おむつの黄色いラインになりたい

 人の親になってから嵐のように約5年が過ぎ去った。猛烈なストレスにさらされた日も少なくない。それでも、もうどうしていいかわからないような時期は終わり、第二子も授かり、なんとなく「先輩パパ」と呼ばれるほうに自分も片足をつっこんで来たような気がする。今は子どもといて、なかなか楽しい日々を暮らしている。ただ、振り返ってみると「楽しい」などという感情はまるでない時期のほうが長かったように思える。

 妻の猛烈なつわりから始まり、産前の妻への気疲れ、仕事との板挟み、妻を支えきれない自分への無能感。産後は産後で、睡眠不足や失われる自由時間による心身の疲労、両親との衝突、意思疎通の取れない子どもへの怒り。「育児ストレス」に包括されるひととおりの悩みは経験してきた気がする。
 それでも今、育児が楽しい。子どもがいて、幸せである。(もちろん、今でもしばしばとてもつらいけれど。)この境地にたどり着けたのは、偉人たちの発明や保育園の先生方をはじめとする周囲の方々の助けのおかげだ。
 偉人たちの発明。たとえば、紙おむつの黄色いライン。子どもがおしっこをすると青に変わるあのライン。あれがなかった時代は大変だったろうな、と思う。子どもが泣く。原因を調べる。お腹が空いたのか、部屋が暑いのか、服がちくちくするのか、抱っこしてほしいのか、眠いのか、皆目見当がつかない。しかしあの黄色から青に変わる発明によって、我々はまっさきにおむつを替えることができる。これだけで親の睡眠時間は20分違うだろう。布おむつしかなかった時代と比べたら2時間違うかもしれない。紙おむつに黄色いラインを引いた人にひざまずきたいほどの感謝の気持ちがあふれてくる。

 私には紙おむつを作る力も、黄色いラインを引くアイデアもないけれど、多くの親と同じように悩んできた時間がある。人の悩みなどたかが知れており、自分の悩みは大抵すでに誰かが解決している。ならば、自分の悩みと解決策も、きっとほかの誰かにも当てはまる。
 私は育児がつらかった。今でもつらいことがある。つらい理由は色々あるけれど、「男だから」ということだけで、「育児参加していない」と根拠もなく批判されたり(そもそも「育児参加」ってなんだろう? 自分が当事者として人生のど真ん中でやっていることを「参加」という言葉で表現する意味がよくわからない。会社員は「仕事参加」しているのだろうか? サッカー選手は「サッカー参加」しているのだろうか?)、逆にベビーカーを押しているだけで「立派なイクメン」と過度に褒められたり(ベビーカー押すのは犬でも猿でもできる。転がすだけなら生物でなくとも坂道でもよい。親の役目はもう少し高尚だと思いたい)、そういう第三者の攻撃や妙な善意で悩まされたものだ。人の意見なんて気にする必要はないのだが、ギリギリまでわらを背負わされたロバは、最後の一本で崩れてしまう。今日まで何度も崩れてきた。

 今、妻のつわりで悩んでいたり、新生児の育児で疲れていたりする男性にとって、正解を提示することはできないけれど、「こういうふうにやってきました」ということだけでも伝えられたら、と思う。

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