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TOKYO2020男子バレーボール分析&総括②~各チームの傾向~

こんにちは。ray-manと申します。

初めてnoteに投稿した前回の記事(引用1)をお読みいただいた皆様、拙い文章を読んでいただき、誠にありがとうございます。また、SNS上でコメントやリアクションをくださった皆様には、重ねて御礼申し上げます。自分が思っていた以上に反響があり、タガログ語のコメントが届いた時には驚きました。

前回記事の読者様の中には、コメントや引用先で興味深い議論を展開されている方や、自分が持っていなかったデータを用いて解析を拡張してくださった方も見られ、本当に頭の下がる思いです。こういった点に対しても、感謝の意を表したいと思います。

今回、これらの反響が後押しとなり、総括記事第2弾を執筆することにいたしました。前回はTokyo大会男子バレーボール全体の得点傾向を探っていきましたが、チームごとの傾向解析は行っていませんでした。

そこで今回は、Tokyo大会における各チームの得点・失点傾向を分析しました。また、その分析結果から、優れた結果を残した(メダルを獲得した)チームの特徴を探りました。前回より長い文章になってしまいましたが、ご容赦ください。

なお、本記事は前回記事の内容を踏まえたものになっておりますので、前回記事をお読みでない方は、そちらを先に読んでいただくことをお勧めします。

各チームの得点傾向

まずは、各チームの総得点に占めるアタック、ブロック、サーブ得点の割合(得点占有率)を確認しました。前回同様勝敗ごとに解析を行うと、勝ち/負け試合数がチームごとに大きくばらけてしまうため、今回は勝ち負けを分けずに分析しました。なお、試合数の違いを極力減らすべく、予選突破チームのみを対象としています。データは前回同様volleyballworld.comのMatch Reportを用いています(引用1)。

それでは結果です。各チームの各得点占有率の平均値を計算しプロットしました(各平均値および標準偏差の一覧表が本記事末にあります)。横軸にアタック得点占有率、縦軸にサーブ得点占有率、色の塗分けでブロック得点占有率を表しています。

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このプロットに基づき、非階層クラスタリング(k-means法)を行い、4つのクラスタに分類しました(注1)。

1. サーブ依存型(ポーランド):サーブによる得点割合が大きい。

2. ブロック・サーブ依存型(ロシア、ブラジル、カナダ):アタックによる得点割合が小さく、ブロックとサーブによる得点割合が大きい~やや大きい。

3. アタック依存型S(ServeのS, 日本):アタック得点による得点割合が大きく、サーブによる得点割合がやや大きい。しかし、ブロック得点の割合が小さい。

4. アタック依存型B(BlockのB, フランス、アルゼンチン、イタリア):アタック得点による得点割合が大きく、サーブによる得点割合が小さい。また、ブロック得点の割合はやや大きめ。

上記クラスタリング結果を参照すると、今大会でメダルを獲得した3か国のうち、2か国(フランス、アルゼンチン)がアタック依存型Bに属していました。つまり、サーブ得点に依存せず、アタック得点とブロック得点で稼いだチームがメダルを取った、ということになります。一方で、もう一つのメダル獲得国であるロシアは、ブロック・サーブ依存型に属し、ブロックとサーブで得点を稼いでいたこともわかりました。

惜しくもメダルを獲得できなかったチームにも、それぞれ個性が見られました。4位のブラジルはロシアと似た傾向を示していましたが、ロシアよりもサーブとブロックへの依存度が低く、アタック依存度が高い数値を示していました。分類的にはアタック依存型Bに近い性質と言えるでしょう。また、ブラジルと同じく優勝候補に挙げられていたポーランドは、サーブ得点占有率が最も高く、パワーサーブで押していたことが読み取れます。

イタリアはフランス・アルゼンチンと似たような得点パターンを示しており、日本はブロック得点が少ない、独特のパターンを示していました。また、カナダはロシアに近いパターンを示しており、ブロックとサーブへの依存度が比較的高い傾向にありました。

過去大会の得点傾向との比較

次に、今大会で見られた各チームの得点傾向が、過去2大会(2012年London, 2016年Rio)のベスト8チームと比べて、どのような位置づけにあるかを調べました。縦軸、横軸、色の塗分けは先の図と同じです。なお、過去2大会のデータは、前回同様バレーボール・スクエア様の公開データ集を使用しています(引用2)。

