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私が2020年に読んだ本のあらすじ・感想まとめ記事(イヤミス多め)

閲覧ありがとうございます!_sumomoと申します!

2020年に読んだ書籍の記録をまとめました。自分の忘備録が主な目的ですが、極力ネタバレなしで書いているので、今後の読書の参考に、もしくは感想の共有体験に役立てていただければ嬉しいです。

あいうえお順にしています〜!

ちなみに私のおすすめは、「聖母」、「虚ろな十字架」、「少女」です☺️


明け方の若者たち(カツセマサヒコ)

大手企業に内定を既に決めた「勝ち組」たちの飲み会になんとなく参加した僕は、そこでとある女性に一目惚れをする。就職したものの希望と違う部署で同期が次々活躍するのを横目で見るだけの日々。最愛の彼女と心を許せる友人との時間に救いを見出し、「こんなはずじゃなかった」人生に抵抗するように、また、迎合するように生きる一若者の青春譚です。

カツセさん色に染まりまくった小説だなという第一印象でした。明大前。待ち合わせのヴィレバン。IKEAデート。執筆中だったであろう頃にツイートしていた内容が頻出したりしていてツイートを逐一読んでいるようなファンとしてはニヤニヤしてしまう限りだったのですが、この本がカツセさんとファーストコンタクトになる人からしたら少し雑然とした印象を受けてしまうのかなとも感じました。それ言いたいだけやん、じゃないけど。

物語が前半と後半に分かれるページがあるんですが、そこでは思わず声を上げて驚いてしまいました。「幸福な生活」の百田尚樹さん方式。ページをめくった先の1行に思いがけないことが書かれている。カツセさんのこだわりというかプライドみたいなものを感じました。面白かったなぁ。

「こんなはずじゃなかった」と葛藤する主人公については、まだ私が感想を述べられる段階にないなと感じてしまったので言及しません。読む年代によって受け取る印象が変わる作品だと思うので、また定期的に読み返したいです。その時にもう一度彼のその焦燥感や嫌悪感について考えてみようと思う。雨の日に読むのが良いですこれは。


虚ろな十字架(東野圭吾)

かつて脱獄犯に幼い娘を殺されるという経験をした中原道正。犯人には死刑判決が出たが、その後も気持ちが晴れることなどあるはずもなく、妻・小夜子と離婚する。そんな彼の元に、小夜子が何者かに殺されたという知らせが入る。小夜子が離婚後にライターとして死刑廃止に異議を唱える本を執筆するなど精力的に活動していたことを知った道正は、小夜子の死に疑問を抱き、独自調査を進めていく。

個人的「2020年満足度が高い書籍」ベスト3入りです。特に、本作品(フィクション)のよく練られた背景設定が、死刑制度という日本社会に実在する仕組み(ノンフィクション)に対する問題提起を、不自然を究極に排した形で可能にしている点が素晴らしい。死刑を強く望む人と、死刑をただの司法制度としか捉えられない遺族。檻の中に放り込まれてもなんの反省もなしに過ごす死刑囚がいる中で、殺人を一度起こしたものの法には罰せられず、しかし自ら十字架を課して社会に役立とうと努力し続けてきた者がいる。後者の彼が、今までたくさんの命を救ってきた、これからも救っていくであろう医者のような人物であれば?そうでなければ?様々な立場や信念の登場人物それぞれに思いを馳せるたび、自分の意見が揺らぎました。と言うか今も揺らいでいる。正解なんてないんだろうけど。登場人物の背景設定が本当に秀逸。ほんま東野圭吾の頭の中どうなってるんや。

文中にも度々出てくるタイトルの「虚ろな十字架」。作品の軸を的確に表現した素晴らしいタイトルだと思います。何回も言うけどほんま東野圭吾の頭の中どうなってるんや。


影裏(沼田真佑)

第157回芥川賞受賞作。今野は、出向先の岩手で日浅という男と釣りに出かけるほどの仲になります。何か大きなものの崩壊に異常なほど感動する日浅のことを、彼はそういう奴だとおおらかに受け入れるほどの穏やかな関係でした。しかし、日浅はなんの前触れもなく仕事をやめます。のちに再会するも、お互いにギスギスしたままの別れ。そこに襲いかかった東日本大震災。行方不明になった日浅を探す中で、今野は日浅の影の部分を知ることになるのです。

端的に言えば難しかった。ルビのない難読漢字だけがそう感じさせたのではなく、文章のもたらす余白がどういう解釈を求めているのかがいまいち掴めませんでした。純文学にあまり触れてこなかったからかもしれない。日浅の輪郭や、今野が日浅に抱く感情が曖昧で、全て磨りガラス越しに見ているような感覚になってしまいました。それと対照的なのは風景描写。雄大かつ荘厳、しかし時に陰鬱な側面も見せる自然を眼前にしたような感覚に陥るほどでした。

もっと大人になったらまた読み直します!


