注射
私にはひとつ上の姉がいる
正直、姉を姉らしいと思ったことはほとんどない
小さい頃から同じものを買い与えられてきたし、どちらかというと私の方がしっかりしていた
なんなら姉の面倒をみてきたし、姉をいわゆる「お姉ちゃん」という概念で見たことはほとんどない
ただ、1つ
幼少の頃のある思い出は、姉を「お姉ちゃん」として私の中で認識させた
それは『注射』
私は小さい頃から注射が大嫌いだ
母に連れられて姉と一緒に病院に行くと必ずと言っていいほど泣いた
もしくは泣くのを必死に我慢し、結局注射針を目にした瞬間に、泣いた
しかし、姉は絶対に泣かなかった
父に怒られて私がわんわん泣いているときも、姉は泣かなかった
姉の涙を見たことは無いと言っても過言では無いほどだ
注射針を持ったお医者さんはいつも言った
「じゃあ、お姉ちゃんからやろうか」
注射針を前にビビりまくっている私を気遣っての言葉だったのだろう
「はい」
姉は顔色1つ変えず、必ずそう言うのだ
そう言って、何事もなかったかのように私より先に注射をし、痛そうな顔せず、ときどき「大丈夫だよ」という目をしながらこちらを見る
少し痛そうな顔をしても泣くことは絶対にない
なんでも姉に勝って1番手になりたかった私も、注射は2番手でよかった
というかむしろ、2番手がよかった
そして私は、この時心から姉がいてよかったと思ったのだ
大げさかもしれないけれど、確かにそう思った
大人になって、注射に1人で行くことも増えた
流石に泣くことはないが、姉がいればなと心の中で思ってしまったことは恥ずかしいけれど、ある
きっと、これから先も姉は私の少し先を先頭を切って歩み、意識せずとも私の中に大小さまざまな影響を及ぼすのだろう
そしてきっと、私はなんだかんだ、その後をツラツラとついていきながら共に生きていくのだ
悔しいから、認めたくはなかったけれど、姉という存在があって私の一部は形成されているのかもしれない
たかが『注射』
ただ、それは私にとって「姉」という存在を私の中に知らしめる唯一無二の記憶なのだ
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