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拝啓・渡辺淳之介さま。あなたは全て知っていて、少女たちを試すのですか?
『らいかろりんすとん』(配給:松竹/企画・製作:WACK)パンフレットに掲載された、大木亜希子のエッセイを一部公開します。
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アイドルになれなかった少女は、どこに消えていくのだろう。
本作を観終えたあと、私は「選ばれなかった者たち」に対して、思いを馳せずにはいられなかった。
多くの受験者は、「学校でいじめられている」とか、「周囲の友達となじめない」と言いながら、自分を本気で変えるつもりでこの過酷なオーディションに挑む。
自分の心の守り方さえまだ知らない、ともすれば恋愛の仕方さえ知らない少女たちは、俯きながら自慢のツインテールを揺らし、そっと新しい扉に手をかける。
しかし、現実は残酷だ。
彼女たちは、審査という戦場に送り出された途端、速やかに順位がつけられる。
ふるいにかけられ、精神的に丸裸にされ、気力と体力を奪われ、人格さえ簡単に否定される。
当然だ。
もしこの審査に合格すれば、魑魅魍魎が跋扈する芸能界に、たった1週間で放り込まれることになる。
だからこそ、これまでの常識は通用しないし、小器用なことはクソ役に立たない。
この戦場で問われるのは「いかにして人生の全てを賭けて、この挑戦に挑んでいるか」ということオンリーである。
少女たちにとって憧れの先輩である、セントチヒロ・チッチはあえて真実を言う。
「オーディションは、『頑張れば良い』というものじゃない。勝つか、負けるか。勝たないと、何も意味がなくなっちゃう」と。
彼女にもかつて、少女たちと変わらない“アーティストの卵時代”があった。
時代に求められ、超人的なスピードでプロ意識を学び、血反吐を吐くような努力をしてスターに駆け上がった、ひとりの「元少女」がそこにいる。
だからこそ彼女は、心を鬼にして少女たちに警告するのだ。
「生半可な気持ちは一切、捨てなさい。大人たちはすぐに見破るから」と。
発育途中の少女たちは、それでも尚、この危険な挑戦をやめようとしない。
まっすぐに傷ついていく。
「激辛料理を時間内に食べる」とか、「オセロで勝敗を決める」といった、一見すると不条理な審査にも果敢に挑む受験者たちの姿は、痛々しい。
一方で、その切実な姿は「私は今、全力で人生を生きているだろうか?」という人間の本質的な問いをこちら側にブーメランのように投げかけてくる。
「WACKのオーディションに合格できなかった」。
そんな自責の念にかられて現実世界に戻る少女たちは、明日からの人生でまた、学校でいじめられたり、変な男に引っ掛かったりしないだろうか。
理不尽な出来事で埋め尽くされたこの社会のなかで、その純真さが死んでしまうことはないだろうか。
私は祈るような気持ちで、少女たちの行く末を案ずる。
しかし最終的に導き出す答えは、「きっと大丈夫だろう」という思いなのだ。
たとえばそれは、BiSHのように東京ドームに立とうとする人生ではないかもしれない。
プロのヘアメイクやスタイリストがつき、客席から万雷の拍手を浴びる人生ではないかもしれない。
それでも2020年の春、たしかにアイドルオーディションを受けたということ。
その事実は、彼女たちにとって史上最大に不条理な出来事で、史上最大に正確な敗北として刻まれる出来事なのだと思う。
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【今後の上映予定劇場】
1/29(金) ~東京/東劇
★上映中(2/6(土)、2/7(日)、2/11(木・祝)はリアルでの舞台挨拶実施)
【チケット販売】https://l-tike.com/search/?lcd=33237
2/5(金) ~福岡/ ユナイテッド・シネマ福岡ももち
2/6(土) ~愛知/シネマスコーレ
2/19(金) ~北海道/札幌シネマフロンティア
2/19(金)~栃木/MOVIX宇都宮
2/20(土)~群馬/シテマテークたかさき
2/26(金) ~宮城/チネ・ラヴィータ
2/26(金)~東京/MOVIX亀有
茨城/MOVIXつくば
静岡/MOVIX清水
京都/MOVIX京都
兵庫/MOVIXあまがさき
山口/MOVIX周南
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公開中の映画『らいかろりんすとん』、大木亜希子はパンフレットへのエッセイ寄稿で携わらせて頂きました。
映画の内容が素晴らしかったので、なにか私にもご協力できることはないかと考えました。
そこで今回、配給元の松竹さんと相談の上、寄稿させて頂いたエッセイの一部を公開いたします。
こちらのエッセイの続きが気になる方は、ぜひ劇場にてお買い求め下さい。
そして、ひとりでも多くの方に、この映画の魅力が伝わりますように。
(原稿料は頂戴しておりますが、notePR料は頂戴しておりません)
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