いよいよ熟成を開始する。

いよいよ2月4日だ。 表面も乾燥した。 水がぽたぽた落ちる状況は既に脱したので、安心して妻の実家に預けに行ける。
肉を下げていた部屋は北側に畑と面していて、この北風の時期は細かい土埃が家の中まで入り込み、拭けば黒ずみ歩けば汚れ、時には口をじゃりじゃりさせるというはなはだ不愉快な土地なので、窓は開けずに扇風機を回し、2日半ほど室内乾燥させた。
怖いのは食中毒をもたらす細菌類だが、こいつらが悪さをするためには水分活性が要求される。 つまり、この乾燥がどんどん進めば、表面に付着したとしても生存できないため悪さをするリスクもその分減らせる。 気温が細菌類にとって快適な20℃を超える気温を迎えるまでに、どれだけ乾燥した部分で肉を守れるかが鍵になる。 ちなみに筋肉組織の隙間的に、細菌類が表面より1センチを超えて肉の中に侵入してくることは無いそうだ。ほんとかどうかしらないが、完成した生ハムの、あのジャーキーのような、乾き切った膠の様な表面を思い出すと、何となくそうなのかもなと思えてくる。
細菌学の発達が進む現代の知識でもって解明される、昔からの知識のなんと的確なことだったのかと、先人の知恵と工夫と経験(とあと多分あっただろう命懸けのチャレンジ)に、心から敬服する。

ま、乾燥も熟成も、それもこれも妻の実家の納戸次第。

このように干しました。手前は去年仕込んだ物。

妻の実家の納戸は南東と北西に窓がある。 南東側の窓の向こうは川に面した切り立った崖、北西は山に向かう急斜面へと向いている。
つまり、川から立ち上る湿度を帯びた空気が山を登り、あるいは山から降る暖かく幾分乾いた山風がこの部屋を行ったり来たりする。

この時の室温と湿度がこちら。

そろそろ陽が落ちようかと言う夕方で室温5℃。 湿度57%
1年で一番気温が低い時期だからではあるが、冷蔵庫並みの室温と言うのはこのような作業をしている身としてはとてもありがたい。

気が付いた方がおられるかどうかわからないが、この日から吊り方を変えてみた。 昨年仕込んだ一本は、そのまま棚の鋼線にS字フックを引っかける方法で懸吊したのだが、鋼線の一本に全ての荷重を与えるのは間違っていると判断し、厚めの端材を買い、そこにヒートンと呼ばれるねじ山の切られた9の字を逆さまにしたような部品をねじ込む。 小さい部品で耐久性が気になったが、10キロまで耐えられるとの事で(それは部品の硬度としてなのだろうけれど、ねじ込む木の接合部分の耐荷重を担保するものではないよね)と思いつつ、いちかばちかで任せてみることにする。

木で鋼材一本当たりの荷重を分散した。

ヒートンにS字フックを吊り、何ともいい感じ。 木が悪いわけじゃないが、このメタリックな感じに衛生感を感じてしまうのは、自分の中に何かそういうイメージがあるからなのだろう。
メタリックな輝きにひんやりとした肉がなんともお肉屋さんな感じがする。 お肉屋さんじゃないし、吊るしているのも納戸だけど。

こんな感じ。いいね。

狭い納戸なので全景が撮れていなくて申し訳ないが、恐らく上の一段だけで8本ほどは吊るせるのではないかと思う。 熟成が進み、水分量の差がさほど大きくない状態まで持っていければ、もう少し間隔を詰めて吊るすことも出来るのではないだろうか? そうであればもう2本、4本と吊るせるのかもしれないが… こればかりは生産と消費のバランス次第なので、そうできるかもと言う仮説に留める。この棚は幅121㎝の物なので、もしスペースにもう少しの余地があるのなら、もう一回り大きいものか、あるいは半分の大きさを二つ横に並べるとかも(あるいはこちらのほうが耐荷重的に良いのかもしれない)ありかもしれない。

ここから18か月の熟成を目指す。
これがわからないのだが、様々な人のブログや書き込みを見ると、熟成の開始を塩漬けからカウントしている?方や、乾燥の開始からカウントを始められる方と、まちまちなような気がする。
確かに塩を入れた時点…いや、屠畜の時点からか、ある意味熟成と捉えてもいいのかもしれないが… その判断を否定するつもりは無いのだが、自分としては、なんとなくこの塩抜きをしてからが熟成の始まりの様な気がしている。
自分に教えてくださった方は、1月に塩漬処理を開始した肉を翌年の5月に熟成完了と完成披露しておられた。 そうなると塩漬処理からは18か月だけれど、40日の塩漬処理、脱塩処理を考えると実際は16か月に満たないことになる。 でもおいしかった。
実際、10か月もあれば食べられる。との記事を読んだこともあるので、何か月だの期間を頭でっかちに捉えなくても、美味しく食べられればいいのだとは思うのだが、人様に「何か月熟成しました」と語るなら、明確な基準を持って語りたいと思うのはわがままだろうか。
なんとも煩悶の拭えない気持ちでいるのだが、自分としてはこの乾燥開始を熟成開始と捉える様にしている。 18か月後は2023年8月だ。
ちょうど夏の美味しい果物があふれている頃になる。 今から楽しみでしょうがない。

うん? 一本は去年のだとして、新しく吊るしてある肉が3本しかないって?
それはあとのお楽しみ。

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