ランク王国

詰将棋、クロスワード、mixi、バーチャロン、競輪、生け花、マイティマックス、いちニットさん。2021年、人類が考え得る娯楽はついにその全パターンが出尽くし、これをもって、今後人々が新しい刺激を得ることは完全に不可能となった。事態を受け入れることの出来ない人々は、既存のコンテンツに強引なマイナーチェンジを施し使い回すことで迫り来る退屈に抗おうとしたが、しかしそうした延命はむしろコンテンツ自体の寿命を早めることにしかならず、結局、市場では強度のないエンタメから順に淘汰されていき、より洗練され、普遍的な、人間の原理に直接働きかけるような娯楽のみが生き残ることを許される状況となった。そして最後に生き残ったのはランク王国だった。これは誰しもが想像していなかった未来であった。全ての雑味を除いた先にある純粋な娯楽、それはランク王国を観ることであったのである。ランク王国を観るとき、人々の心は完全に凪ぎ、そこには死にも似た静謐が訪れる。それは、睡魔が脳を冒す深夜帯に放送されているためなのか、ランキングの内容がまったくどうでもいいためなのか、ラルフの緑色が視神経を通じて精神を調律するためなのかはわからない。一説では、差し込まれるミニコントが死後の空気を感じさせるからというものもあったが、どれも真偽は定かではなかった。しかしわかっていたことは、人々は疲弊し、安寧を求めていたということだった。すでに娯楽の定義は変わっていた。娯楽とは、没頭や熱中ではない。ランク王国なのであった。娯楽はランク王国です。