第6話 覚醒
ーー学園祭まであと2週間。
期間中は生徒や学校関係者からのチケットを購入すれば誰でも校内を観覧できるシステムになっていて、1人分500円のチケットに5枚の投票券がついている。それをたくさん集めた文系部が多くの予算と取れるという事らしい。
昨年は1000枚を越える販売だったというのだから、それなりに人気のある学園祭なのだろう。
我がオカカル部の部長は、来客の年齢層も考慮しなくてはと演奏する曲目に思案を巡らせていた。
誰も知らない曲よりは浸透したヒット曲の方が有利だし、かといってムサシさんのドラムが目立てるような、いわゆるハードロックは昨今の流行りじゃないと、眉間にシワを作っていた。
毎度おふざけ半分で演歌しか歌う事のなかったみやび先輩はホントに大丈夫なのかというのも悩みのタネらしい。
だけどおふざけ半分なのに毎回毎度95点以上を叩き出すって……しかも演歌でですよね?
「だったらさぁ、愛ちゃん。流行りの曲の間奏部分だけアドリブでハードロックにしちゃえばいいんじゃない?」
『……え』
ほら、こんな感じでと、みやび先輩がギターを鳴らした……えっ、弾いた事ないんじゃなかったんですか? アドリブでアレンジなんてちょっとしたセミプロがやる事ですよそれ。
「小夏ちゃんが可愛くて可愛くて、買ってからずーっと触ってたら鼻歌で一緒に歌えるようになったんだよぉ。……えっ、コード? な、なんといいますか、そんな言葉は存じ上げませぬ」
「おぉー、たまにはイイ事いうじゃないの、みやびぃ。それならムサシのソロとかもありだものね。じゃぁ流行りの曲を私がテキトーに間奏アレンジして楽譜作るよ」
「えぇー、楽譜読むなんて無理だよぉ、録音してきてよ愛ちゃん。あとあとぉー英語がいっぱいも無理だからねっ」
ノリノリで笑っているけど……愛さん、みやび先輩の異常さに気が付いていないの? ……聞いていたら分かる、あのレスポール、チューニングが合っていない。
いや……ある意味合っているんだ、これが自分の音だとでも言わんばかりにみやび先輩は感覚だけで全部の弦を半音落としている。
絶対音感はないけれど、相対音感がズバ抜けているとか? ……もしかして、とんでもない記憶力の持ち主とか?
だけど成績はホームラン級の最下位だって言っていたしなぁ……でもそれならどうして合格できたんだろう、この学園に。
み、みやび先輩って……いったいどういう
ちなみに小夏ちゃんというのは、みやび先輩が好きなフルーツで、ギターと同じオレンジ色だからと名付けてみたらしい。
少しだけ愛をください♡