無題2

書評・少女ファイト

 ある漫画家が言った。漫画で大事なのは魅力的なキャラです。読者はキャラを見に来ている部分もある。
 あるゲームクリエーターが言った。ゲームや漫画のクオリティや印象を決めるのは背景です。画面の情報の9割は背景が握っている。それがあるからキャラが生きる。
 どちらが正しいか、という話ではなく、それぞれに作品の肝にアプローチした結論として見るべき至言だろう。

 大石練。小学校時代からバレーに打ち込み『狂犬』の二つ名で呼ばれていたが、あるきっかけからバレーに対し冷淡になる。
 だがその獰猛な『本性』を隠す事はできず、試合中接触事故を起こし、チームメイトとの間に亀裂が生じてしまう。
 自分のバレーは人を傷つける。自分の唯一の取り柄であり、支えであるバレーが嫌いになる。事故死した姉、真理の墓の前で泣き叫ぶ練。
 その背に、雷のように静かに声をかける女。
「生き方が雑だな」
 偶然か運命か。バレーに魅入られた少女達がつながりを見出し、ひとつの目標へ向かって闘い始める。生きている意味が全て噛み合う、その瞬間を目指して……。
 
 基本はいわゆるスポ根漫画。だが勿論それのみで完結はしない。
 そうした漫画は多くの場合、主人公の努力と成長を中心線に描かれるが、本作の主人公はいきなりレベル99くらいのバレーエリート。なれば物語として変化はないかといえばさにあらず。大石をはじめメンバーたちは『変化』していくのである。
 その比類なき強さゆえ、周囲と乖離していった狂犬。他者に依存しないと不安でならない親友と、そんな彼女を放っておけない親友。謂れなきレッテルの原因であり、恋敵でもある母との軋轢に苦しむ娘。生まれた家の名が、自身の評価を曇らせていると苛立つ子。そして狂犬と野良犬たちに喰らいつき、恋人のように傍にあろうとするド素人。
 いずれも一癖あるキャラたちが、狭く速い団体球技の世界で交わり、いつしか互いの境界線を溶かすように越えていく。その様はあまりに痛く、愛らしく、官能的ですらあるのだ。

 そしてそんな人物達を縦横に躍らせる作画もまた、本作を特徴付ける要素。
 デジタル作画の長所とも言うべき、メリハリある線で描かれる背景は、細部まで丁寧に描きこまれ、それでいながら煩さを感じない。それが白背景等の強調効果を更に高め、キャラの心情を痛いほど浮き彫りにする。
 女流漫画家ならでは……と言ったら他の男性漫画家に失礼かもしれないが、力強くも流麗なタッチは、それだけで一見の価値がある。
 
 競技のリアリティと人物の感情を余すことなく描き出した、当代バレー漫画の頂点。
 この作品を避けて通る事は、漫画ファンとして不可能である。

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