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フィルムでは失敗、デジタルで一躍人気に―APS(アドバンストフォトシステム)

突然ですが、皆さんがお持ちの一眼レフやミラーレス一眼のセンサーサイズは何を使っていますでしょうか?
殆どの方はこのような回答になるかと思います。

  • フルサイズ

  • APS-C

  • マイクロフォーサーズ

この中で気になる言葉と言えば、2番目の「APS-C」。「APS」ってそもそも何なの?と思う方も多いでしょう。
今回は「APS」について深掘りしていきたいと思います。


「APS」とは?

今回紹介する「APS」はこの様な意味を持っています。


アドバンストフォトシステム
(Advanced Photo System)


「Photo System」は写真システムの事を指しますが、そこに「高度」や「進歩した」を意味する「Advanced」が加わっています。即ち「進化した写真システム」の事になるのです。
ビデオテープで言う「VHS」と「ベータ」、光ディスクで言う「HD DVD」と「Blu-ray Disc」同様、フィルムの「規格」と思って頂ければ解りやすいでしょう。

こちらの規格は1996年4月に販売を開始し、当時富士フイルム・イーストマンコダック・キヤノン・ミノルタ(現:コニカミノルタ)・ニコンの5社が賛同していました。ちなみにフィルムの規格名称は「IX240」(アイエックスにひゃくよんじゅう)となります。

この規格の特徴としては、フィルムカートリッジを乾電池のように本体へ落とし込む方式にしたこと。
従来のフィルムカメラでは、

  1. 裏蓋を開ける

  2. フィルムを伸ばし装填そうてん

  3. 裏蓋を閉める

  4. カメラ本体で撮影準備

この手順でしたが、APSではこうなりました。

  1. 本体上もしくは下の蓋を開ける

  2. フィルムカートリッジを落とし込む様に本体へ入れる

  3. 蓋を閉める

  4. カメラ本体で撮影準備

装填する際にいちいちフィルムを伸ばす必要がなくなったのが、APSの特徴でした。
カートリッジの写真については下記リンクからご覧ください。

APSフィルムはサイズが3パターン存在し、H(16:9)・C(2:3)・P(1:3)がそれぞれ販売されていました。特にCは2:3の比率なので、35mmフィルムと同じ比率となっています。Pはパノラマ写真などで利用されていました。それぞれのサイズ「H」「C」「P」についてはこの後でも取り上げますので、覚えておいてください。


APSを利用したフィルムカメラ

APS時代のフィルムカメラとしては下記の機種が該当する。

  • キヤノンEOS-IXシリーズ

  • キヤノンIXY(イクシ)シリーズ

  • ニコンPronea(プロ二ア)シリーズ

  • ニコンNuvisシリーズ

  • ミノルタVectis(ベクティス)シリーズ

  • オリンパスCenturion(センチュリオン)シリーズ

  • オリンパスNewPic/i-Zoomシリーズ

  • ペンタックスEfinaシリーズ

  • 富士フイルムEpion(エピオン)/Nexiaシリーズ

APS方式のフィルムカメラについては、特に富士フイルムが力を入れていたようで、当時Epionシリーズにて「ラクチンポンのエピオン♪」と言うCMが放映されていました。


APSフィルムの終焉、デジタル時代へ

APSフィルムはこのまま従来のフィルムに取って代わるものとなるのかと思われていましたが、


残念ながらそうとはなりませんでした。


その要因と言われているのが、「デジタルカメラ」の普及になります。
1995年頃から一般家庭向けにも販売したデジタルカメラですが、今やフィルムを抑えカメラの主流となっています。
他には、フィルムについて従来の35mm判がAPSと比較して優位に立っていたのと、カラープリンタの性能が上がった事も一つの要因とされているようですね。これらの影響を受けて、2012年までにAPSフィルムは生産・販売が終了され、終焉を迎えました。

