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HMDを利用した銃口同軸のカメラとサイトの複合的な新しい兵器について

情報化に伴い光学機器の発展は著しく、歩兵装備に対して弾道予測や残弾の表示、距離の表示、傾きやその他の情報を表示するものも増えています。また、RWS(Remote Weapon System)のようなリモートで射撃できるシステムもまた増えています。

それと同じく、塹壕戦や戦車内部からの射撃の延長線上として、SWATなどの特殊部隊が利用することを考えたものとして、コーナーショット(イスラエル)のような障害物を挟んだ地点からの射撃を試みるシステムも21世紀以降増加しています。
これは現代社会の政治基盤としての人命重視の趨勢にも合致しており、2020年代までの対テロ戦争などの少数精鋭を重視する戦闘にも合致するものでした。

一方で、コーナーショットと類似する兵器はイスラエル、中国、パキスタン、韓国などで生産されています。銃本体に関節部を持つフレームがあり、それにモニターやカメラが取り付けられている状態が標準的です。レーザーサイトやサーマルサイトも取り付けられ、素材はアルミニウム合金や樹脂が使われています。これらはRWSなどと違い、照準を決める装置と銃器が分離されてません。また、その類似としてプリズムを使った照準補助器具も存在しますが、ダットサイトの後部に取り付けるものであり、これもまた銃自体のサイトの延長線上に過ぎません
また、コーナーショットでは9mmパラベラム弾その他の拳銃のほかに、グレネードランチャーやピストルカービンも使われていますが、総じて構造上銃身が短いものとなっています。また、コーナーショットをより遠隔的に派生したシステムも存在しますが、小型拳銃を利用するものとなっています。


遠隔的に射撃できるコーナーショット※1


これらには人質救出や対テロ作戦、CQBなどにメリットも存在しますが、あくまで非対称戦や警察権の行使を目標としたものであり、低威力であり単体での運用は困難なものとなっています。

もう一つの方向性として、XM29を端緒とし、暗視装置、レーザー測距装置、弾道計算コンピュータなどを複合化した軍での使用を前提としたスマートスコープも普及が見られています。イスラエルのSmart Shooter社が開発したSMASH、米軍の次世代分隊火器プログラムに採用が決定したVortex Optics社が開発したXM157、そのほかTracking Point社の製品などに例があります。
これらはヘッドセットによるC4Iの支援を前提とした、ボディアーマーの強化、強化外骨格の採用、小銃の更新などを統合した歩兵全体の強化プランの一環として行われることが多く、ランドウォーリアー計画(米)、先進個人装備システ厶(日)、单兵综合作战系统(中)、FELIN(仏)、Infanterist der Zukunftプログラム(独)などがスマートスコープを採用した計画として挙げられます。

中国版OICW、11式单兵综合作战系统(2015年配備,※2)


そのような趨勢の中で、ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)に銃口同軸で付けられたカメラを複合した小銃の照準器の概念をその中で取り上げることができます。これはスコープやダットサイトを覗く必要がなくなるため、自由な姿勢で射撃できることにより、遮蔽物からの射撃の自由度の拡大、安全性の向上などが期待できます。

スマートスコープの普及により、戦闘の戦術の変化や革新が生まれると考えられますが、それと並列的に、HMDと照準器を複合した兵器は有用性が高く、また他の弾道予測やエアバーストグレネードを複合したものと比べると単体であれば安価だと予測されることから、その普及はこれから広がっていくものと考えられます。

HMDと小銃を複合化する試みにおいて、中国の11式单兵综合作战系统(QTS-11)、防衛装備庁の先進軽量化小銃の電子化照準具、フランスのFNFAMASに取り付けられるFÉLINサイトなどが例に挙げられます。

2007年段階での防衛省の研究による電子化照準具と先進軽量化小銃※3,AFP通信より


2010年段階での防衛省の研究による電子化照準具と先進軽量化小銃※4


但し、先進軽量化小銃の俗にいう第二世代以降(2012年以降)ではHMDを付けている姿が確認されなかったことから、それ以降は開発が勧められなかった可能性もあります。実際20式小銃ではスマートスコープは2024年現在採用されていません。

フランス軍のFÉLIN(2011年配備。300台がアフガニスタンに送られた,※5)

また、ドイツのInfanterist der Zukunftプログラムがイスラエルのエルビットシステムの製品を採用したARCASはAIを利用しているとともに、既存のアナログ的な光学的照準を切り捨てるとともに、銃身下部にカメラを取り付けて照準を行う点が特徴的です。

