見出し画像

The Pop Groupの話

人生で初めて好きになった「洋楽」のバンドがThe Pop Groupだった。
最初に聴いたのは20代前半の頃で、当時まだ新進気鋭の違法アップロードサイトとして認知されていたYouTubeで「She Is Beyond Good And Evil」のPVを見つけ、聴いた瞬間にこれは自分の音楽だと思ったのを覚えている。
それまでにも、ケーブルテレビのビルボードランキングや車のCM、友達から借りた片耳のイヤホンなどで海外の音楽を聴く機会は何度もあったが、なんとなくそれらは自分とは遠い世代や文化圏の人達の間で需要と供給が成立しているものであって、自分はどこか蚊帳の外であると感じていた。
しかし「She Is …」はそのイントロを聴いた時点ですでに心が奪われ、ついに自分もそういう音楽に巡り合うことが出来たということが嬉しかった。
当時、私は邦楽洋楽問わずロック音楽全体に対して「なぜみんなもっとギターをキャンキャンに高い音に設定しないのだろう」という素朴な疑問を、それを単なる個人的な性癖だと自覚せず持っていたのだが、それに応えてくれたのがこの曲だった。
なぜ皆ギターをキャンキャンな音にしないのかと言えばそれは楽曲全体のバランスが破綻するからなのだが、このバンドは普通に楽曲を破綻させながら耳に痛いギターを聴かせてくれた。
そしてボーカルに関しても、歌唱とかではなくただ地声が強い人が叫んでいるだけみたいなスタイルが、私の嗜好に強く合致していた。
すぐに、上記の曲が収録されたアルバム「Y」をタワーレコードで購入した。
目当ての一曲目以外は冗長に感じてピンと来なかったが、しかしむしろこういったアルバムは好きだった。
収録されている曲が良いものばかりだとなんとなく「まあどうせ良いのだから聴かなくてもいいだろう」となってしまうことが多いが、好きな曲と、あとそれ以外は我慢して聴く曲、みたいなアルバムは愛聴盤になりやすい傾向にあった。
音楽に限らず、かねてより一部分だけが好きなものに心を奪われることが多い。
なんなら「She Is …」もギターリフ以外はよく分からなかったので、アルバム全体を通して真っ直ぐな意味で気持ちいいと感じられていたのは数秒だけだったことになる。
ウォークマンのイコライザーのトレブルを上げまくって繰り返し聴いていた。
そして一曲目以外の曲も耳に馴染み、廃盤になっていたもう一枚のアルバムも手に入れて毎日のように聴いていた頃、なんとタイミングよくThe Pop Groupが再結成するとのネット記事を見た。
しかも来日するとのことで、それを見るためだけにサマーソニックのチケットを買った。
会場に着くと、どこまでが彼らのファンなのかはわからないがフロアは満員で、ステージ上を見ると数人のおじさん達が楽器の準備に勤しんでいた。
そういえば私は彼らの見た目をよく知らない。
ステージ上も、フロアも、よくわからない人たちの集まりに見えた。
そして開演を告げるようにシンセサイザーのノイズが鳴らされ、そこで一番高揚したのを覚えている。
あとは「She Is Beyond Good And Evil」のイントロで入り方をミスって「ソーリー…」と呟いてやり直す姿と、ボーカルのマークスチュワートがステージ袖の扇風機の前に陣取って歌っている姿が鮮明に記憶されている。
その日の帰り道、自分の中に浮かんでは消える様々な感想とどう折り合いをつけるか考えた。
別にちゃんとやって欲しかったわけではないし、むしろちゃんとなどやって欲しくはなかったが、いま思うとやはりちゃんとやって欲しかったのだろうなと思う。
この「ちゃんと」が何なのかは今でも折に触れて考える。
とりあえずその時は、建前を気にせずステージ上でああいった姿を見せるところがアヴァンギャルドなアティチュード、ということに一旦しておいて、それ以降CDを聴く頻度は減っていった。
その後はたまに思い出してサブスクで曲を聴いたりYouTubeで検索してみたりなどして、そうしているうちに彼らは遠い親戚のおじさんくらいの位置に落ち着いた。

いま改めて聴いてみると、ボーカルとギターだけでなく、過剰なコンプで耳に張り付くようなベース、落ち着きなくパタパタしてるだけのドラム、そもそも無理矢理な遠近感の付け方がされたミックスが自分の好みそのものだった。
このバンドが自分の好みに合っているのか、このバンドを基準に自分の好みが形成されたのか、わからない。
分からないで言えば、祈りというものについてもよく分かってはいないのだが、こうして話題に出すことは少なくとも祈りになるのではないかと、前に友人と話したことがある。
こういうのは届くか届かないかとかではないのではないか、とも話した。
わからないが。

※以前趣味で作った「The boys from Brazil」という曲のリミックス

https://soundcloud.com/FxRkqxv3VDnXAdJ79

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?