私と違う世界に住む健気な子。

会社の先輩からの無茶振りで、謎の女(私)をアテンドしてくれる優しさを兼ね備えている。

そう考えると、私は年下の彼に対して「父性」を覚える。

同時に、彼の肌は若さを隠せずピチピチと弾けていることも、私は見逃さなかった。

目尻にも口元にも、何1つシワが無い。

彼の顔をまじまじ眺めていると、目が合う。

戸惑いながらも、

「僕の顔、何かついてます?」

そう言って照れる彼の表情が、セクシーというよりも生命力に溢れ、私は少しゾグっとする。

市内へ向かう途中、ベトナム風つけ麺「ブンチャー」を食べるために、小さな定食屋に寄り道することにする。

パイプ椅子とテーブルが置かれた簡素な空間の中、出てきたのは、”この世の終わり”のような食べ物であった。

妙に濁った汁に肉が浮かび、お世辞にも美味しそうとはいえない。

だが、嬉しそうに

「食べてみて下さい」

と言うT君の手前、私は貼り付けた笑顔で箸を手にとる。

「ブン」と呼ばれる半透明な麺を、その謎汁に浸して食べると、鶏ダシの旨味が口の中に広がった。

さらに、汁に沈む炭火焼きつくねを引き上げて頬張る。

すると、甘く味付けされた肉の衝撃的な旨味が滴り落ちた。

「うっそ…。美味しい…」

思わずそう呟く私に、T君は満足そうな笑顔を浮かべる。

さぁ、腹も満たしたところで、いよいよ本格的に2人の旅に突入だ。

彼が最初に連れて行ってくれたのは、ホーチミン市内にあるガールズバーだった。

まさか私、このガールズバーで、働かせられたりしないよね?

しないよね?

〈to be continued ③に続く〉

サポートをしていただきますと、生きる力がメキメキ湧いてきます。人生が頑張れます。サポートしてくれた方には、しれっと個別で御礼のご連絡をさせていただいております。今日も愛ある日々を。順調に、愛しています。