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考えすぎ歌詞考察『ブルームーンキス』(『風に吹かれても』・『桜月』)

『ブルームーンキス』は櫻坂46の1thシングル『Nobody's fault』(2020)のカップリング曲です。
秋元康さんのことがあまり好きではない筆者からすると、歌詞だけで言えば欅坂時代から合わせてトップ5に入るキモさですが、妖しくも可愛らしく歌い上げるメンバーのコンセプト消化力には脱帽です。
先日行われた「櫻坂46 7th Single BACKS LIVE」で3期生の石森璃花さんがセンターを務めたのが『ブルームーンキス』。1月16日回の配信を観た筆者は、その振り切った小悪魔ぶりにすっかりやられてしまいました。今回は改めて、この曲の主人公の犯行を暴いてみたいと思います。その中で表題曲『Nobody's fault』や『無言の宇宙』、『ブルームーンキス』と対照的な『風に吹かれても』・『桜月』の歌詞にも触れながら検証していきます。
あくまで筆者の妄想ですが、しばしお付き合いください。


論点

  • 犯行の計画性について

  • 月が意味すること


登場人物

  • 僕(以下「僕」):本曲の主人公。被疑者。

  • 君(以下「君」):被害者。


歌詞

ブルームーンキス
そんな顔をして見つめないで
ブルームーンキス
驚かせちゃってごめんなさい

今夜は月が綺麗だった
だからとても人恋しい
僕は君の肩を抱いて
ふいに盗んだ唇
言い訳をするのは見苦しい
この瞬間[とき]をずっと狙ってた
正直に言えばよかったけど
愛しさは臆病な感情
脆いガラス細工のように
「あ、キスしちゃった」
風が吹き抜けて辺りがし~んと静まった
なんて気まずいんだろう ぎこちない2人
この空気が怖かったんだ
しなければよかったって
反省してしまうくらいなら
あのまま送るべきだった
こっちの道 遠回りで
こうなるって予測できた

フルムーンキス
どういう顔すればいいのだろう
フルムーンキス
何[なんに]も言わずに歩き出そうか

本当[ほんと]は確信犯だった
ずっとプラン練ってたのさ
急に思いついたような
用意周到な案
それくらい何度も想ってた
柔らかな感触と温度
愛しさは身勝手な想像
なんて儚い一瞬の夢
都合良すぎ僕の逡巡
「あ、こんなに好き」
胸のこの鼓動こんなに昂[たか]まるものなのか
きっと聴かれてしまった 焦ってる感じ
カッコ悪い 落ち着かなさ
取り繕ってみたって
もう今さら手遅れかもね
恋人になれるかな

今何か話さなきゃ
このまま黙ってたら最悪の日になる
冗談を言いたいけれど
ロマンティックすぎて何も浮かばない
ブルームーン

胸のこの鼓動こんなに昂[たか]まるものなのかきっと聴かれてしまった 焦ってる感じ

風が吹き抜けて辺りがし~んと静まった
なんて気まずいんだろう ぎこちない2人
この空気が怖かったんだ
しなければよかったって
反省してしまうくらいなら
あのまま送るべきだった
こっちの道 遠回りで
こうなるって予測できた

以下、歌詞の引用は〈〉で表記します

言い逃れはできません。騙し討ちですね。いわゆる送り狼です。

語句注釈(出現順)

ブルームーン
ブルームーンの定義は2つあるようです。①4か月をひと季節としたとき3番目に現れる満月のこと。②ひと月の中で2度目に現れる満月のこと。定義①だと年に4回、定義②だと年に1回あるかないかの頻度になります。
めったにない出来事を表す"once in a blue moon"ということわざもあるように、ブルームーンは珍しい現象として知られています。

月が綺麗だった
"I love you"を何と訳すか尋ねられた夏目漱石が「『月が綺麗ですね』とでも訳しておけ」と答えたというのは有名な逸話です。
これは漢字で言えば当て字のような、洒落のきいたやっつけ意訳で、言ってしまえば隠語のような言い回しです。分かる人同士でなければ分かり合えない愛情表現なので、「月が綺麗だね」「そうだね」という会話で相手の気持ちを測るのは大変危険です。

