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PLAYFULに行ってきた

 こんな噂を耳にした。
 ある高校に3Dプリンターが導入された。生徒たちの創意を育む授業が始まると思われたが、活用されず埃をかぶってしまったという。
 生徒たちが見向きもしなかったのかと思えばさにあらず。教員たちが操作法を覚えるのに時間がかかり、カリキュラムに組み込むことができなかったそう。
 この話を聞いた時、実にやりきれない思いがした。幼児を相手にしてるわけでもあるまい。起動と終了と禁止事項さえ押さえれば、あとは意欲ある生徒たちが勝手に覚えていくだろうに、と。

 インダストリアルデザイナーの山中俊治教授が教鞭をとる、東京大学生産技術研究所山中研究室のプロトタイプ展示会『PLAYFUL』に行ってきた。

 東大に山中研究室が開設されて2年。生み出された数々のプロトタイプと、以前着任していた、慶応大学湘南藤沢キャンパスの学生たちの作品を集めた、山中教室の研究展である。

playful /pléɪf(ə)l/
形容詞
1 〈人動物が〉ふざけたがる, いたずらな; はね回る
▸ a playful kitten
じゃれる子猫.
2 〈言動などが〉ふざけた, 陽気な, 冗談半分の.

 と、辞書にある。デザインを専らにする東大の研究室が、いたずらやら冗談半分とはこれいかに?と疑問を抱えつつ、私自身三度目となる駒場キャンパスへ足を運んだ。
 山中研究室は、デザインを研究する手段として、AM(積層造形)技術やチタン素材など、他の研究と親密にコラボレートしてきた。その集大成が見られるとあって、会場は多くの学生や家族連れで賑わっていた。

 どんな複雑な形状も、旋盤や鍛造や鋳物などより、遥かに容易に成形できるAM技術。その特性を生かし、製品のプロトタイプを作るのに利用する企業は少なくない。
 だがここに展示されていたのは、ばね状に作られたトカゲや、トゲを切ったようなキューブ。きしめんを巻いたようなグリップに、ミニチュアの人間の脚など、さて一体これは何をするためのものなのだ?と、小首を山程傾げるものばかり。はたして天下の東大は、最新技術を駆使しておもちゃ作りに勤しんでいるのだろうか?
 そんな謎に一つ合点がいったのが、コイルと磁場の模型を見た時だった。
 生徒が自分で好きに描いたコイル台を成形し、それに砂鉄を敷いてコイルを巻き磁力を発生させる。砂鉄はコイルの生む磁力線をなぞり、思いもよらない線を描く。それを見ることで、磁界の姿とその干渉する様を手に取るように見られる。ということはその逆。描きたい線にあわせてコイルの配置を考えて作る、なんていうことも出来るはずだ。
 そう、ここで行われていたのはまさにそういったことなのだ(たぶん)。目的を持って自由に扱うことで、その発端と過程、そして結果を自在に思い描ける。
 山中研究室のプロトタイプとは、商品の試作品のことではなく、発想と創造のデモンストレーションなのだ(おそらく)。

 だとすれば、会のタイトルも頷ける。並べられた作品のほとんど……こと缶につける脚など、悪ふざけもいいところだ(失言)。しかしいざそうしたものを街に置き写真に収めると、その脚が何やら暗示やメッセージを放ち始める。これをもし有名人の脚をかたどって作ったら?などという想像も楽しい。
 真剣に遊ぶと、それは何かをもたらす。まだ完成されていないジャンルなのだから、正道など誰も知らない。あれやこれやと跳ね回ってる間に、すとんと腑に落ちるような手段や構造を見つけること。
 彼らの研究の目的は、そこにあるのだと思う。

 自由とは、時に暴走や迷走、逆戻りをしてしまう。だが研究され整理され体系化された自由は、かくも面白いものを出力するらしい。
 3Dプリンタのみならず、埃をかぶっている教材や資料をお持ちの指導者諸氏は、一度こういう考えに依ってはいかがだろうか?


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