スクイーズ・アウトについて

 株式会社においては、株主平等原則の下、各株主はその持株割合に応じて株主総会における議決権を有するのが通常です。株主総会の決議は議案の内容に応じてその承認に必要な議決権の割合が異なるため、重要な決議を行うためにはできる限り株式を集約しておくことが望ましいといえます。また、安定株主により一定割合の議決権を確保できており必要な決議については承認が得られるとしても、株主には1株でも保有していれば行使できる権利(単独株主権)や発行済株式総数または総株主の議決権の一定数・一定割合以上を有していれば行使できる権利(少数株主権)が認められています。そのため、自社でコントロールできない株主が存在する場合、その株主の持株割合が低い場合であっても、株主権の行使により円滑な事業の運営が妨げられる可能性があります。
 このように、安定的な経営権の確保や円滑な事業の運営のためには、少数株主を排除して、株式の集約を図ることが必要な場合もあります。そこで、今回は、少数株主に対して金銭等を交付して排除するスクイーズ・アウトの手法を確認していきたいと思います。

スクイーズ・アウトの手段と具体的手続

 スクイーズ・アウトの手段は、主に以下の4つです。
①     特別支配株主の株式等売渡請求
②     株式併合
③     全部取得条項付株式
④     株式交換・合併
 以下、各手段の内容と手続を詳しく見ていきたいと思います。

特別支配株主の株式等売渡請求

(1) 概要

 特別支配株主の株式等売渡請求とは、総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、他の株主全員に対し、株式の譲り渡しを請求する制度です(会179Ⅰ)。
 他の手段による場合、株主総会の特別決議による承認を得る必要があるのに対し、この請求は、取締役会の決議(取締役会を置いていない会社の場合は取締役の過半数による決定)が得られれば実施できます。そのため、他の手段と比べて迅速にスクイーズ・アウトを実現できる可能性があります。

(2) 手続

 具体的な手続は以下のとおりです。
1.      売渡請求の通知
 特別支配株主から対象会社に対して、売渡株式の対価の金額や取得日など法定の事項(会社179の2Ⅰ、会社規33の5Ⅰ)を通知します。
 この際、対価の金額については特に注意が必要です。後述しますが、対象会社は、通知された対価の相当性についての取締役会または取締役の判断を記載した書面または電磁的記録を一定期間備え置く必要があります。また、売渡株主保護のため、売渡株主には一定期間内に裁判所に対して売買価格決定の申立てを行う権利が認められています。特別支配株主は、対象会社に対する通知の段階からこのような制度を理解したうえで適切な対価を設定する必要があり、そのために、公認会計士による株価算定に係る鑑定書を取得しておく必要があるでしょう。
2.      対象会社の承認及び通知
 上記の通知を受けた対象会社は売渡請求を承認するか否かを判断し、取締役会による決議(または取締役による決定)を行います。そのうえで、特別支配株主に対して当該決議の内容を通知します(会社179の3Ⅰ、同ⅢないしⅣ)。
 90%以上の議決権を有する株主からの請求である以上、多くのケースで売渡請求を承認する旨の決議または決定がなされることになりますが、その場合、対象会社は通知された取得日の20日前までに、売渡株主に対して、売渡請求を承認した旨など法定の事項を通知しなければなりません(会社179の4Ⅰ、会社規33の5Ⅰ②)。
3.      株券提出の通知公告
 株券発行会社の場合、2の承認決議を行うときは、取得日の1か月前までに、株券を提出しなければならない旨を公告し、かつ、株主等に対して各別に通知しなければならないとされています(会社219Ⅰ)。そのため、株券発行会社については、かかる手続のため少なくとも1か月以上の期間を要することとなります。
4.      事前・事後の書類の備置き
 対象会社は、2の通知の日から取得日後1年(公開会社の場合は6カ月)を経過するまで、また、取得日後遅滞なく、それぞれ法定の事項を記載した書面または電磁的記録を本店に備え置かなければならないとされています(事前備置きにつき会社179の5、会社規33の7、事後備置きにつき会社179の10、会社規33の8)。
 特に、事前に備え置くべき書類については、法定の記載事項の1つに対価の相当性に関する事項が含まれています。そのため、取締役会または取締役は対価の相当性について判断すべきこととなり、かかる判断が不適切なものであれば事後的に責任を追及される可能性も否定できないでしょう。したがって、売渡株主において、法定の期間内に後述する売買価格決定の申立てを行うことが困難であると見込まれたとしても、特別支配株主に有利な時価を下回る対価による売渡請求を承認することにはリスクが残ると言えそうです。

(3) 売渡株主保護のための規定

 前述のとおり、本制度は特別支配株主による少数株主保有株式の強制買取りを認める制度です。そのため、売渡株主となる少数株主の利益が不当に害される可能性があります。
 そこで、会社法は、売渡株主の利益保護のための規定を設けています。詳細は以下のとおりです。
1.      特別支配株主に対する差止請求(会社179の7)
 手続が法令に違反する場合や対価が著しく不当な場合であって、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、特別支配株主に対して、売渡請求の差止を求めることができます。
2.      裁判所に対する売買価格決定の申立て(会社179の8)
 売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して、売買価格決定の申立てを行うことができます。かかる申立てを受けて裁判所で決定される価格は、DCF法など対象会社の将来収益を加味した価格になることが多く、一般に税務上の株価と比べて高額になることが多いと言えます。
3.      売渡株式等の取得の無効の訴え(会社846の2)
 売渡株主であった者は、取得日から1年(公開会社の場合は6カ月間)以内に限り、売渡株式等の取得の無効の訴えを提起することができます。

(4) まとめ

 以上のとおり、特別支配株主の株式等売渡請求の制度は、強制的に、かつ他の制度と比べて迅速に株式の集約を図ることができる点では、強力な制度といえます。しかし、手続が厳格に規定されており、手続に瑕疵があれば無効となり得ます。また、売買価格決定の申立てにより、株式の集約のために多額のコストが必要となる可能性が高いと言えます(非公開会社の少数株主であるから20日の短期間で申立てができないと高をくくって有利な対価を設定し、それにより強制買取りができたとしても、売渡請求を承認したことについて取締役が事後的に責任追及を受けるリスクが残ってしまいます)。
 結局のところ、時価買い取りができるだけの十分な資金がある場合を除き、現実にこの手段によるスクイーズ・アウトは現実的ではないと個人的には思います。ただし、このような制度があり、強制買取りが可能であることは事実ですので、その旨を伝えて任意の売却を促すことは交渉の手段として有効と言えそうです。

参考文献

  • 木俣貴光、松島一秋『持株会社・グループ組織再編・M&Aを活用した事業承継スキーム――後継者・税務・株式評価から考える』(中央経済社、2016年)

  • 牧口晴一、齋藤孝一『中小企業の事業承継』(清文社、2022年)

  • 江頭憲治郎『株式会社法(第8版)』(有斐閣、2021年)

  • 神田秀樹『会社法(第24版)』(弘文堂、2022年)

  • 加藤真朗『株主管理・少数株主対策ハンドブック――会社内部紛争の予防、事業承継・M&Aへの備え方』(日本加除出版、2022年)

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