ARCASの2021年6月段階での外形。銃身下部にサイトが搭載されている。銃もしくは単眼式のHMDによって照準する
ARCASの視界。AIとC4Iを統合している。※6

そのほか、エジプトのEISSプログラムでも同様の技術が採用されています。スーダンのコンボ、イタリアのSoldato Futuroなどでも同様のアプローチがとられている可能性が高いと考えられます。


エジプトによるEISSプログラム(2018年5月段階,※7)


スーダンのKOMBOシステム(2015年開発開始,※8)


イタリアのSoldato Futuro(2007年開発開始,※9)


この中で確認される限りで大規模に配備されているのは11式とFÉLINです。11式单兵综合作战系统は20mmエアバーストグレネードと5.8×42mm小銃を統合した複合小銃ですが、5万丁がPLAに採用されて実用化されています。

コーナーからの射撃が可能だとされている。海軍などでも運用が見られる。※10

そのほか、直接的に軍隊への導入を想定して開発されたわけではないものとして、カナダGSCI社、トルコ3E EOS社でも同様の製品が実用化、販売されています。


GSCI社製HMD-800-MOD(2021?,※11)
トルコ3E社製HMD Gen I※12

これらの兵器種には有線無線・右目左目の差がありますが、9種類中3種類のみが有線である一方で右目左目の差に関してはほぼ半分に分かれることから、全体的には無線が主流であり、右目左目のどちらがより主流かに関しては(小銃が概ね右利きの兵士に用いられるため右目で見ることが多いが,最近はambidextrous射撃に対応するためどちらでも撃てるように設計されることが望まれる。ちなみに効き目は右目が大きい※13とは言え)まだ決まっていないと考えられます。但し、構造上両目のどちらにも対応しているものは少ないようです。また、無線での通信の場合画像を通信することからその分データ容量のリアルタイム性と大きさが求められ、それに比して電波が増大した場合それ自体が検知され、砲撃や検知を招く可能性も存在します。但し、有線であればambidextrous射撃が困難になり、取り回しも悪化することが考えられます。また、銅線を利用すると重量の増大を悪化させ、速度や信号の正確性で問題がありますが、光ファイバーには強度的問題と損失と通信不能のリスクが存在し、これは銃器のように強い振動や衝撃が起きうる環境にはデメリットになる可能性があります(※但し簡体字版Wikipediaには11式に光ファイバーが用いられているとの出典不明の記述あり)。

また、これらの様々な試作段階の先例を考えた場合、HMDによる射撃のみを想定し、小銃には光学的な照準器を付けないもの(先進軽量化小銃,ARCASなど)と小銃の照準器と完全に一体化しているもの(11式,HMD-800-MODなど)と別途で照準器が取り付けられているもの(FÉLIN,Soldato Futuroサイト)の3種類がありますが、開発年代の趨勢としても、並存させると片方の能力が完全に無意味になるため死重量化し、FÉLINのような方法の場合、かなりのハイマウントになるため照準においてデメリットになるため、前二つのどちらかの方法(HMD主銃従、銃主HMD従)のどちらかになると考えられます。

また、HMDに依存した射撃のみを行う場合視点との位置情報のズレや揺れによる空間識の誤差によるVR酔いの問題が存在します。また、常時HMDを展開した状態における視界の閉塞/HMDを展開するまでの時間のデメリットのトレードオフも存在するため、射撃においてのみ用いるHMDではなくAR/XRを前提として常に視界に一定の形で画像を投影し、即座に銃身同軸の画像が呼び出せると言った統合的なものではない限り一定の行動の制約と訓練の変更が必要であり、このことは未だにメリットの大きさに比して主流化していない理由の一つだと考えられます。瞬時の反応が求められる現代戦において移動しながらの利用が困難なHMD複合型照準器による優位性の確保はどの程度実現可能であるかに関しては研究が必要だと考えられます。

また、スマートスコープほどではない(XM157は平均10,800ドル※14、HMD-800-MODは2,780ドル)とはいえ、それでも通常の照準器と比べると非常に高額(一般的なホロサイトであるEOTechHWS512は525ドル※15)であり、ヘルメットに改良が必要である点、頭部重量や取り回しの悪化、稼働時間の悪化(HMD-800-MODは10時間、EOTechHWS512は2500時間、スマートスコープは250時間※15でなおかつバッテリーが無かったとしても利用可能)などの問題があります。バッテリーは死重量の増加として現代の軍隊では重大な問題の一つでもあるため、燃費の悪いHMD複合型照準器はその点で敬遠されると考えられます。また、スマートスコープと異なり別途にカメラを取り付けるのではない限り(そのようにした場合重量の増加を招く)画像にデジタル的処理が必要であり、バッテリー無しで使用することが困難であることも問題があると考えられます。

