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雑感・THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦

 思ったほどの興奮はなく、冷静にこの原稿を書きだしている。
 そこに野明や遊馬がいないからだろうか?それとも真新しさを感じるには、私が年を取りすぎたからだろうか?
 だがこれは間違いなく、二十年前、武蔵小金井の踏切をレイバーが渡るパイロットフィルムの誕生から、我々が待ちに待ってまた待った、実写版の完成なのだ。

 東京に戦争を演出するという目的で実行された、柘植行人の騒乱。事件解決に立ち上がった初代特車二課メンバーは、責任不問とされるも離職。彼らを率いた後藤、南雲両名は、その後消息を絶つ。特車二課存続の保険として、明かされれば警備部を巻き込みかねないという「遺産」を残して……。
 それから11年。首都の安寧を破るように、レインボーブリッジが爆撃される。それは三日前、訓練中に強奪された、見えない戦闘ヘリ『グレイゴースト』によるものだった。
 再び首都に迫る悪夢の予兆。特車二課は、今度こそ奴らに追いつけるのか……?

 昨年からスタートしたドラマシリーズに続く、TNGパトレイバーシリーズの完結編である。正直に結論から書いてしまえば、あと20分やってほしかったというのが本音である。
 ドラマシリーズは全7章12時間に及ぶが、本作は94分。尺の長さがそのまま映画の充実度に繋がるかといえば否だが、少し物足りない印象を受けた。
 こと劇場版パトレイバー2作品で描かれた、犯人のバックボーンに関する描写が余りに少ない。必要ないと割り切ったにせよ、制作側が狙ったという「新しいファン」は、これではついていけないのではなかろうか?
 各隊員の人物像も、本作のみではあまり迫れない。本当にこの一本で楽しませるのなら、もう少しヒトに迫る時間を取っても良かったように思う。
 それを除けばほぼ完璧。劇場版2を彷彿とさせまくる構成も、後藤田と公安の高畑とのやりとりも、警官っぽさのない二課の面々も、レイバーのバトルも、色のない東京の風景も、それらすべてを包む川井憲次の音楽も、どこを切っても我々が望んだ実写パトレイバーのそれである。

 そもそもパトレイバーという作品自体、我々の住む日常の風景のその向こうに、レイバーという作業用ロボットを配するという構図で描かれてきた。
 ガンダムやマジンガーZとは違い、ロケーションには困らない。あとはそこで動かすレイバーさえ解決できれば……と、多くのファンとスタッフが夢想したことだろう。
 しかしロボットをガチャゴチョ動かしてばかりではパトレイバーではない。もう一つの魅力、キャラクターが普通すぎる公務員であることが重要だった。
 それを描くため、今回はドラマシリーズという体裁が取られたのであろう。全7章たっぷり使って、三代目特車二課のより過酷になった日常が描かれ、キャラクターのバックボーンが浮き彫りにされた。
 そうした予習があると、本作の見え方はかなり違うだろう。

 手放しに喜んでいないので、些か否定的な文章に見えるかもしれないが、私は大変満足している。パトレイバーの……否、押井映画の文法は遵守され、カッコいいレイバーをカッコよく撮り、綺麗な女優さんを綺麗に撮り、水側から見る東京を無機質に撮ってくれた。あの橋が出ていたら拍手していたかもしれない。
 ただ、ご新規さんを満足させるつもりなら、二十年のブランクを埋める20分があっていいなと、通ぶった物言いがしたくなる点もあった。

 東京を舞台にロボットの警察官が暴れ回るという、誰が聞いてもアニメにしか聞こえない世界観を、本気で実写に落とし込み、きちんとパッケージした、奇才押井守の骨頂。

 二十年目の青年たちも今の青年たちも、彼の時代に生まれてしまった者なら、まず見てから話をしよう。

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