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大木亜希子、新しい連載小説を始めます

新しく小説の連載を書き始めることにしました。

作品のタイトルはマイ・ディア・キッチン』(文藝春秋)です。

パートナーからのモラハラに悩む女性が、1組のゲイカップルと出会い、飲食店のシェフを任せられることで料理の道を極めていき、職業人として矜持を取り戻していくお話です。

この物語を書くに至った理由を、ここに素直にお伝えします。

今年5月、私はプライベートで屋久島に1人で飛び立ちました。

その頃の私は、人生に向き合うことが怖くなってしまい、なんだか心も身体もヘトヘトで、毎日小さく泣いては、色々なことが「ほんのり無理だなぁ」と思っていました。

周りには元気なふりをすることが出来る。

「もう完全に全て無理」という訳では、ない。

けれど、どこかじんわりと生きていくことがキツい。穏やかにキツい。

恋愛も仕事もお金も全てが不安。

毎日の不摂生により身体も浮腫み、健康的な不安もある。

書くことは大好きだけど、どのように人生の舵を進めたら良いのかわからない。

得体の知れない不安で、なぜか心が押し潰されそうでした。

逃げるように島に向かってからは、毎日こんこんと山に登り、島に住む方や旅人の方と触れ合うことに徹しました。

髪もボサボサのまま無化粧で、毎日決まった時間に起き、決まった時間に寝て、朝から山に登り、時々お酒を飲む暮らしを一週間ほど続けました。

携帯も圏外の地域が多く、必然的に自分の心と向き合う時間も増えました。

すると、少しずつ「普段の自分」から肉体的感覚が研ぎ澄まされていくような気がしました。

島に滞在して数日が経った頃のこと。

ある時、なんとなく、島の綺麗な空と水が私の気持ちを洗い流してくれている気がしました。

そんな時、島内の一軒屋のレストランに伺いました。

誰かに教えて貰ったわけではなく、たまたま眺めていたサイトで見つけ、何気なく予約したお店です。

お店の名前は『a heavenly kitchen』(ア・ヘブンリー・キッチン)です。

オーナーの方が丁寧に作られる穏やかで優しい野菜のメニューを頂きながら、窓から見える海を眺めているうち、得体の知れない不安が少しずつほどけていく感覚になり、心が無になりました。

あまりの美味しさのあまり、一皿一皿の料理に夢中になりました。

そして、食べ終えた頃、「これまで凄く苦しかったけど、一番苦しい時は抜け出せたかもしれない」という言葉が自分の中から降りてきました。

美味しいものを食べてブレイクスルーが起きた感覚は、久しぶりでした。

その瞬間、本当に肩の荷が降りて、私はこれからもきっと何度も落ち込むだろうけど、でも、きっと何度でも立ち上がれるだろうと確信しました。

言葉では言い表すことが難しい、超自然的な感覚でした。

その時、ふと、美味しい食べ物によって一人の女性が立ち上がっていく物語を書きたいと強く思いました。

「誰かの妻」とか、「誰かを支える影の役割」ではなくて、一人の尊い女性が苦しみながらも、迷いながらも「本当の自分」を獲得して、幸せのために立ち上がっていくような……そんな物語を書きたいと思いました。

いや、私が書くべきなのだと、目に見えない誰かに言われた気がしました。

もはや、そのために得体の知れない苦しみと葛藤して、屋久島に導かれた気がしました。

そして、そうと決まったら、作品の世界観や登場人物がサーッと頭の中に降りてきました。

この不思議な確信は『シナプス』(講談社)という小説を今年書き上げて以来のことで、奇しくも現実逃避をしているはずの屋久島滞在中に、新しい小説のコンセプトが決まってしまいました。

もう一度、全身全霊で小説を書きたいと心から思いました。

私も含めて、ひとりの女性が自分の好きなことでお金を稼ぎ、日常も充実させ、家事も対人関係もこなしながら生活を形成していくことは、容易なことではないといつも思います。

私自身も日々、悪戦苦闘しています。

できれば自炊して美味しいものを作って食べたい。

けれど、そんな精神的余裕もなければ、時間も知識もない。

なんとなく、いつも忙しい。

でも本当は、自分が得意なことで誰かの役に立つ実感が得られ、それにより対価を得ることが出来たら、それは本当に尊いことのように思います。

今回、料理監修で、大好きな料理家の今井真実先生がご協力をしてくださることになりました。

数ヶ月前、初めて今井先生と編集者の皆さんと私で、本作の打ち合わせをさせて頂いた日がありました。

その席で私が構想するビジョンを緊張しながらお伝えしたところ、今井先生はしっかり私の気持ちを受けとめて下さいました。

そして、それだけではなく、私自身の心許ない気持ちをふわっと優しく包み込んで下さいました。

その穏やかな微笑みは、とてつもなく心強かったです。

先生は温かくて優しい方だけれど、とても力強くて、凛とした強さと穏やかさ(この一見すると相反する二つの要素)をお持ちの方でした

お会いしてすぐに、ひとりの女性としても大好きな存在になりました。

私と、今井真実先生。

この二人なら、きっとこのプロジェクトが進んでいける。そう確信しました。

今は辛くて、前が見えなくて、仕事や恋愛、人生の行く末に自信が持てない女性が、もしも私達の眼前にいたとして。

そういう方が、少しでも光のほうに進んでいけるようなホッとする作品を、私は一生懸命に紡いでいきたいと思います。

この『マイ・ディア・キッチン』という連載が、読者にギュッと寄り添える作品となり、温かい力を運び、ひとりでも多くの方が「自分らしさ」を獲得できるお手伝いができると信じて、私は引き続き第二話、第三話と頑張って書いて参ります。

主人公の名前は、白石 葉(しらしい よう)と申します。

モラハラ夫との関係に悩む34歳の主婦です。

自尊心が粉々に傷ついた彼女は、シェフとして色々な人と出会い、新しい料理を作っていくことで「本来の自分」を取り戻していきます。

今回が第一話です。こちらから全文無料でお楽しみいただけます。

そして明日、

【12/10(土曜日)お昼12:15〜】

今井真実先生と私で、お疲れ女性に向けて「ご自愛レシピ」を作るオンラインイベントを実施します(You Tubeライブ/無料)。

簡単で美味しくて、自己肯定感がグッと上がり、誰でもサッとすぐ作れるお料理をご紹介します。

私も実際に教えて頂いたお料理を作りましたが、本当に凄かったです…。

美味しくて簡単なのに、凄く豊かな気持ちになれる素晴らしいレシピの数々。

気持ちが、ふんわり軽くなりました。

誰でも閲覧可能です! 

ぜひ休日の昼のお供に、お気軽に閲覧してくださいね。

【出演情報 詳細】

今井真実先生(料理家)×大木亜希子(作家)
「note×文藝春秋わたしたちのご自愛レシピ」

日時:12/10 (土)12:15~13:30
場所:オンライン(YouTubeライブ)
参加:無料
参加方法:放送当日、文藝春秋YouTubeチャンネル「本の話」にアスセスするのみ。

視聴スタンバイはこちらから。

尚、年明け2023年2月に『マイ・ディア・キッチン』第二話が、このnoteと別冊文藝春秋電子版で公開になります。

第3話、第4話と物語は続いていき、最後は大切な一冊の本になる予定です。

連載が完走する最後の日まで、どうか、宜しくお願い申し上げます。

大木 亜希子

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