しかし、APSはこれで終わったわけではありません。ある形で再び注目され一躍人気者になったのです。


それは、APSフィルムのサイズが
デジタル一眼カメラのイメージセンサーで使われたこと。


時は2000年。APSフィルムが押され気味となってきた時に、デジタル時代の「APS」が登場しました。

キヤノンの「EOS D30」(イオス・ディーさんじゅう)です。EOS2桁Dシリーズのご先祖様とも言える機種ですね。
このカメラで使用されていたイメージセンサーは

「APS-C(エーピーエス・シー)」

になります。

先述した通り、APSフィルムには「H」「C」「P」の3つが使われていました。しかしデジタル時代では「H」と「C」だけが残り、残念ながら「P」が使われなくなってしまいました。
さて「APS-C」と言うイメージセンサーの名前ですが、従来のAPSフィルムのCサイズに近いイメージセンサーであるためこの様な名前になりました。なお、ニコンにおいては同業他社と差別化を図るためか、このセンサーサイズを「DXフォーマット」と言う名称に変更しています。(35mmフルサイズは「FXフォーマット」)
その後キヤノンではプロフェッショナルモデルの「EOS-1D(イオス・ワンディー)」を発売しましたが、こちらでは今となっては珍しい「APS-H(エーピーエス・エイチ)」のセンサーサイズが使用されました。(現行機種は35mmフルサイズ)

APS-Cセンサーが一躍人気へと駆け上ったのは、この機種でしょう。

キヤノンの「EOS Kiss Digital」です。
EOS Kissシリーズはフィルム時代からもありましたが、この機種から一気に人気が上がったと見て良いでしょう。これがきっかけでニコンでもD4桁シリーズの販売、ペンタックスのデジタル一眼レフ機でもAPS-Cセンサーをかたくなに使ってゆく事にも繋がったと言えます。
今でも初心者やファミリー層に人気のあるミラーレス一眼「EOS Kiss M2」も、この機種が登場していなければ人気機種にならなかったでしょうね。


「APS」のこれから

フィルムとしては失敗してしまったものの、デジタルカメラのイメージセンサーに形を変えて一躍人気になるまで駆け上った「APS」。
その中でもAPS-Cセンサーはデジタル一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラの初心者向けや中級者向けのカメラのイメージセンサーとして用いられています。

APS-Cセンサーは、35mmフルサイズと比較すると約1.5倍または1.6倍ほど小さくなっておりフルサイズ機よりも「望遠撮影」が非常に有利。この事からフルサイズ機を使用している方のサブ機としてAPS-Cセンサーのカメラが利用されるケースもあるとか。
また、APS-Cセンサーのカメラはフルサイズセンサー搭載のカメラと比べると小型となり、更にAPS-Cサイズ用のレンズも小型軽量設計になることから持ち運びにも便利である。そのため常用カメラとして使用する方も。

「IX240」と言う小型のフィルムカートリッジと、簡単にフィルム装填出来る事から始まった「APS」。フィルムとしては終焉してしまったもののデジタルカメラのイメージセンサーに変貌へんぼうを遂げ、人気機種の火付け役に抜擢。「APS」と言うシステムが無ければデジタルカメラにおいてもAPS-HセンサーやAPS-Cセンサーは無かったことでしょう。


最後に

今回は「フィルムでは失敗、デジタルで一躍人気に―APS(アドバンストフォトシステム)」をお届けしました。
フィルム時代ではフィルム装填が楽であることから始まったこの「APS」、売り上げなどが思うように伸びず失敗してしまいましたが、デジタル時代にて「APS-C」「APS-H」のイメージセンサーへと変化し、特にAPS-Cに至ってはボディ・レンズの軽量化かつ人気機種を生んだと言う功績を残してくれました。

今、お手元にもしAPS-Cセンサーのカメラがあればこの記事を思い出してください。その機種が出るまでには今回紹介したような壮絶な歴史が刻まれているのです。

今回はここまで。最後までご覧いただきありがとうございました。

APS-Cセンサー搭載のミラーレス一眼カメラ、EOS Kiss M2

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