少女(湊かなえ)

女子高校生の由紀と敦子は長年の親友であったが、ある出来事をきっかけにその関係性は殺伐としたものになっていた。ある日、親友の自殺を目撃したことがあるという共通の友人の話に、二人はある種の羨望を抱く。人が死ぬ瞬間を見たい、と考えた二人は、お互いには内緒でそれぞれ、老人ホームのボランティア、小児科病棟のボランティアに参加することにする。

不穏な空気は常に感じるものの、高校生特有の感じ方や目線が丁寧に描かれていて、由紀と敦子の関係性がどんどん進展していく様子に「湊かなえ作品には珍しく青春ミステリーなのかな」なんて呑気に楽しんでいました。最後の数ページまでは。二人のひと夏の青春の記録と同時に、裏ではきちんと本格ミステリーも進んでいた。人間関係を頭で整理しながら、あまりに自然な伏線配置とその見事な回収っぷりに驚きを超えて笑ってしまうほどでした。作品中に幾度と出てくる「因果応報」の4文字。そういう意味だったのか。すごくいい読書体験でした。

個人的には由紀の彼氏のキャラめちゃくちゃ好きでした。憎めない。


聖母(秋吉理香子)

東京郊外で起きた、犯人未逮捕の児童暴行殺人事件。3歳の薫を持つ保奈美は、長い不妊治療の末に授かった娘を決して失うわけにはいかない、と「この子を、娘を、守ってみせる」と強い決意を固める。物語早々に明らかにされる犯人と、保奈美、事件の解決にあたる男女警官バディの3者の視点で描かれる一連の事件の全貌は、ラスト25ページで思わぬ形で明らかにされる。

個人的「2020年満足度が高い書籍」ベスト3入り。「出来事への真摯なリーズニング」「社会への問題提起力」そして「予想もつかない結末(というかどんでん返し?)」この私好みのポイント3点が全部抑えられていたし、「いい読書体験をした!」って感じ。幼児虐待の事件が題材の作品なので読んでいる最中は全くいい気はしません(描写も生々しいので苦手な人は絶対やめた方がいい)。でも最後まで読めば「小説として」納得できるし、性犯罪とその法制度に関しての問題提起の視点が組み込まれている点もすごく好感度が高いです。おかげで様々調べられて勉強にもなりました。

途中であることに勘付いて、「よっしゃこういうことやろ、騙されへんで」って意気込んだのに、ラスト25ページの衝撃は爆風でした。吹き飛ばされた。タイトルもすごく秀逸。読み終わってから考える「聖母」という言葉の含みに思わず戦慄してしまいました。

270ページだとは思えない濃密さ、、、


幸福な生活(百田尚樹)

最後の1ページをめくる。1行だけ文章が綴られている。登場人物の「秘密」が暴かれる。「ああそういうことだったのか」と裏切られる。そんな経験が幾度とできる短編集です。

どんでん返しの1行を、めくったページに収めるなんて究極の制限だと思うのに、無駄も過多も起こさず、それを実現している技量が本当に素晴らしいなと思いました。正直予想のつく話もいくつかあったけど。テイストはブラックジョークっぽいのが多い印象だったかな。私はそういうのとても好きなので満足してました。個人的には一番「深夜の乗客」が好きでした。ここにきてなんでこんな王道を持ってきたんやって思ってたら違いましたね、すみません。面白かったなぁ。


毒よりもなお(森晶麿)

カウンセラーである美谷千尋のもとに相談にやってきた自殺願望のある女子高校生が、ツイッターで「首絞めヒロ」をフォローしていると打ち明けるところから物語が始まる。「首絞めヒロ」を検索した千尋は、高校生の時に突然千尋の首を絞めてきた間宮ヒロアキがその正体だと確信する。「なぜ首を締めたか分からない」という彼を、その頃から「患者ゼロ号」としてファイリングし始めていたのだった。

予想のつかない疾走感のある作品が好きなのですが、それは最後に予想を裏切る(越える)明確な結末が用意されていればこそ、また、読者の限界のスピードギリギリの心地いいラインを攻めてこそだと思います。しかし、この作品は最後まで不明瞭で、そのプロセスも説明不十分なところが多くてそのスピードについていけないし、なんなら最後に急ブレーキをかけられたような感覚。どんでん返しという意味では、確かにそれは存在していましたが、うーん、結局なんだったんだろうというモヤモヤした後読感を抱いてしまいました。

