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さようなら、EOS Kiss

2月8日、キヤノンから新しいカメラが発表された。
1つはフルサイズ機の「EOS R8」、もう1つはAPS-C機の「EOS R50」である。

EOS R8はEOS RPベースのフルサイズ機で、外観はほぼ変わらないもののマルチアクセサリーシューの搭載や電子シャッターの撮影コマ数が毎秒40コマになるなど大幅な進化を遂げた。(電子先幕は毎秒6コマ)
EOS R50はKissシリーズの後継機種となり、操作系統もシンプルにまとめられたエントリーモデル。日本におけるキヤノンの一眼カメラエントリーモデルはこれまで「EOS Kiss」を名乗っていたが、今回は何故かKissが付かなかった。

キヤノンの一眼レフを含めた一眼カメラエントリーモデルは日本では「EOS Kiss」、アメリカでは「EOS Rebel」、ヨーロッパなどでは3桁ないし4桁の数字+Dで表記されていたが、ミラーレス機に変わってからは日本で使用された「EOS Kiss」のみが残り、その他の国ではMまたはR+2桁数字で発売されている。
今回のEOS R50も、日本では「EOS Kiss R」を名乗るのでは?と言う噂が流れたものの、その通りとはならずEOS R50の名前が採用された。


そう、「EOS Kiss」の名前は事実上終了したことになったのだ。


今回、こちらではキヤノンで30年間EOSのエントリーモデルの名称として親しまれてきた「EOS Kiss」について焦点を当ててみる。


「EOS Kiss」の登場

キヤノンの「EOS Kiss」ブランドが登場したのは今から30年前の1993年のこと。この年の9月に世界最小・最軽量を謳った一眼レフカメラが登場した。

その名は「EOS Kiss」
「Kiss」ブランドのご先祖様と言える機材であり、ここを境にキヤノンEOSのエントリーモデルの名前に「Kiss」を採用するようになった。
海外での名称は「EOS REBEL XS」、ヨーロッパ等では「EOS 500」を名乗っていた。

海外名の詳細はこちらに記載しているので参照されたい。

当時はフィルムカメラが全盛期であったため、一眼レフカメラももちろんフィルムであった。エントリーモデルであるが故に簡単な操作で一眼レフでの撮影が出来るという事もあり、ファミリー層に広く受け渡った。

当時放映されていたCM。
CMの中でも女性が登場している事を考えると、如何にこのカメラが女性に受けたのかが良くわかる。


フィルムからデジタルへ

一眼レフのエントリーモデルとして成功を収めた「EOS Kiss」シリーズは、その後2004年を過ぎた頃まで製造され、フィルム時代で大きな成果を得られた。「Kiss」最後のフィルムカメラは2004年に登場した「EOS Kiss 7」である。

Kiss 7が登場する前年である2003年には、Kissシリーズ初のデジタル一眼レフカメラが登場した。

それが「EOS Kiss Digital」
630万画素APS-Cサイズ相当のCMOSセンサーを採用し、当時のキヤノン製一眼レフカメラとしては最小・最軽量となっていた。ここから「Kiss」はAPS-Cセンサーを搭載したエントリーモデルとして君臨することとなる。

当時放映されていたCM。EOS KissのCM同様、女性が同カメラを持っている姿が映し出されている事から、性別を超えて男女の区別無く幅広く支持されていたことが伺える。


あのバンドとコラボ!?

「EOS Kiss」と言えば、皆さんが一番インパクトを受けたのはこのCMでは無かろうか。

こちらは「EOS Kiss Digital N」のCMであり、登場する子供たちのメイクがアメリカのハードロックバンド「KISS(キッス)」そのものになっているのだ。

「KISS」は1973年から活動しているが、楽曲のタイトルに「地獄」が付くものが多く、一般の方から見ると引いてしまうぐらいである。
そんな感じのKISSは1979年に発表された「I Was Made For Lovin'You(邦題:ラヴィン・ユー・ベイビー)」が世界中で大ヒットを記録した。こちらの曲は先ほど紹介したEOS Kiss Digital NとXのCMにて替え歌が用いられ、KISSの楽曲が再び注目を浴びた。