ふいに盗んだ唇
「僕」から「君」にキスをしています。〈唇〉で体言止めをすることによって、それまで2人を映していたカメラが一気に口元までズームアップします。

風が吹き抜けて
櫻坂46の前身である欅坂46には『風に吹かれても』という楽曲があります。この曲は、友達以上恋人未満の相手に対し、チャンスのような瞬間が訪れても特にアプローチをかけることなく、関係を白黒はっきりさせなくても楽しく付き合っていけるという考えを歌ったものです。『ブルームーンキス』と対照的な思考パターンですね。筆者はあくまで欅坂46と櫻坂46はパラレルワールドだと考えているので、この2曲も分岐後のアナザーストーリーのように捉えています。
『風に吹かれても』は風に「吹かれて」います。主人公たち2人ともに風に当たっているのです。隣りにいる相手の髪が風にそよいで魅力的に見えたのかもしれませんが、それ以上の出来事は起こりません。「もっと親密になれたら嬉しいけれど、相手も同じ気持ちか分からないからこのままでいよう」という考えを、小心者と笑うのは軽率です。〈何も始まらない〉のは必ずしもネガティブなことではなく、風が吹いた程度では揺るがない強い関係という見方もできます。
『ブルームーンキス』では風が「吹き抜けて」います。どこを吹き抜けるか、それは2人の間です。つい数秒前まで唇が触れる距離にいた2人の間に、隙間を作るように風が吹きます。「僕」はその時に初めて、「君」が同じ気持ちではないかもしれないことに思い至ります。つまり、風が吹いたことで2人の関係性は変わってしまうのです。

し~ん
「〜」がなんとなくキモチワリュイ。

こっちの道
目的地まで遠回りをしたという供述ですが、おそらくただ時間を稼いでいたわけではありません。人通りの少ない道を選んでいたと思われます。
また、このルートはこうなったけどあのルートもあったという分岐点を意識させる言葉でもあります。

急に思いついたような
「僕」は「君」にキスをするタイミングをずっと見計らっていたのに、そんなにずっとキスのことを考えていたとは悟られたくないようです。カッコつけようとしているのであれば姑息だし、何も考えずキスをしてくるような相手と真剣な恋愛ができるのかと不安を与えかねない態度です。

用意周到
意味は「物事の用意が手抜かりなく行われているさま」です。「僕」はキスをした後の振る舞いを全く用意していなかったので、キスをすることだけに備えていたのでしょう。自分で「用意周到」と言い切ってしまうところに滑稽さを感じます。

最悪の日
誰にとって?

冗談
どんな?

ロマンティック
意味は「現実離れした美しいさま」です。「僕」の目に見える世界が美しいのは月と「君」のおかげです。「僕」は何かを発揮するどころか、心ここにあらずであることが分かります。

歌詞いじりはこの辺にして、本題に入ります。


考察

犯行当夜、現場からは月が綺麗に見えていました。その月が満月かどうかは供述がありません。便宜上、曲名通り「ブルームーン」だったという想定で話を進めます。
近年で定義②のブルームーンが観測されたのは2018年3月31日、2020年10月31日、2023年8月31日です。

犯行の計画性

「僕」はいつから犯行を計画していたのでしょうか?〈この瞬間をずっと狙ってた〉〈ずっとプラン練ってたのさ〉とありますが、どれぐらい前から「ずっと」なのでしょうか?
「君」と歩き始めた時?「君」を送ることになった時?今日「君」と会う約束をした日?
結論から言うと、数年前から企てていたと筆者は考えます。

『桜月』のその後

その理由を検証するため、『桜月』(2023)の歌詞を参照したいと思います。

こんなに誰かを好きになったこと
今までなかった そんな気がするんだ
自分が傷つくことより 
君を傷つけたくないって 思い込んでしまった
最終のバスを待ってる間
そのタイミングは何度あっただろう
寒さも感じないくらい
僕たちは向き合ってたのに・・・
“もしも”なんて何の意味もない
ああ 卒業式まであと何日?
その日から何が変わるって言うんだろう?
ただ通う場所が変わるだけで
新しい友達が増えるだけで
まだ 大切な何かを 残したまま
大人と呼ばれてしまう

