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ある日の朝の5時から10時まで

体中が痛い。

でもシップを何か所か貼り付けて寝たので、
気持ちよいと言えば、言えなくもないのかも知れない。

昨日は最高気温30度超え、という異世界の数字だった。

その前日は、海からビールの泡のようなヤマセが、
まるで龍のしっぽのようにたなびかせて、陸に上がっていたのに。

夏というのは、寒いくらいに涼しいはずではなかったのか。

6月でも店頭には通常ホッカイロが売られている。

嘘だろうと思ったけど、やはり朝から暑かった。

支度して朝の5時から草刈りを始める。

やりたいことは色々あったけど、まず昨日掘った玉ねぎ畑の整理。

玉ねぎは秋に植えつけるものだけど、今年になってから、
親戚のおばさんが「余っている苗があるよ」と頂いたのを植えた。

土がまだまだの割には、思いのほか育って、60個程度収穫できた。

小さめの玉ねぎだけの丸ごとの煮物も楽しみ。


草取りや草刈りというもの自体は、好きな人はいないと思う。

体使うし、大変だもん。

「すごいね。私ならそんなことできないわ」と、
若干侮蔑を込めた物言いをする方もいる。

そういうマウントの取り方というか。

好きな人なら分かると思うけれど、
綺麗にした爽快感というのは、なにものにも代えがたい。

お洗濯は取り込んで畳むのより、干すのが好き。

お料理は出来上がった時に、台所が片付いてるのが好き。

パソコンのファイルやフォルダも、いい感じに整理されてるのが好き。

綺麗にするのは、物事の計画の成果が可視化する楽しさがある。


先日やり残した芝桜を刈り、あちこちの咲き終わったセラスチウムを刈る。

伸びた雑草を刈っていると、切り揃えられた草丈の短さが気持ちいい。

あちこちに種を飛ばして芽を出した花も、面倒なので一気に刈り取った。

春には可愛らしいのでつい残しておく。

だけど花が咲きだす頃になると、珍しくなくなってしまうからだ。

人間って自分には都合いいもんだと思いながら。


6時のチャイム代わりの音楽が鳴り響く。

朝仕事している方に挨拶をしながら、世間話をする。

二方向の道路を、車の走行が増える時間になってきた。

ひと息ついて、冷たいボトルの水を飲んでいたら、
小学生たちの集団登校の時間になったことに気づく。

彼らの登校風景の中に、私の花畑が思い出に残るのかな、と思った。

しかし、男の子が断然多いので、そんなことはないだろうと打ち消す。

へたり始めたところに幼なじみがゴミステーションまでやって来た。

「今日は仕事お休み~?」と大声で聞く。

「休み~!」と大声が返ってくる。

花畑は被災跡地なので、回りは空き地が広がっている。

「ちょっと手を貸して~!」と大声で叫ぶ。

回した車から降りてもらって、「この端を持って動かないで欲しいの」と、
土と砂利との間に、低い「どめどめシート」を差し込む。

何度か微妙にずらして場所を決める。

「動かないで」と言いながら、土を掘り、掛け、砂利側も同じようにする。

「ちょっとお、土煙が鼻に入ってくるんだけど」とぼやきながら、
彼女は近況をつれづれに話す。

「ごめんごめん、あー助かった」と二列を終えた。

「ついでにコーラ買ってきて欲しいの~飲むものが無くなって死にそう」

小銭を渡しながら、有無を言わせず甘える。

仕方ないなあという顔をしながら、彼女は小銭を受け取る。

このあともう一か所、草刈りしたい場所があるのだ。

近所のおじさんが、道路側だけ少しやって諦めたところ。

足腰が痛くて大変らしい。

おじさんの近くの、誰もいなくなった親戚の元屋敷だ。

寝たきりのお母さんを置いていけなくて、おふたりが亡くなった。

ご家族は亡くなっても、管理するべき人は離れた都会に住んでいる。

数年前に、何年かぶりでお墓参りに来たらしいが、
おじさんのところに、挨拶に寄ることもなかったらしい。

ということは、
ご実家の被災跡地が綺麗になっているのも、
お墓の回りが綺麗になっているのも、
なぜなのか思い至らないということだ。

「たまたま近くに住んでいるから」

「放置すると回りに迷惑だから」

それだけで、おじさんがずっと管理しているのに。

たまに権利意識だけが突出して強い方がいるが、
そういう方であれば、
「勝手にやっているのだし、放って置いてくれればいい」と
考えているのかも知れない。

単に「田舎の人は草刈りが好きだから」と思っているのかも知れない。

その人にとっての「綺麗」は、自分以外の、
行政や、お店や、ボランティアがやってくれるものかも知れない。


彼女が冷たいコーラを持って、戻って来た。

世間話の続きをしながら、レディオブシャーロットや、
ミスティパープルの強香のバラを、ふたりで眺めて回る。

「もう少し大きくなったら眺めも良くなるから、
ここに座ってお茶しようね」

「花はいいよね~」

なんてことのない朝だったけど、パワーチャージして、
おじさんのやり残した草刈りをしたら、時計は10時を過ぎていた。

でも草刈り機械をあやつるのは、バイクに乗ってるみたいで好きかも。

全部ぶっ飛ばして切ってやる!
















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