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Tokyo大会のベスト8チームが集まっているところを黒点線で囲っています。過去大会と比べると、今大会のチームはサーブ得点の割合が小さい傾向にありました。今回の分析ではベスト8以上のチーム、つまり比較的勝ち試合が多かったチームを対象としています。そのためこの結果は、前回記事で述べた"勝ち試合におけるサーブ得点占有率の低下"という全体の傾向が強く反映されたものと考えられます。

加えて、今大会出場チームは全体的にやや右に寄っている、つまりアタック得点占有率が高くなっていることも特徴です。これもサーブ得点割合の減少と同様、全体の傾向を反映した結果だと考えられます。

以上より、今大会のベスト8チームは、前回の分析で明らかになった特徴を反映し、過去大会に比べて高いアタック得点占有率と低いサーブ得点占有率を示していたことがわかりました。

次に、メダルを獲得したチームに限定して、同様の分析を行いました。

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まずは、今大会のメダルチームの全体的な傾向を見ていきたいと思います。先の図の傾向と同様に、今大会でメダルを獲得したチームは、過去大会のメダル獲得チームに比べて図の下方に集まっており、サーブ得点への依存が比較的小さいことがわかります。また、大会ごとのチームの分布に着目すると、過去大会でメダルを獲得したチームの得点割合は大きくばらけており、チームごとに特徴的な分布を示す傾向にありました。一方で、今大会のメダルチームはフランスとアルゼンチンがよく似た傾向を示していました、

今大会のメダルチームの得点割合に目を向けると、フランスとアルゼンチンはサーブ、ブロック得点の割合が大きくない代わりに、アタックで点を稼いでいたことがわかりました。一方ロシアは、今大会のフランス、アルゼンチンと比較するとサーブ得点の割合は大きいですが、過去大会のメダルチームと比較すると、サーブ得点への依存は比較的弱いといえます。しかし、ブロックポイントの割合は過去大会と比較しても大きいため、今大会のロシアはブロックによる得点が重要だったと考えられます。

以上より、今大会のメダル獲得チームはサーブ得点への依存が比較的小さい代わりに、フランスとアルゼンチンはアタックで、ロシアはブロックで得点を稼いでいたことが確認されました。

各チームの失点傾向

ここまでは、各チームの得点傾向を見てきました。今度は逆に、各チームにどのような失点傾向があったのかを分析しました。縦軸に被サービスエースによる失点、横軸に被アタックによる失点、色の塗分けで被ブロックによる失点の割合を表しています。

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メダル獲得チームに注目すると、フランスは被アタック、ロシアは被サーブ、アルゼンチンは被ブロックによる失点割合が高く、各チームの失点傾向には大きな差が見られました。

4~6位にあたる中位チームに目を向けると、ブラジルは被アタックと被ブロック、イタリアは被サーブによる失点が多い傾向にありましたが、ポーランドには特徴的な失点パターンは見られませんでした。また、日本は被アタック、カナダは被サーブによる失点が顕著でした。

以上より、今大会のベスト8チームの失点傾向には明確なクラスタが見られず、チームごとに特徴的な失点パターンを示していたことがわかりました。

過去大会の失点傾向との比較

次に、今大会の失点パターンと過去大会の失点パターンを比較しました。

図1

得点パターンを裏返したように、今大会の出場チームは右下に集まる傾向にあり、被サーブ失点が少なく、代わりに被アタック失点が多いことが確認できました。また、被ブロック失点の割合が大きいチームが、Rio大会に比べてやや多い傾向にありました。

次に、メダルチームに絞って比較を行いました。

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先に述べたように、今大会のメダルチームの失点パターンはチームごとに大きなばらつきがありましたが、このばらつきは過去大会においてもみられる傾向であったことがわかりました。

今大会のメダルチームの失点傾向を見ると、フランス、アルゼンチンは過去大会のメダルチームと比べても被サービスエースによる失点がかなり低いことがわかりました。逆に、ロシアチームは過去大会のメダルチームと比べても、サービスエースによる失点傾向が強かったことが見て取れます。また、アルゼンチンは過去のメダルチームと比べて、被ブロックによる失点が大きかったこともわかりました。

以上より、今大会の失点傾向は、全体としては被アタック失点が大きく、被サーブ失点が小さい傾向にありましたが、メダルチーム間で比較するとばらつきが大きく、共通の傾向があまりないことがわかりました。