森さんがあとがきで補足されていたことを読むと物語の輪郭は掴めるのですが、にしてもフジファブリックをあそこまで目立たせた理由もよく分からなかった。ただ、この作品が、特殊性癖を持った犯人によって起こされた「自殺サイト殺人事件」という実際の事件が元になっていることはとても興味深かったし、事件について調べられるきっかけになったので、そこは良かったなと思います。


腹黒のジレンマ(ぶんけい)

踊り手時代からYouTube「パオパオチャンネル」の立ち上げ、会社経営や映像制作、ブランド経営まで様々なクリエイティブを追い求め続けるぶんけい氏の初エッセイです。

人のエッセイ買ったの初めて!パオパオチャンネル、開設から活動休止までずっと応援させてもらってたから出版が本当に嬉しかった!自分の思考回路をここまで言語化できるの、才能だと思う。しかも決して堅い表現なわけじゃないあたり、無意識か意識的か、普段自分が考えていること自体をきちんと掘り下げていく癖があるからなんだろうなと思う。「なんで」か納得できるまで。そんなスキルと、触れた新しいアイデアに素直にオープンになれる素質、自分の感性を信じられる強さが感じられて面白かったなぁ。途中出てくるコラムのコーナーもそれぞれいい味を加えてくれてるなと思いました。

パオパオチャンネル全部おもろいけど、水鉄砲、ハッピーセット、スクショ大喜利が特に好きです。よしなに。


北海道室蘭市本町一丁目四十六番地(安田顕)

「父はヒロシ。息子はケンといいます。二人とも、北海道室蘭市で生まれました。本籍は、北海道室蘭市本町一丁目四十六番地。ちなみに、この住所、今はもうありません。」で始まる、TEAM NACSの安田顕さんによる短編エッセイ集。

一見破天荒だけど憎めないキャラな素敵なお父様・弘史さんとの思い出が綴られた、本当にほっこりする一冊でした。この父にしてこの息子ありだなというか。笑
安田さんに娘さんが生まれて、大きくなられていく過程で、安田さんが弘史さんに抱く感情が少しずつ変わっていく様子も暖かかったです。それ以外で言うと、一番最後の歯のエピソードが好きだった。歯は本当大切にしよう。


ホテルローヤル(桜木紫乃)

北海道釧路の湿原に建つラブホテル「ホテルローヤル」を舞台に、そこに訪れる宿泊客、経営者の家族、従業員らの男女の関係性を描いた短編小説集。

作中の中での「ホテルローヤル」は、そのロケーション設定もあいまってか、ラブホテルというより、どこか悲哀を感じさせる雰囲気を纏った登場人物たちが行き着く先、という、ただの「場所」としてだけの位置づけを与えられている印象でした。だから、舞台は基本的にホテルローヤルなんだけど、登場人物たちにきちんとフォーカスが当たっていて、彼ら彼女らの持つ閉塞感がベースになっている。そこにほんの少し、ホテルローヤルの持つどことない埃っぽさというアクセントが加わっている構成に感じました。桜木さん巧みだなと感じました。

まぁ全くスッキリはしません!読むタイミングちょっと選ぶかも!


人間失格(太宰治)

幼少期から人間の営みが分からず、「道化」を身につけて生きてきた「自分」の一生を描いた作品。超有名作品なので言うまでもないかもですが。

超有名作品だからこそ、なぜ名作と言われているのか自分で確かめてみようと思って手に取りました。が、結局あまりピンと来ず。昭和20年代の文学史と照らし合わせて考察すると、この作品がその時代にいかに影響を与えたか、いかに他の太宰作品と違った雰囲気を纏い、新たな役割を担っていたかという箇所には納得がいきました。

卑屈にも思える「自分」の思考回路や言動も、語弊があるかもしれないが、とてもポップに描かれていたように感じた。決して自分自身のことを好きだったとは思えないが、彼なりに自分のことを抱きしめて生きていたんじゃないかなとひたむきさすら感じてしまった。それが酒や女、薬という方向に出てしまったのが不幸だっただけで、対人恐怖に関しては誰でもなりうることだとも思うし。

「世間とは一体なんのことでしょう」の堀木とのシーン、一番残ってるなぁ。


黙秘犯(翔田寛)

大学生が犠牲になった撲殺事件。現場検証や事件の前歴から即時容疑者となった倉田だが、彼の素顔は禁欲的で謙虚、人殺しとは無縁の男といったところだった。撲殺事件の背後に海水浴場での不審死と連続婦女暴行事件があることが判明した頃、捜査本部に圧力がかかり始める。

物語の筋は、容疑者Xの献身を彷彿とさせるものでした。たった一つの小さなことのためにでも人は動く。という点では、映画「予告犯」に抱いた感情と同類のものを覚えました。なので正直その辺りへの目新しさは個人的にはなかったなぁ。真犯人についても予想がつくというか、物語が補助してくれる方向に進むだけというか。ただ、複数の事件がどう絡むのかは読み応えがあったし、真犯人の胸糞な感じもうまく描写されているなと感じました。