君を想う桜 風に吹かれて
心の中を舞い上がる
せめてもう少し満開でいてくれたなら・・・
どんな好きでいても 季節は過ぎて
あっという間に 散り行くもの
あの日は 桜月
トュルルル トュル
トュルルル トュル ルルル
トュルルル トュル
トュルルル トュル ルルル

僕が今ここで夢を語るのは そう
他の言葉 口に出しそうで・・・
愛とは身勝手なボール
投げれば自分だけは楽になる
そんなことできない
東京へ旅立つ決意を聞いて
君の背中を押したくなった
いつの日か笑顔の嘘
あれでよかったと思えるだろう
甘酸っぱい青春

何カッコつけてんだろうって
もう一人の自分が呆れてるけど
せめて そう君を思い出した時
そんな美しい恋だったと
独りよがりでもいいから
見送った僕を褒めてあげたい

ずっと咲き続ける花がないように
こうしていられないのなら
どうやってキレイに散ればいいか考えたんだ
空に舞い上がって ただひらひらと
何度も思い出せるように
名残惜しく ゆっくり落ちて行け

そっと気づかれないように
僕は瞼を閉じながら
君のその声 耳を傾け
記憶の中残そうとした

暗い夜空の先 確かに今も
満開の桜が見える
あの花は僕が大好きだった人だ
大人になって
夢や希望が思うようにならなくなっても
あんなに美しい散り方ができたらな

君を想う桜 風に吹かれて
心の中を舞い上がる
せめてもう少し満開でいてくれたなら・・・
どんな好きでいても 季節は過ぎて
あっという間に 散り行くもの
あの日は 桜月
トュルルル トュル
トュルルル トュル ルルル
トュルルル トュル
トュルルル トュル ルルル

トュルルルは文字で見ると少しキモチワリュイけど、とてもいい曲です。

『桜月』の「君」は高校3年生、「僕」はおそらく後輩でしょう。大学進学/就職に対する現実味がなさすぎます。
『Nobody's fault』のリリース2020年、『桜月』の2023年を軸にすると、2018年に高校3年生だった「君」は2020年に20歳、2023年に23歳になります。リリース順では入れ替わっていますが、筆者は『ブルームーンキス』を『桜月』の後日談として読み解きます。

2018年3月の1回目の満月は3月2日でした。
「僕」は2018年3月2日、満月の下に咲き誇る桜を「君」と見ていました。バス停で何本もバスを見過ごしながら語り合っていたのです。
桜の花びらが風に吹かれて舞い上がり、「君」の愛らしいおでこと耳が露わになります。向かい合った艷やかな唇を見ていると吸い寄せられそうで、この2人きりのベンチならそれもできてしまいそうに感じられました。でも、それが「君」を傷つけてしまうかもしれないと思った「僕」はただそっと寄り添い、「君」が紡ぐ言葉を心に刻むことを選びました。
恋心の代わりに「僕」は「君」に夢を語りました。その気持ちに応えるように、「君」も自身の夢を打ち明けてくれました。最終バスに乗った「君」が最後に見た「僕」は、見送ってくれた笑顔か、バスが発車し天を仰いだ苦い表情か…。

卒業式を終え、「君」が通うことのなくなった学校のグラウンドで「僕」は野球に明け暮れていました。すれ違うことのないキャッチボールが心地良く、寂しさを忘れることすらできました。

3月31日、練習帰りにふと空を見上げると、そこには満月が昇っていました。昨日のように蘇る「君」を見送った日。あの日も満月じゃなかったか?そこで「僕」は、ひと月に2回目の満月「ブルームーン」があることを知りました。次のブルームーンは約2年半後。「僕」はあることを決意しました。次のブルームーンが昇る日に「君」とまた一緒にいること。

