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第5話 ムサシの件

←第4話 バンドをやろうっ!


 2日たった放課後、愛さんが言ったムサシローンとやらで購入したドラムセットと4機のマイクとアンプ。キーボード、そして何故かみやび先輩のギターが部室に運ばれていた。

 ムサシさんの実家は界隈トップの不動産デベロッパーの会社らしく “ お金に困ったらある時払いのムサシローン ” というのはオカカルの慣習らしい。

 普段はせいぜいオヤツ代やカラオケ代程度みたいだけど、審査がムサシさんなのだらウカツにはという感じだろう。だってスーツとか着ていたらもはや闇金だものムサシさんって。

「いやぁ、歌うだけだとさぁ、何か手持ちが豚さんじゃない。もぉー、ちゃんと弾けるようになるからさぁ愛ちゃーん」

 将来の部費から半額出すけれど楽器は個人の所有物という話だったからだろう、弾けもしないのに20万円のギターとは何事だと愛さんはまた眉間にシワを作ってまくし立てていた。

 ブタさんのシールとか貼っているし、ボディのオレンジ色が映えてなんだか可愛いぞ、みやび先輩。レスポールかぁ……先輩小柄だから大丈夫かなぁ。でも先輩が弾けるようになったら私がストラトだからちょうどイイのかっ。

 小競り合いを眺めながらそんな事を考えていたら、とつぜん身体中を水で叩かれたような感覚に襲われた。

 え……? と視線を向けると意外にも意外にも、フタを開けてみれば圧倒的だったのはムサシさんの存在感だったのだ。

 激しい拍子を数時間打ち続ける祭り太鼓の名手で、子供相手とはいえ格闘技の師範を務めているムサシさんの腕力が振り下ろすドラムの音圧は背筋どころか失禁あやういレベルだ……ムサシさん何でお嬢様学校なんかに入ったんだ? まぁ性格はチャーミングだと思うけど。

「左足のリズムってのは難しいなぁ……ん、どしたお前ら? アホな顔してっ」

「……こ、これは選曲が大切ね。初めてよ、こんな音圧で叩く人なんて」

「えぇー、私演歌しか歌えないよぉ愛ちゃーんっ」


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少しだけ愛をください♡