悩むのをやめる方法

考えごとをしてしまう

気が付くと、何か考えごとをしてしまっている。気になることはたくさんある。それらをどうにかしようと、頭の中では必死に作業をしているつもりだ。だが、そうしていると、どこか息苦しくなってくる。考えの方が早すぎて、呼吸の方が追いついていけない。

そうすると、ぐったりしてしまう。何か少しでも明るい気持ちになれるような、建設的な決断を下せたわけでもない。それどころか、ますます答えはよくわからなくなってくる。そのことは、そうしたくてしているというよりかは、どこかそうせざるにはいられないからしているという感じがする。

悩むということに、人生の大量の時間を注いできた僕のような人間にとっては大変残念なことであるが、結局のところわかったことは、悩むということは全くの時間の無駄だということだ

もちろん、その時間によって、何かしらの考えや決心が得られるということがないわけではない。だが、あまりにも効率が悪すぎる。大量のエネルギーを消費しておきながら、思考のクオリティも低い。そもそも決断が下せなかったり、精一杯に悩んで出した答えが、かえって良くない結果を招いてしまったということは、誰でも思い当たるところのあることだと思う。

テーマを決める

ではどうすればいいかというと、考えごとをするときには、これについて考えるとテーマを決めて、出来れば手元にノートを用意しながら考えるようにする。そうすると、様々な方向に飛び散ろうとする思考の動きを抑えることができる。結果として、利用するエネルギーも低コストとなり、思考のクオリティも高いものになる。

もちろん、いつもそのように対処できる状況だとは限らない。自分が何か勝手に考えごとを始めようとしているな、ということに気付いたら、テーマだけでもメモしておく、というのも効果のある一手だ。だが、実はそのことは一旦忘れても別に構わない。大切なことは、また湧き上がってくるからだ。

そのことは、一旦置いておく。今気になっていることの全てについて、今全ての結論を出す必要はない。そのように考えると、今の自分に本当に必要な目の前のことに、心を向けていくことができる。

感情を感じきる

だが、このように悩みを避けてみようとしても、焼け石に水というか、次々と沸き上がってくる考えには、きりが無いような気がしてくるし、すぐにまた捕まってしまう。考えるということを、どうしても止めることができない。そんなときは、どうすればいいのか。そもそも、この無数に沸き上がってくる考えを生み出しているのは、一体何なのか。

それが、身体の中に棲んでいる感情である。そのことは、ただ感じきればいい。消化されることによって、感情は思考を生産することをやめる。

自分は今、どんなことを感じているのか。胸の中に入っているそれは、何かひんやりとするような感じがするものなのかもしれないし、石でも入っているように重く感じられるものなのかもしれない。あるいは、燃え盛る火のように、熱く感じられるものなのかもしれない。

それが、甘味であれ、苦味であれ、丁寧に味わいきるようにする。そのことを意識しながら呼吸を続けていくと、吐く息とともにそれは徐々に薄まっていく。そうして、それが胸の中から消え去るのを待つ。

それはまた、こういうことかもしれない。自分の心の中というものを、一つの森に見立ててみる。森の中には、たくさんの動物たちが棲んでいる。喜びに駆け回るものもいれば、近付くものを攻撃しようと警戒しているものもいる。その全てが、自然だ。その一匹一匹に、祝福を与えていく。そうすると、それらはあるべき場所へと帰っていく。

感情に振り回されない

だが、気を付けて欲しいことがある。感情を感じることと、それによって振り回されることは違う。これは、海がどんな波を打っているのかを外から眺めようとすることと、その海の中で溺れてしまうことくらい違う。それが、良いものであれ、悪いものであれ、感情に振り回されれば、自分にとって危険な行動というものを自らがとってしまう。

怒りや焦りの気持ちから、口に出てしまった言葉が、自分が本当には望まない結果を生み出してしまった、ということがあるかもしれない。あるいは、良かれと思って、自分では喜んでしてあげたことが、相手には冷めた目で受け取られてしまって、悲しい思いをしたことがあるかもしれない。

もしあのとき、もう少しだけ呼吸をゆっくりにすることが出来たなら、あんなことにはならずに済んだのかもしれない。

丁寧に感じるということが、今はできそうにないのなら、そのことはやめておく。何か嫌な感じがするのなら、今はそこから離れるようにする。これは、傷ついて恐れている動物に、むやみに近付くべきではないというのと同じことだ。

自分のものであれ、他人のものであれ、祝福の気持ちを持たずして、心の中に立ち入るべきではない。そのことを忘れると、危険な目に遭う。今は引き返すという勇気をもつことで、いずれ向き合えるときはやってくる。

このようにして、自分の心の中というものを、なるべく清潔に保っておくように心がけていく。そうすると、わざわざエネルギーの下がるような思考というものも浮かぶことがなくなっていき、感情に振り回されない自分というものが出来上がってくる。

深海へ向かう

こうして、誰もいなくなったはずの森の中にいると、それでも張り詰めたような空気が、微細に振動していることが感じられる。その声に、しばらく耳を澄ませるようにしていると、森の空間全てが、水のような粒子で満たされていった。

粒子の海の中に、森全体が沈んでいく。ここは安全だ。こうして呼吸を続けていくことができる。

自分の身体の重さを感じるようにして、粒子のベッドに身を任せていると、それはゆっくりと沈みこんでいく。この先に、光が視えている。今度こそは、その光のことを見失わないようにしなければならない。このまま粒子の海を下へと潜っていく。自分も帰ろう。家族が待っている。

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