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俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。

俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。

三年ぶりの帰省の出迎え役は、駅舎内に所狭しと張り出された見慣れぬゆるキャラ。我が村の名産品と炎を掛け合わせたゆるキャラは、牛の赤坊が男の子、トマトのほの香が女の子だそうだ。
最寄駅から実家の村のある役場までのバスに乗り込む。乗車率は七割ほどか。いつぞやは廃線の話題まで出ていたのに、今では土日に増発もされている。景気のいいことで。

元々、聖火安置の場所は最上級の機密になる予定だった。
各関係者が言う「聖なる炎を置くに相応しい場所」で条件を絞り込んでいったところ、俺の実家、厳密には俺の一族が所有し、兄が二、三十年後に相続する予定の山の頂しかなかったらしい。
農家をやっている以上、東京やギリシャ、スイスに行けるわけもない。なので、俺の実家の応接間にて前代未聞のプロジェクトは進行したのだが、それが仇となった。ぞろぞろ列を成して寒村を訪ねる高官、神官、その他諸々なんて、目立たないハズもない。東京から追いかけてきた記者と村の若者のヌルすぎるSNSリテラシーの二正面攻撃によって、政府が安置予定県を発表するより先に村が特定されてしまった。

特定からは、済し崩しだった。何と言っても、文字通りに聖地である。せめて山に客やマスコミが殺到しないようにと急造された村役場の神殿には日々参拝者が訪れる。
世界中のアスリートは駅から村役場までの20㎞をトレーニングコースとして活用した。一般人はバスを使い、スポーツ、勉学、恋愛、商売、その他あらゆる願いを聖火に捧げ、聖火カプレーゼ定食を食って帰った。

「……下らねぇ」

俺はぼそりと、車内の誰にも聞こえない声量で零す。
ウチの村は名産は乳牛だ。雄牛なぞ種牛にするか、その役を終えれば安い肉にするかだが、こいつらは知っているのだろうか。
半年後には聖火はこの村を離れ、東京を目指す。彼らもきっと、それを追って去りこの村を忘れるだろう。千載一遇のチャンスを毎日浪費していることを村役場の人間は自覚しているのだろうか。

答えは、否だ。誰も彼も、一瞬の熱に浮かされているだけだ。聖火に身を焦がしているだけだ。
ならば、俺がやるしかない。聖火を戴く家の人間として、一度は村を捨てた人間として、この村を一過性のブームに終わらせない。
スポーツの祭典の前に、故郷の再生といかせてもらう。俺は、聖なる煙をたなびかせる実家の山を見つめて誓った。

なんなのこれ

#聖火安置コン チェックナウ!

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