「トーベ・ヤンソンを知る」読書案内#5のこぼれ話:ムーミン翻訳本の版による献辞・解説の違い
こんにちは。
先日、連載「トーベ・ヤンソンを知る」読書案内#5 を掲載していただきました。恐れ多くも、ヤンソンとゴーリーについて書きました。
今回はヤンソンの本に書かれている献辞に着目して展開しています。
原稿を書く前の調べものの段階で、本文には触れていないムーミンの翻訳の版による違いがわかったので、記録を残しておきます。
『ムーミン谷の夏まつり』と『ムーミンパパ海へいく』の献辞
改めてヤンソンの本を確認する過程で、ムーミンの本の献辞の書き方が版ごとに違うことがわかりました。
ムーミンの小説は形式がさまざまで、単行本、講談社文庫、青い鳥文庫、新装版講談社文庫、新版、があります。2019-2020年に刊行された新版は、畑中麻紀さんによって翻訳編集されたもので、訳がアップデートされています。
ヤンソンの本の献辞はタイプされた文字がほとんどですが、『ムーミン谷の夏まつり』と『ムーミンパパ海へいく』は手書きのカリグラフィーです。この2冊は、私が持っている講談社文庫で確認したところ、本のはじめの方には献辞の記載がなく、訳者の解説に献辞が紹介される形になっています。
新版では、『ムーミン谷の夏まつり』の献辞「ビビカにささぐ」が本の冒頭に本来の献辞の形として書かれていました。なんと、これを確認した時点で、新版『ムーミンパパ海へいく』を持っていないことを思い出し、急いで注文しました(汗
『ムーミンパパ海へいく』の献辞は、原書では「Till en pappa」です。訳者の小野寺百合子さんは、この献辞を「おとうさんというものにささげる」と訳して紹介しています。ヤンソン自身の父ではなく、父という立場の人に向けられています。
入手した新版『ムーミンパパ海へいく』を確認すると、本の冒頭に「父親たる人へ」と、原書にある絵とカリグラフィーに添えて書かれていました。
「父親たる人へ」。かっこいい訳で、私はとても好きです。初めて見たときは鳥肌が立ちました!!!
訳本の種類による解説の違いも発見!
そういうわけで、献辞について文庫と新版の違いを発見したのですが、新版には訳者による解説がなく、代わりにフィンランド文学研究家高橋静男さんによる解説が掲載されているという違いもわかりました。この解説は、単行本か青い鳥文庫に掲載されたものだと思いますが、単行本・青い鳥文庫を確認してみないとわからないという、新たな課題ができました…。
私が今まで引用元にしていた新装版の講談社文庫には、それぞれの本の訳者の解説と、冨原眞弓さん(『小さなトロールと大きな洪水』やヤンソンの大人向けの本の訳者)の解説が掲載されており、また少し違います。
高橋静男さんの解説が掲載されているのは、単行本・青い鳥文庫を全部持っていない私としてはとても嬉しいですが、それぞれの訳者の解説も訳者の味があって好きなので、新版に掲載がないのは残念です。
前の訳に親しんでいるということもあり、解説も全部見返したいので、やっぱり文庫版は手元に置いておこうと思いました。本棚はぎゅうぎゅうです!
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