Everybody_s_Gone_To_The_Rapture__-幸福な消失-_20150813215802

雑感・Everybody's Gone to the Rapture -幸福な消失-

 ゲームの中に世界を作り、そこである程度の自由を保障するスタイル。いわゆるオープンワールドやサンドボックスに連なるレベルデザインは、その世界が主役である故、ステージの作り込みがそのままゲームの面白さを左右する場合があった。
 ゲームがBDに乗り、精細な画像をリアルタイムで描けるようになると、開発者達はいよいよ本格的に鎬を削り始める。メーカーが、デベロッパーが、ゲームエンジンが、世界をその中に描こうと躍起になる中、ひとつの作品が話題を攫っていった。
 元は傑作FPS『HALF LIFE 2』のMODとして生まれたアドベンチャー『Dear Esther』
 登場するやその世界観、空気感、ゲーム性が話題を呼び、数々の栄誉に浴したそのゲームを生んだ開発社「The Chinese Room」が、CRY Engineを駆使してPS4の本気を引き出そうとしている。

 イギリス、シュロップシャー。山あいに佇む村、ヨートン。1984年。
 小高い山と田園風景に包まれた明媚なこの村に、ある異変が起きた。
 家から、畑から、道から、教会から、診療所から、キャンプ場から。あらゆる場所から人が消えたのだ。
 大規模な災害の跡も、何者かに襲われた形跡もない。つい先刻まで、そこで人々が暮らし、語らい、タバコを片手に休んでいたかのように、ただ人間だけがその村から消えていた。
 あなたはこの村を歩き、村に起きた日常と疑念、愛情と裏切りの記憶を辿ることになる。
 なぜ、人は消えなければならなかったか……。

 ゲームは終始一人称視点で進行する。が、一切の武器やアイテムは持たず、ゲーム中障害や敵となるキャラは一切登場しない。
 プレイヤーができることは、歩き、ドアとを開け、時々スイッチを押し、あとは……あれは何と言えばいいのか……何かに合わせる?それだけだ。
 なので本作に、アクションゲームのような達成感やパズルのような目的を求めると、ちょっと拍子抜けするだろう。本作はいわば、村じゅうに散らばった「物語」の断片を拾い集めて読む、体験する小説のようなものなのだ。
 もちろん条件さえ満たせば、エンディングにたどり着くことはできる。だが散らばった物語は数多く、物語が起きた地点に行けばいつでも見られるので、見る順番は特に決められていない。
 またすべての要素を集めなくてもクリア可能なので、クリアできたからといって、この村の物語をすべて知ったとも限らないのだ。
 個性的なゲームなので想像しずらいかもしれないが、ショートストーリーの冊子が何冊かバラバラになったような本を想像してほしい。すべてはこの村で起きたことを語っていて、時系列にまとまってこそいないが、何冊か読んでいくと前後関係が理解でき、決められた何作かを読むと終幕の本が渡される。そんな仕組みだ。

 そしてやはり特筆すべきはグラフィック。遠くやや霞む山、木漏れ日が霧に描く白線、ややくすんだ白壁の家、アスファルトを濡らす雨、清らかな小川、なぜか其処彼処にある血痕。すべてがこれでもかと言わんばかりに描きこまれ、静寂に支配された山村の「空気」を見事に描き出している。
 これを眺めながら、気に入った風景のスクリーンショットを撮るだけでも楽しい。

 ゲーム内容を絞りきったインディーズ的デザインを、当代最高クラスのグラフィックで彩った、新感覚ストーリーウォークゲーム。
 これからの季節、夜長のお供にいかがだろうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お気に召しましたら投げ銭をお願いします


ここから先は

11字

¥ 100

サポートお願いします。励みになります!