私から見ると「冒険だなぁ」と思うのは言うまでも無い。本家は「地獄の使者」なのに、キヤノンは「Kiss」のブランドを加速させるために敢えてこの楽曲を用いたところが凄いと言える。
KISSの楽曲を用いたCMはEOS Kiss Digital NとXのみに採用され、後継のX2以降からは動物や歴史上の人物などが用いられるようになった。キヤノンのCMの中では群を抜くインパクトさは、今でも忘れていない。


デジタル時代でも定番商品に

デジタル一眼レフ時代のEOS Kissは、家電量販店でも人気商品のトップ3に入るぐらいに君臨していた。これはフィルム時代から続く「ターゲット層」を絞っていたことが大きな理由と言える。
お高いかつ男性的なイメージの一眼レフカメラを安価にし、今まで手に入れることが出来なかったファミリー層や女性層にも幅広く使ってもらうべくしてネーミングされた「EOS Kiss」。デジタル一眼になってからもフィルム時代同様エントリーモデルとして販売を続けている。

そんな中、2013年には世界最小・最軽量の一眼レフカメラとして「EOS Kiss X7」が登場。

これまでの一眼レフカメラは横幅が広かったが、EOS Kiss X7はデジタル一眼レフと言うこともあり、フィルム装填が無くなったため幅を狭くすることが可能になった。よって世界最小・最軽量の一眼レフを生み出すことに成功したのだ。
EOS Kiss X7はこのサイズ感と言うこともあり、家電量販店でも軒並み売れる製品となった。

デジタル時代のEOS Kissは、最小限の機能を持つX50または70、コンパクトなボディを持つX数字(X7など)、中級機に近い性能を持つX数字i(X10iなど)の3モデルが発売されている。

2018年にはEF-Mマウントの機材である「EOS Kiss M」が発売され、Kissとしては初のミラーレス機が登場。

こちらの機種もキヤノンのカメラとしては非常に売れ行きが良く、家電量販店のチラシにも載るぐらいとなっていた。


「Kiss」とお別れ

Kissシリーズ最初のミラーレス機が発売されてから約5年。RFマウントとなって初のエントリー機がお目見えした。それが「EOS R50」

この記事で「次世代のキスデジ」として紹介されている通り、新しいエントリーモデルとなっている。
前述の通り、Kiss MやM2が登場しているのだからこの流れで名前は「EOS Kiss R」となるはずであったが、まさかの「EOS R50」が採用されたのだ。

自動車業界でもマツダでかつて「デミオ」「アクセラ」「アテンザ」を名乗っていた車もそれぞれ「MAZDA2」「MAZDA3」「MAZDA6」へ、トヨタのヴィッツ(Vitz)についても「YARIS(ヤリス)」に名称変更するなど海外に合わせる形を取っている。
つまり、キヤノンのカメラにおいても海外の名称に合わせる形を取ったのでは無いかと思われる。

EOS R50は「Kiss」の名前をつける事は無くなったものの、エントリーモデルなので、実質上は「Kiss」シリーズの後継と言っても過言では無い。
ただ、親しまれ続けてきた「Kiss」の名前が無くなってしまうのは何とも言えない思いだ。


最後に

今回は「さようなら、EOS Kiss」をお届けしてきました。
それまでお堅いイメージだった一眼レフカメラを、女性やファミリー層にも馴染んでもらおうと付けられた「Kiss」の名称。その名前が付けられた途端に一躍人気商品へと駆け上がるなど、キヤノンにとっても幸運をもたらした名前だったのだろうと思いました。

「EOS R50」の登場でKissの名前はお役御免となってしまったものの、Kissで培った機能はそのまま引き継がれているので、キヤノンとしてはこのEOS R50を新しいエントリーモデルとして発売される予定。

EOS R50はKissを冠さなくても「Kiss」である事に変わりはない、私から見るとそう思いますね。
改めてエントリーモデルの名前として30年間君臨し続けた「EOS Kiss」、これまでの貢献に感謝したい。

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