スクイーズアウトについて②

 前回はスクイーズ・アウトの手法の1つである特別支配株主の株式等売渡請求の内容を確認しました。今回も引き続きスクイーズ・アウトの手法について概観していきたいと思います。

株式併合

(1)概要

 前提として、株式併合とは、数個の株式を合わせてより少数の株式とすることを言います(会社180Ⅰ)。株式併合の手続においては、併合する株式の比率によっては併合の結果として所有する株式の数が1株に満たない数となってしまう株主が生じます。このような場合、会社は端数となった株式の合計数に相当する株式を競売または売却し、その代金を端数株式の所有者たる株主に交付する処理を行うことができます(会社235)。
 このような株式併合の仕組みを利用して、排除したい株主の所有する株式が端数となるように併合比率を調整すれば、株式併合によりスクイーズ・アウトを行うことができます。

(2)手続

 具体的な手続は以下のとおりです。
1.      株主に対する通知または公告(会社181、182の4Ⅲ)
 会社は、株式併合の効力発生日の20日前までに、株主等に対し、後述する株主総会特別決議により定める所定の事項を通知し、または公告する必要があります。株券不発行会社たる非上場会社であれば、この20日間という期間が株式併合のために要する期間となります。
 他方、株券発行会社の場合、全株式について株券を発行していない場合を除き、株式併合の効力発生日の1か月前までに、株券を提出しなければならない旨の公告を行い、かつ、株主に対して各別に通知する必要があります(会社219Ⅰ)。そのため、株券発行会社の場合は通常、この通知・公告の際に上記の通知も合わせて行うこととなり、この1か月という期間が株式併合の実行に必要な期間となります。
2.      株主総会の特別決議(会社180Ⅱ、309Ⅱ④)
 上記のとおり、株式併合は強制的に既存の株主の地位を奪うこともできるものであり、株主への影響が大きな手続といえます。そのため、株式併合を実行するためには株主総会の特別決議が必要となります。かかる株主総会決議では、併合比率や効力発生日などを定めることとなります。
 また、当該株主総会においては取締役に株式併合を必要とする理由についての説明義務が課されており(会社180Ⅳ)、その懈怠は株主総会決議の取消事由となります(会社831Ⅰ①)。
3.      事前・事後の書類の備置き
 対象会社は、1の通知若しくは公告または2の株主総会の2週間前の日のいずれか早い日から効力発生日後6か月を経過するまで、また、効力発生日後遅滞なく効力発生日後6か月を経過するまで、それぞれ法定の事項を記載した書面または電磁的記録を本店に備え置かなければならないとされています(事前備置きにつき会社182の2Ⅰ、180Ⅱ、会社規33の9、事後備置きにつき会社182の6Ⅰ・Ⅱ、会社規33の10)。
4.      端数処理
 効力発生日に生じた1株に満たない端数株式は、競売または競売以外の方法により売却することとなります(会社235、234)。
 実務上、競売は煩雑で避けられる傾向にあり、基本的には会社自身や支配株主等による買取りが多いようです。分配可能額の問題や資金不足でこうした買取りができない場合に初めて競売が利用されることとなります。
 非上場会社の場合は株式に市場価格がないので、競売以外の方法による場合、裁判所の許可が必要です。また、裁判所の許可申立てには取締役全員の同意が必要です(会社235Ⅱ、234Ⅱ)。会社自身が買取りの相手方となる場合は、さらに取締役会決議によって買い取る株式の数や対価の総額を定める必要があります(会社235Ⅱ、234Ⅳ・Ⅴ)。
 かかる許可申立てがなさると、裁判所は端数株式の売却価格の相当性を審理します。そのため、申立てに当たっては基本的に会社と中立の立場にある公認会計士等による株価鑑定書の添付が求められます。

(3)株主保護のための規定

 もっとも、株式併合は前記のようにスクイーズ・アウトの手段となり得るなど、既存の株主の地位に大きな影響を与えるものといえます。そのため、以下のような株主保護のための制度が設けられています。
 まず、株主は、株式併合が法令または定款に違反する場合において、不利益を受けるおそれがあるときは、株式併合の差止めを請求することができます(会社182の3)。また、反対株主は、株式併合により株式の数に端数が生じる場合、自己の有する株式のうち端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することもできます(会社182の4)。かかる買取請求がなされた場合の買取代金は、一次的には発行会社と株主との協議により定められますが(会社182の5Ⅰ)、株式併合の効力発生日から30日以内に協議が整わないときは、裁判所に対して価格決定の申立てを行うことができます(同Ⅱ)。
 このような事前の手続に加え、株式併合のための株主総会決議に瑕疵があれば、決議の日から3か月以内に限り、決議取消しの訴えを提起することもできます(会社831)。

(4)まとめ

 以上のとおり、株式併合の手続を利用したスクイーズ・アウトも制度的には可能といえます。しかしながら、差止めや取消しのリスクを回避するためには適正な手続やある妥当な対価設定が求められます。また、端数買取りの場合に基準となる株価が高額になる可能性があり、一定の資金流出は不可避といえるでしょう。

全部取得条項付種類株式、株式交換・合併

 これまで見てきた手段のほか、全部取得条項付種類株式の取得対価を金銭とする、あるいは対価として交付する新株の交付比率を調整することによってもスクイーズ・アウトは実現可能です。また、同様に対価を調整することで株式交換や合併もスクイーズ・アウトの手段となりえます。基本的な考え方は株式併合の場合と大きく異なりません。

 以上のように、スクイーズ・アウトを実現する手段は複数存在します。もっとも、いずれの手段による場合も適正な手続が要求されることに加え、会社側はそれなりの資金流出を覚悟する必要がありそうです。M&Aなど外部の第三者が経営権の集約を図る際には有効な手段ですが、事業承継の場面においてはなるべく回避すべき手段のように思います。強制的な買取りも可能であり、最後はそのような手段も辞さないという姿勢も示しつつ、ある程度高額となっても任意交渉で買い取ることが、資金力が必ずしも十分とは言えない中小企業にとっては望ましい方向性ではないでしょうか。

以上

参考文献

  • 木俣貴光、松島一秋『持株会社・グループ組織再編・M&Aを活用した事業承継スキーム――後継者・税務・株式評価から考える』(中央経済社、2016年)

  • 牧口晴一、齋藤孝一『中小企業の事業承継』(清文社、2022年)

  • 江頭憲治郎『株式会社法(第8版)』(有斐閣、2021年)

  • 神田秀樹『会社法(第24版)』(弘文堂、2022年)

  • 加藤真朗『株主管理・少数株主対策ハンドブック――会社内部紛争の予防、事業承継・M&Aへの備え方』(日本加除出版、2022年)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?