【ロック名盤100】#58 Bruce Springsteen - Born To Run
今回紹介するのは、ブルース・スプリングスティーンが1975年8月にリリースした「Born To Run」(邦題は「明日なき暴走」)だ。ブレイクスルーとなった本作は批評的、商業的に大きな成功を収めたアルバムであり、彼のディスコグラフィのなかでも最高傑作との評価がされている。ジャンルとしてはハートランド・ロックと呼ばれるものに分類され、アメリカのストレートなロックンロールを70年代のテイストでやったという感じだろうか。他にもトム・ペティやボブ・シーガーなどのアーティストがいるが、情熱的で真っ直ぐなかっこよさを持っているとして人気なのがスプリングスティーンというわけだ。
希望があり元気な曲調の裏にはアメリカという国に対する失望についての詞があり、アメリカの若い世代の心をうまく捉えた世界観となっている。カウンターカルチャーとして多くの人の心を突き動かさせたエネルギーが作品から伝わってくるのではないだろうか。スプリングスティーンの情熱的な歌唱やバンドの演奏(彼のバックバンド「E・ストリート・バンド」によるもの)から沸々と湧き上がってくるロックンロール魂が強く感じられる。一方で70年代ぽく壮大なムードも漂っていたり、曲もポップさがしっかりあったり、たしかにこれは売れるでしょうね、と。
1 Thunder Road
2 Tenth Avenue Freeze-Out
3 Night
4 Backstreets
5 Born to Run
6 She’s the One
7 Meeting Across the River
8 Jungleland
1曲目「サンダー・ロード」はピアノとハーモニカが作るムードのある序盤から始まり、時間が経つにつれて盛り上がっていく名曲。明るいロックのはずが、どこか憂鬱感があるのはなぜだろう。美しくも儚いメロディに起因するものなのか、ともかくよくできた曲だと思う。
そして、本作の最大のハイライトは表題曲の「ボーン・トゥ・ラン」。ブルース・スプリングスティーンの代表曲にしてロックを象徴するアンセム。ロックンロールとともに歌われる「俺達流れ者は突っ走るために生まれてきたんだ」というメッセージにはパワーがみなぎっている。
ラストを飾る「ジャングルランド」はまさに壮大なオペラであり、アルバムの力強さを最後まで保ったまま幕を閉じる。本作はこの3曲が特に重要なナンバーだと思う。ちなみに僕のフェイバリットはオルガンのイントロと魂のこもったボーカルが印象的な「バックストリーツ」だ。
メッセージや情熱、ロックンロールに対する姿勢の部分の評価で自分の中では完結してしまっていた印象があったが、今回聴き直してみてスプリングスティーンのソングライティング能力———メロディの美しさや曲の構造の部分にも注目すべき点がたくさんあることに気づかされた。あとはこの記事で何回も言っているが、スプリングスティーンのボーカルの凄まじさも特に強調したい部分。ロックのスタンダードの傑作として、ぜひこのアルバムに触れてもらいたいと思う。
↓「ボーン・トゥ・ラン」