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この季節になるとなぜかいつも無性に聴きたくなるバンド

2012年

日差し
生ぬるい風
少し埃っぽい匂い
iPod
音漏れするイヤホン
電車の扉が開く音
着崩した制服

出会った季節のせいだろうか、
このバンドには穏やかな日差しが良く似合う。
夜は少し冷えそうな、そんなバンド。

クラシックを勉強しているくせに
聴くのはいつもロックだった。
周りの出来の良さに怯え、劣等感に押し潰されそうな毎日だった。

夜ご飯を食べながら観ていたテレビ。
POWER PUSHされていたオレンジに釘付けになった夜。
声が変だと言う母の声を聞こえなかったことにしてアルバムを買った。

テレビ、雑誌、ラジオ、世の中に出回る全てを片っ端から観ては、ネットの世界に思いの丈をぶつけた。
若さとは無敵で、好きの気持ちにとにかく真っ直ぐだった。

月曜日の深夜2時、毎週お決まりのラジオ。
火曜日の授業は捨てた。
夜遅くのイベント、終電で帰宅。
母に嘘をついた。

全てを聴きたくて、全てを観たくて、全てを知りたくて、もはや彼らになりたいとさえ思っていた。

私が1番分かっている。
他人には分からない、分かられてたまるか。
向けられる音楽も、言葉も、全てが自分の為の様な気がしていた。

息を切らして追いかけた、そんな16歳の春。


2023年



日差し
生ぬるい風
少し埃っぽい匂い
Apple Music
ノイズキャンセリング
電車の扉が開く音
エコバッグに丸めた制服

面白くもない話に笑う力を身につけた。
嫌いな奴と上手くやっていく術を手に入れた。

大人になるということは、どうやら自分を殺すということらしく、歳を重ねるごとに無難な生き方を選んでしまう。
あの頃から時間も行動力も熱も失ってしまった。
無敵では無くなってしまった。

それでも、
ただ残るどうしようもなく好きという気持ち。

2023年3月11日 

5年ぶりに行ったライブ。
私の為のライブ。
私の為のセットリスト。

出会ってからこれまでのこと、
一つひとつ思い出してひたすら泣いた。

やっぱり他人に分かられてたまるか。
私が1番分かってる。

あの頃の自分にはもう戻れないけど、
それでも、これからも、
変わりながらずっと一緒にいたい。

「初めて生で聴けたね」
隣の席、女子高校生の話す声が聞こえる。

今日という日を一生忘れることはないだろう。
そんな気がした27歳の春。

#だからそれはクリープハイプ

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