****号室、16:47


 壁。壁にひたすら書かれた羅列。羅列というのは、文字が並んでいる。縦に、縦に、横糸はない。壁にびっしりと。最小限の隙間だけが許された。壁は斜めに立っていない。壁は斜めに聳えていない。90度に囲まれた四角の空間。90度。壁は文字が書かれていることを知らない。人間は壁が無くては生きていけない。そのことを壁は知らない。生かすものは大抵殺すことが出来る。壁。襞。波打つ壁。襞。酸素も同じ、人間も同じ、関係も同じ、薬も同じ。それらと同列に語られたことを壁は知らない。共通点を見つけようとするのは人間だけ。壁。斜め。曲面。虚空。

 認識は四角い。
「認識は四角い」

 波打つ壁。
「波打つ壁」

 斜め。
「斜め」

 ここから出ることが目的だとすれば、どのような手段が必要だろうか。
 人間がたった一人なら評価は存在しない。普通は存在しない。客観は意味を為さない。比較が出来ない。この壁は高い。この壁は強固だ。それでいて、実はそうではない。壁とは、即ち。
「壁が無くては生きていけない。世界は広過ぎる。ここは狭過ぎる。私は何も変わらない。ここも、何も変わらない」

 箱庭。箱。壁。直方体。四方に壁。天井と床。重量が区別を決定する。優劣は無い。性質は異なる。しかし、ただあるだけ。あるだけ。
「ならば私は、いるだけか」

 それなら、後は私が決めることだ。