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ことばと音楽

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文字に即興的な演奏を添えた記録(了)
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#詩

半透明と記号

誰もいない電車を乗りついで 期待の最大瞬間風速をまとう終着点。 わるい夢をみた朝は清々しい。 泡沫みたいな淡い記憶の無作為な産物として 断片化された身体が体温をとりもどす。 不器用で正直すぎて、破壊でもって生を知り こわいほどあこがれにまっすぐだったあのころ。 波音から無数の旋律が咲いては、 数珠つなぎの泣き笑いに消えた。 夜風がかすかに終わりの匂いをまとわせた日から 季節は反時計回りをはじめていた。 午後の蜃気楼、蝉時雨と歪んだ音色のグラデーション 涙はじけ虹は落ちても、その轟音は鳴り止まない。 いつかは他人になることを知らないみたいに ただそこにあった世界。 遠浅な思考は停止で、あてどない帰り道をいく。 きみはじぶんをつよくもっているから なにもおそれるな そう言った、あの人が見ていた世界は永遠の変拍子。 なにが正しくて、たしかなのか 誰もひとつとして興味がなかった。 雨が上がったら、かえろう。 息がとまるくらいになつかしい場所、 ずっと聞けないままのうたを密かに口ずさみ。 ただいま。 残された遠い夏の足跡は、 この波がついに洗い去ってくれる。 わたしはげんきです。

180305「幻日環」

いつかみたいな昼下がり 38度3分の体温で燃やした 透明な情熱を おもいだしわらいしていた 残酷なまでのネットのがれきに 死した 聡明な誰かも 遠くない季節の気配をきっとすくいとる白昼夢 おかえり 幼いこどもみたいに ポップな正しさを まとう旅の恥はかき捨て 終焉と衝動の区別もつかないくらいに ぼくら忙しく瞬間に生きた暁 大丈夫です  ここは何者である必要もない現実 なんていびつでいとおしい 時が止まれと願った帰り道

180126 「際限」

沈黙の銀世界に 推しはかられた夜が届く あそびつかれたあの日みたいに たりない悼みを知った日みたいに きづかぬうちに枯渇したから あとははだしで駆け抜けるだけ 絵画を見るように波形が飛ぶ空 額縁にかざられた写真くらい 意味のないことばをうたいつづけた あこがれつづけた音を浴びたい かかえきれない情熱を あてもなくふりかざした あの日みたいに

180120 「生活」

なんら悪いことなどしていないのに 朝から誰かに謝まらなければいけないような おなかの足しにもならない空虚が そこらじゅう ひとりあるきしている しんじるはうつくし あらがうはむずかし 小さな水槽の中で泳ぎまわるみたいな ささやかな自由をもとめつづけたはずの先 何におびえなければならないのだろう 切り貼りされた 渇いた日常のはてで