墜落

ーはじめから飛べないとわかっていたらどれほどよかっただろう、と燕の子は考えていた。

ペンギンの子は、はじめから飛べないとわかっていたから泳ぎの練習をしたのだ。
ダチョウの子は、はじめから飛べないとわかっていたから走りの練習をしたのだ。

わたしは、自分は飛べるとおもっていたし、みんなそう思っていた。
飛べないことに気が付いたとき、すべては手遅れだった。
まわりが次々に飛び立つなかでわたしは、なんとか飛ぶ努力を重ねる。
まわりを根拠に、自分に潜む可能性を信じてきた。

現実と理想が乖離しているのである。
単なる一時の高望みだったならば、理想を放棄することがまだしもできるかもしれない。
さて、ここまで自分にあたりまえだった理想を、周囲はたやすく手に入れるその理想を、あきらめることが簡単だろうか。つまり、「現実」というものの理解が「間違っていた」のだということを受け入れること、それは初めからできないよりも、きっとくるしい。

きょうもわたしは大空を見上げ、そして軒下から地面へと墜落してゆく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?