これらの課題はエネルギー密度の高い燃料電池の利用(e.g.直接メタノール燃料電池など)や全固体電池などのバッテリー技術の進歩、AR/XRを利用したHMDとの統合による機能の増加による相対的な死重量の減少、大量生産による低コスト化などによって改善可能ではあり、また米軍による統合視覚増強システム(Integrated Visual Augmentation System,米マイクロソフト,※16)などの開発が成功すれば要素の付与のみで済むため普及は広がっていくだろうと考えられます。但し、統合視覚増強システムが視野の制限やタイムラグ、液晶機器の光量などの問題により複数回の開発遅延を繰り返しているように、複数の機能の統合的なAR/XRは開発に非常に高度な技術を必要とするため、統合的なAR/XR技術の普及速度、またAR/XR技術が進展しなかった場合にはバッテリーや軍事技術全体の開発速度によってこの種の兵器の普及度は制約されると考えられます。

また、これらとは全く別の、HMDを利用せず基盤として人間を利用しない形としての、RWSを小型化・運搬可能としたSMASH HOPPER(Smart Shooter社)などのLight Remote-Controlled Weapon Stationと称する種別の遠隔兵器システムも存在します。これはM4/SR25ライフルを利用したもので、自動スキャン/ターゲット機能や対ドローン機能も持ちます。

SMASH HOPPER※17

これは質的にはHMD複合型照準器やスマートスコープとは異なりますが、Smart Shooter社が前述のように自動スキャン/ターゲット機能や対ドローン射撃機能を持つスマートスコープを販売しているように、技術的には多くの部分を共通します。また、RWSにはSARP(トルコ,ASELSAN社),HITROLE Light RWS(イタリア,オートメラーラ社)などの小型のUGVに搭載されるものも存在し、基盤として人間を用いない遠隔照準器と考える事も可能です。バッテリーや機動性を考慮する必要性が薄いため、これらの技術の方がより普及の速度は高くなる可能性もあります。

プラットフォームの差異こそあれど、系としてみた場合に歩兵はデジタル的な能力と統合されていくと考えられます。その中で、将来的に現代文明が続きうる限りHMD複合型照準器は進歩していくと考えられますが、それがUGV/UAVの発展、FCSや神経インプラントの発展と重なりどのような比重で歴史において影響を与えるかは未だに未知であると考えられます。ウクライナ侵攻や将来的な台湾危機の小火器に与える影響は未だにわかっておらず、HMD複合型照準器のみならずスマートスコープや強化外骨格、軍用AR/XRなども十分に戦訓をフィードバックしうる程に大規模に投入された例はありません(アフガニスタンにおけるFÉLINサイトは肯定的ではあった※18ものの、HMD複合型照準器、IR、測位システムなどが統合されているため、単体での効果は不明です。フランス軍では2021年時点でFÉLINサイトが23065台運用されていますが、HMDを含めたシステムかどうかは不明です)。また、エアバーストグレネードやタンデムサーモバリック弾は部分的にこのような兵器種を無効にしえますし、小型のUAVの普及はニッチが一部被ります。しかし、HMDを被りFPVによって誘導するUAVの場合、そのHMDはHMD複合型照準器にも転用が可能です。

技術の進展がどうあれ、それによって人間の挙動や反応は変化し適応せざるを得ません。また、HMD複合型照準器は枯れた技術の合成であるため、自律型致死兵器システムのように全面的に禁止される蓋然性は低いものと考えられます。そのため、周知と議論、またこの種の兵器に関する考察と研究が本邦でも進展することを期待します。


参考資料リスト
※1
イスラエルsilver-shadow社による

https://www.israeldefense.co.il/en/node/48087

※2

※3


※4

※5/タイトル画像
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/23/FELIN-openphotonet_PICT6047.jpg

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/23/FELIN-openphotonet_PICT6047.jpg

※6
https://elbitsystems-de.com/en/elbit-systems-presents-arcas/

※7

※8
https://www.military.africa/2020/01/modern-soldier-the-future-of-ground-warfare-in-africa/#jp-carousel-5517

※9
https://www.menadefense.net/soldat-futur-tete/

※10

※11


※12


※13

※14

※15

※16

※17

https://www.smart-shooter.com/wp-content/uploads/2024/03/SMASH-HOPPER.pdf

※18
https://www.opex360.com/2012/01/17/premier-retour-dexperience-du-systeme-felin-en-afghanistan/

※19
https://en.m.wikipedia.org/wiki/List_of_equipment_of_the_French_Army

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