友罪(薬丸岳)

ジャーナリストをクビになって社員寮付きの町工場で働くことになった益田。同時期に働き始めた鈴木と親しくなりますが、益田はあることをきっかけに、鈴木が昔世間を賑わせた犯罪を起こした少年Aではないかとの疑いを抱き始めます。やがて確証に変わっていくその疑念と、友人を自死に追い込んでしまった過去に対する罪の意識。益田は、鈴木は、彼らに関わる人物らはそれぞれどのような行動を取るのか。

「罪」に対して出した三者三様の答えのあり方を描いた作品。すごく興味深かったです。一口に「罪」といっても、捉え方や位置付けは目線を変えるだけでガラッと違ったものになる。半ば無理やりAVに出演させられた過去のある美代子、交通事故で子供の命を奪ったことのある息子を持つ山内、少年院の更生官など、決してメインの益田と鈴木の関係性に着目した「友人が過去に凶悪事件を起こしていたと知ったときにどうするか」という主とされているテーマに限らない物語の広がりに感心しながら読了しました。

過去は過去であって、大切なのは今からだと繰り返す世間と、思慮や行動を過去に縛られなければならないと思い込む、思い込まされる人のいる現実。誰の責任なのか、誰が償うべきなのか、彼らにはもう幸せを望む権利すらないのか。答えのない難しい命題だと改めて感じました。

映画もみてみたかったけど事件が事件でなかなかグロいらしいので断念、、、


ユリゴコロ(沼田まほかる)

喫茶店を営む亮介のもとに、母親が交通事故で亡くなったとの報せが入る。さらに、父は末期癌だとの宣告も受ける。彼のお見舞いに訪れた亮介は、押入れから「美沙子」とメモが添えられた髪束と、「ユリゴコロ」とタイトルのついた4冊のノートを見つけます。そこに書かれていたのは、「ユリゴコロ」と名付けた感情を持つと告白する殺人犯の手記。ノートの内容と、亮介の行動が交互に描かれて進んでいくイヤミス作品です。

すごく怖かったし陰鬱だったし気味が悪かった。だけど途中でやめる方が不快度指数が上がる気がして最後まで一気に読んでしまいました。ここでいう「気味が悪い」とかは褒め言葉の意味で使いたい。本人にすら理解しきれない「ユリゴコロ」という感情が引き起こし続けた悲劇を描いて不快にならないはずがないやんと思ってしまうので、、、何より彼女が「ユリゴコロ」と名付けたのは、親が「拠り所」と言うのを聞き取れなかった幼少期の彼女に起因するあたり、子供のイノセントな感じと殺人の衝動というもののミスマッチさが出てて非常にグロテスク。怖い。良い。

人間関係については私は想像しきれないところだったので、物語追うのが楽しかったです。「ユリゴコロ」に振り回され続けた彼女も、最後に人を殺めた時にはそれから解放されていた。という見方もできるけど、全てはそれに起因すると考えると、縛られ続けていたとも考えられるなぁとぼんやりした感想を抱いて本を閉じました。

映画も気になって調べたのですが、「え!そのキーパーソン登場させないんですか!」ということがあったり、シーンが複数変わっているようでした。もっと人間関係や家族関係を重視したければ映画、イヤミス感を重視したければ小説なのかなという印象を受けました。


私に似た人(貫井徳郎)

自分らのことを一様に「レジスタント」と称する者たちによって小規模単位の自爆テロ・「小口テロ」が頻発するようになった日本。犯人たちは特定の組織に属しているわけではなかったが、貧困層に分類される者であることや、社会に強い不満があるという共通点があった。テロの実行犯やテロを俯瞰する者等、一章ごとに様々な目線から「小口テロ」が描かれ、物語が進行していく作品です。

この本のテーマは、「小口テロのような攻撃的な行動は社会を変える手段になり得るのか、そしてなり得て良いのか」「今の社会は、そして私たちは一体小口テロからどれだけ離れているところにいると言えるのか、もしくはそう思い込んでいるのか」と言う2点だと感じました。特に2点目に関しては、「私に似た人」というタイトルの含むところが全てだと思いますが。小説としては、オムニバス形式なのでサクサク読めました。レジスタントたちの心象描写に恐怖を感じる場面もあったし、異国を舞台にした最終章の設定は上手だなと感じました。ただ、全ての黒幕の行動に矛盾を感じてしまったのと、物語の中に作者の顔がチラついてあまり快く感じない箇所があったのも正直なところ。。。



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