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街と映画とアムール

こころがやわらかすぎる日にゃ、街の雑踏は耳をツン裂いて、通りすがる人たちの笑い声は、これでもかってほど脳内に反響するね

駅地下、並んだ野菜に群がるひとたち、のそばで別れを惜しんで見つめ合う男女、口を開けたままベビーカーに乗ってる子ども、若い女の子たちのしょうもなく鋭い視線、地面の一点を見つめるだけの浮浪者、集まって何やら話し合う警察官、街の至るところが騒がしく、にぎやかで、なんだか不穏だ。ああ まいった、妙にこちらを見てくるサラリーマンがいる。


お時間ありますか?もしよかったら一時間だけでも、と言われたけどそういうの似合わない容貌なんだからやめたほうがいいのに、と思いながらもうすぐ観たい映画が始まるので、と断ったけどもし承諾してたら今夜の晩飯代は浮いたかもしれないし、知らないひとのどうでもいい話を聞けたし、浴びせられる新鮮な視線に具合は悪くなって、無駄な体力を使うことになっていただろうな。ばかばかしいのは承知で、とりとめのないことばかり想像していたら、目の前でおっさんが誰かのチャリを盗んだ。

シェルブールの雨傘を観た。
じんわりとしたまぶたで、じんわりとしたきもちのまま映画館を出るとき、自分がこの街に在ることを忘れていたことに気づいた。

「いま、素敵な夜のなかにいるんだ」と思った

帰り道、駅地下で売られているクレープを食べたかった、すごい食べたかった。自分にケーキを買ったり、観葉植物を買ったり、ひとりでに自分を愛でるのは得意だ。けれど、一緒に食べたいひとのことを考えて、今日は食べるのをやめた。右足の靴擦れが痛い ミニプの唐揚げは不味い そこらじゅうで愛がさんざめく 素敵な夜だ〜。

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