「君」のことを想い続けた「僕」は、地元を離れて東京の大学へ進学しました。
日ごとに増す恋心は、胸に刻んだ記憶すらも歪めていきました。思い出すのは「君」の声よりも、髪、目、鼻、そして唇。あんなに近くで見つめ合っていたのに、なぜ一歩踏み出さなかったんだろう?「君」もきっと「僕」に好意を寄せていたはずなのに…。

そして2020年の秋も深まった頃、「僕」は「君」と再会するチャンスを得ました。この日しかない。人々が群れることを忌むご時世、2人きりになるのは容易なことでした。

そして犯行当日。「君」を送る流れを作り、2人きりで歩き出しました。「こっちに行ってみようよ」と無邪気なふうを装って、人通りの少ない方に寄り道していきました。あの日と同じ、並んで座れるベンチに腰かけて向かい合った2人。昼間は半袖で過ごせるような暖かさでも、夜は涼しい風が吹く頃でした。改めて見る「君」は少し大人っぽく、「僕」の知らない香りをまとっていましたが、それでも愛らしい笑顔はあの頃のままでした。あの頃より艷を増した唇に、「僕」は吸い寄せられました。

「あっ、キスしちゃった…。」
ふと「君」の顔を見ると、想像もしていなかったような驚きと困惑の表情を浮かべています。その瞳が「僕」の間違いを物語っていることに気づき、「僕」は視線を合わせることができません。「君」が何か言おうとしているけど、怖くて耳を傾けることができない。「君」の儚い声は、吹き抜ける風の音にかき消されていきます―――


月が意味すること

〈月が綺麗だった だからとても人恋しい〉と月を見て発情する「僕」はさながら狼男です。
「君」との関係が後戻りできなくなり困った「僕」が天を仰いだ先には満月があります。ロマンティックすぎるその月にすがるのか、罪をなすり付けるのか。〈何も浮かばない ブルームーン〉という言い回しから「助けてド◯えもん」のような悲壮感も受け取れます。

ここからは、曲の主題として「ブルームーン」が持たされた意味を探っていきます。
ブルー」といえば『Nobody's fault』の〈知らぬ間に汚れちまった空は 宇宙が見えないブルー〉という歌詞です。空が青いことを、汚れていると表現しているのです。裏を返せば、宇宙が見える状態が美しい空だということです。地球上で宇宙を見ることができるのは夜です。夜空が青いことを想像すると、不自然さを了解できますね。

櫻坂46で「宇宙」といえば『無言の宇宙』でしょう。心の通った恋人同士が何も言わず見つめ合う美しさを歌った曲です。歌詞には直接〈表情の中の宇宙には 意味を持って輝く星がある〉と言及している部分があります。
相手の表情から考え/感情を探るのは、無数の星の中から1つを見つけるように難しいことです。しかも、正解は分からないことがほとんどです。だからといって諦めて、自分だけの色眼鏡をかけて相手を見てしまうと、本当なら気づけたかもしれない考え/感情すらも見逃してしまうのです。

つまり、相手への思い込みを抱いたり自分の理想を押し付けたりするような、身勝手さに色を付けたのが「ブルー」という表現だと言えます。それに相対するのが、汚れを知らない真っ白な桜色です。「桜月」と「ブルームーン」が、純粋さを失って汚れてしまう「僕」のビフォーアフターを描いている、というのが筆者の見解です。


まとめ

『ブルームーンキス』の背景を、『風に吹かれても』『Nobody's fault』『無言の宇宙』『桜月』をヒントにして筆者なりに描いてみました。
「僕」と「君」は冗談を言い合うような気軽な間柄だったのかもしれませんが、一瞬にしてその関係は崩れ去りました。ここから恋人という新しい関係を築けるかどうかは、「僕」の覚悟次第でしょう。やり直すには心の空気を入れ替えるしかないのです。猶予はありません。

全ては筆者の考えすぎです。皆さんも色々妄想してお楽しみください。

それでは、また何かの考察で!

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