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初夏におとずれる わが娘の反抗

バラの蕾があちこちで気になる季節。

バラ好きは名前にこだわると言われるけれど、
それはどれも「バラ」とひとくくりにしたくない個性があるから。

エゾシカに若葉を食べられた、
つる薔薇のアンジェラも、蕾を増やしていてひと安心。

新参者のオリビア・オースチンも咲くのが早そうだし、
「初心者向けよ」と、友人に勧められたピエール・ドゥ・ロンサールは
もうその大きな蕾は、ひっそりと咲きだしている。

香りがないのが残念だけど、白にピンクの縁取りが美しい大輪の花は、
箱入り娘のようにうつむいて咲く。

相棒たるべき、薄紫のクレマチスはというと、
このつるバラの隙間を縫って、同じようにつるを伸ばして空中に飛び出て、
陽光の受け皿みたいに「隠すものなんてないもの」という感じで花開く。

ひよこのような黄色のモッコウバラは、もう煮しめた色の花になった。

モッコウバラの隣でフェンスを占拠する多花性のクレマチス、
白いモンタナ・エリザベスはびっしりと咲いた大きな花びらを、
名残惜しむように、ハラハラと落とし始めた。

残念。

今年もこれで、とうとう春が終わった。

このクレマチスはバラを迎える前哨戦のように、
春のまっさかりに、一期咲きの若いエネルギーを全力で噴き出して、
有無を言わせず、あたりの風景を席巻して賑やかにする。

「どうやったらあんな風に咲かせるのか、聞いておかないと」

二軒隣のおばあちゃんに声を掛けられた。

花はこれといって美しいわけではないのに、
一生懸命な全身全霊の咲き方が、思いっきりの笑顔のようで、
見るひとは、その素直な若さに、自然に顔がほころぶ。

まるで毎日ファンミーティング真っ最中のアイドルのよう。

去年は上に伸びる場所を見つけて、我も我もと目指したので、
その結果、上下左右に、立体的な感じで咲いている。

冬までに、もっと横に誘導しておかなければと眺めている。

南向きのフェンスだけじゃ満足せず、つるバラの領域にも顔を出す。

この花の、エリザベスという美しい名前の愛称はいろいろあるけれど、
気まぐれな少女のような花は、ライザとはちょっと違うし、
残念ながら、リズとかべスなんて若草物語な感じではない。

エリーは友達の名前だし、リリアンは娘の愛称に似てるので、
「モンちゃん」と呼んでいる。

もしかしたら、それも気に入らないのかも知れない。

誘引させておいても、次の日には言う事を聞かずに、
反抗的にスルリと抜けていることも多かった。

麻ひもでしばりつけるぞ。

可憐な花なのに、夜遊びの好きな女の子のように少しわがまま。

お母さんは心配してるだけなのよ。

あなたがもっと可愛らしく、もっと綺麗に見えるようにと願って。

夏になったら、どこに飛んで行ってもいいし、
どんなところで暮らしても、元気であれば構わないのよ。

だけど春になったら、ちゃんと戻って顔を見せてね。

本当に好奇心旺盛のフーテン娘なんだから。

まいっちゃうな。

許すけど。



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