考察とまとめ

本記事ではオリンピックTokyo大会における男子バレーボールの各チームの得点・失点傾向について分析しました。前回記事で、Tokyo大会は勝ち試合におけるサーブ得点の割合が減少していることを紹介しましたが、この傾向が特定のチームに引っ張られたものなのか、それとも全体的な傾向なのかは不明でした。今回、各チームのサーブ得点占有率を分析することで、この傾向が特定のチームに限ったものではなく、Tokyo大会のベスト8に概ね共通した傾向であることがわかりました。この結果から、トップレベルの男子バレーボール全体の流れとして、(一部のチームを除いて)サービスエースが減っている、ということが示唆されました。サービスエース減少の理由としては、パワーサーブのエース率低下(世界的なレセプション技術の向上/コンセプトの変化)や戦術的コントロールサーブの増加など、様々な原因が考えられます。しかし、現時点ではどの要因が大きかったのかはデータで示すことができていませんので、今後は注意深く分析を進めていく必要があります。

Tokyo大会におけるメダル獲得チームの得点傾向は、大きく2つに分かれていました。得点傾向から、フランス・アルゼンチンはサーブで崩して/攻撃人数を減らして守りやすい状況を作り、トランジションアタックで得点、というパターンを、ロシアはサーブで優位を作ってブロックで仕留める、というパターンで得点を稼いでいたのではないかと考えられます。いずれにしても、過去大会と比べると、"脱・サービスエース依存"の傾向が見られ、サーブ&ブロック&トランジションアタックの連携が一層重要になった大会だったように思われます。

近年の強豪国ではあるものの、メダル獲得には距離があると見られていたフランス、アルゼンチンがメダルを獲得したことで、サーブからトランジションアタックまでのシステムは、今後最もアップデートが進む部分となるのではないでしょうか。また、先を行くチームはこのアップデートを分析・予測し、対抗するためのレセプションアタックシステムを練り上げてくるかもしれません。なお、前回記事で述べたように、勝利試合の方がサーブ得点の割合が大きい傾向にあったことから、パワーサーブで押すことも重要であった、という点は今後も留意する必要があるでしょう。

今大会のメダルチームは、サーブ得点が少なく、アタック・ブロック得点でその差を補う、という共通の得点パターンが見られましたが、失点パターンはチームごとに大きくばらけた結果となりました。つまり、脱・サービスエース依存という共通の傾向に支配された得点パターンに比べて、失点パターンは各メダルチームの弱点が反映されたものと考えられます。アルゼンチンは被ブロックの割合が、ロシアは被サービスエースの割合が高い値を示していました。一方、金メダルに輝いたフランスチームは、被ブロック、サービスエースが少なく、被アタックによる失点が多い傾向にありました。前回記事の中で、ブロック・サーブ得点占有率に比べ、アタック得点占有率は勝敗との相関が弱かった、という分析結果を述べました。この点を踏まえると、被ブロック、サービスエースによる失点割合が低かったフランスチームが金メダルに輝いたのは、数値上は妥当な結果ともいえるのかもしれません。

以上の内容をまとめると、Tokyo大会の特徴である"脱・サービスエース依存"は世界トップの男子チーム全体にみられる傾向であり、サーブポイントの代わりにどのように点を取るか、が今大会のカギの一つだったと思われます。一方で、失点パターンには共通点が少ないことから、各チームの特徴が大きく反映されたと考えられます。

『TOKYO2020男子バレーボール分析&総括』は本記事をもっていったん終了とさせていただきます。拙い分析と文章に最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。本シリーズにおける分析は、得点という記録に残りやすい表立ったところの分析に終始しています。そのため、大会全体の概形のわずかな部分しか総括できておらず、東京五輪男子バレーボール全体を総括するには、さらなる分析・議論が必要です。故に、本記事を読んでのご意見・ご批判は大歓迎です。議論を行い、現象の理解を皆で深めていきましょう。

ray-man


注1: Gap統計量に基づく最適クラスタ数を計算すると1クラスタと出たが、クラスタ数1では分類にならないので、複数のクラスタ数で分類後、もっともきれいに分かれたと思われる4クラスタを採用した。

引用1: https://note.com/_volleyball_/n/nb57046b959d7

引用2: https://www.facebook.com/volleyballsquare/posts/297903807285242

得点および失点表

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