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気になっていた近所の居酒屋に一人で行ってみた

前から気になっていた近所の居酒屋に一人で行くまでの経緯について、前の記事に書いた。できるだけ間を空けず、行くべきだったんだ。

ネットには18時開店と書いてあったが、17時45分にお店の前まで行くと、お店の看板と赤提灯に既に光が灯っていた。

実は家からお店まで、後ろに子供の座席の付いた電動ママチャリで来た。このあと保育園に娘を迎えに行かねばならず、朝に自転車で行くと約束してしまっていたからだ。ただこの時間に居酒屋の前にこの自転車を置くのは、具合がよくない。というのも、保育園には18時15分までに迎えに行かねばならず、そのお迎え最終時間ギリギリまで居酒屋に寄ってる(酔ってる)父親と知れたら噂になってしまう。でもだからって、こそこそと遠くに停めて、わざわざ歩いて戻ってきたくはない。

悩んだ結果、今日は時間が何より貴重なんだ、と自分に言い聞かせて、お店の前に停めることにした。実質25分間だ、誰に気づかれることもないだろう。子供用ヘルメットをカゴに置くと目立つので、手に持って入店することにした。これでもう心配ない。よし入店だ。

入り口の扉をガラガラとゆっくり開けてみると、お客さんはまだ誰もいなかった。店主と奥様らしき人が、少し驚いた感じで私を見る。

私 「もう入って大丈夫ですか」
店主「えぇ、大丈夫ですよ」
私 「昨日お店の前で少し話した者です」
店主「えぇ、分かっていますよ、どうぞ」

覚えてもらっていて一安心。今日来店した甲斐があった。ドアに一番近いカウンター席に座り、周りを見渡す。カウンター6席、二人掛けのボックス席が2つ。その一つに奥様が座り、おしぼりを準備している。

店主に「お飲み物は?」を聞かれて、「じゃぁ日本酒をお願いします」と答えた。短時間なので一種類のお酒しか選べないことを考えると、この店で飲みたいものは日本酒だ。

「確か澤乃井と初孫でしたっけ?」昨日の店主との立ち話をちゃんと覚えていますよというアピールをそれとなく入れてみる。店主が棚の澤乃井を先に触れたので、「澤乃井いいですね」と言って、澤乃井が選ばれた。

サイズが一種類しかないようで、300mlの小瓶とガラスのぐい呑みが出てきた。空腹時に25分で日本酒300mlは結構ヘビーだ。ちょうど良いサイズの一合瓶も棚の奥に見えたが、そちらの銘柄は初孫だったようだ。今日は銘柄よりサイズで選ぶべきだったかと少し後悔しながら、流れに身を任せる。

私は家では純米か純米吟醸しか飲まないので、「ちなみに純米ですか?」と聞くと、「うちは純米しか置かないよ」と嬉しい答えが返ってきた。同時に突き出しも出てきた。美味しそうな煮凝りが小皿に三切れ入っていた。酒の肴には申し分ない。

このお店を始めてから何年かなどの質問から始めて、どんな顧客が多いお店なのか、コロナをどう乗り切ったかの話などに花が咲いた。先を見越して補助金をもらわない英断をした店主を尊敬した。

ふと、台所に吊るされた小さなホワイトボードに視線をやると、この店のメニューが店主直筆の黒ペンで書かれている。上から下までざっと見て、どうしても目が行ってしまう一品があった。「まずい焼きそば 500円」

聞けば、ある酔っ払いのお客が、この焼きそばを注文した時に、「あぁ、まずい」と言ったことがきっかけらしい。その客が一口食べてすぐに言ったなら作り手として納得がいくが、一皿食べ終えた後にその台詞を言ったから「なんだそれ」と笑ってしまったという。面白かったのでそれを機に焼きそばの先頭に“まずい”をつけることにしたらしい。こういうネタが見え隠れするメニュー表は、楽しい話が聞けるきっかけになり、嬉しい。

18時ごろには常連客のおじさまが入ってきて、店主と漫才の掛け合いのようなことをしていたので、それを聞きながら笑っていた。至福の25分間があっという間に終わり、私がお会計をお願いしたら、店主は「いくらにしようかなぁ」と言う。300ml日本酒が1,000円と書いてあったので、1,500円以上だなと思っていたら、「じゃあ、1,200円」と言う。
「良いんですか、おまけしてもらっちゃって。初回割引ですか。」と返した。すると、その常連客がすかさず「やったー、おれも今週初回だった」それに対して店主は「お前さんは割増だよ」と突っ込む。笑いの絶えない楽しい時間だった。

お店を出て、次女を保育園に迎えに行って無事帰宅したところ、長女が「おかえり」も言わずに、
長女「パパ、飲み屋にいたでしょ」
私 「なんで知ってるの?」
長女「だって自転車置いてあったもん」

こわいこわい、近所で悪いことはできないな。あっ、もちろん近所だからってことじゃない。
何はともあれ気になっていた近所の店が馴染みの店と言える場所になりそうだ。きっかけさえあれば、近所の居酒屋が自分の居場所になることだってあると分かった。人生はこれだから面白い。皆さんは気になっている近所の赤提灯はありませんか。

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