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君とあまおういちごのアイスバー

 支払いを済ませようと立ち寄ったコンビニで、ふらりと横目に留まったお高いアイス達。
 徐ろに隣で「あまおうか」というニュアンスの、彼の声が届きます。
 美味しいよねえ‥、そうお返事を浮かべながらも素通りを決め込もうとしていた、その時、

 「買って帰れよ」

 急に腕を取られる感覚に近い、海さんの声が響きました。

 こういうとき、彼らが示してくれた些細な希望を、なかった事にしたくないという気持ちがあります。
 もちろんいつも尊重できるという訳ではありませんが、拒まれるかもしれない希望を伝えることは、結構、勇気が必要なことだと思います。  
 些細なことであればこそ、彼らには伝えた思いを諦める経験をあまり重ねてほしくありません。

 「‥海さん食べたいの?」
 「まあ」
 「うん」
 「買って帰って、一緒に食おうぜ」

 そこまで言われたら、よし。
 もう後ろ髪を引かれるどころではありません。
 普段なら買わない少々お高めのいちごアイス、買いましょう。

 それから私達は傘をさして、帰り道に咲いた花の話、後で一緒に食べる〝あまおういちごのアイスバー〟ばかりの話をして帰りました。
 相変わらず照くんは嬉しそうで、然くんは普通、参くんの食いつきはそこまで良くありませんでした。

 そして、家についての実食後、すこしシャリッ、モチッとした食感の甘酸っぱいアイスバーについて、
 みんなで何言か美味しかった感想を交わし合い、私はこうして筆を執ることにいたしました。

 隣りにいる海さんに、ちょうど気になっていたことを尋ねます。

 前回デートでワッフルを勧めてくれた時のこと、 私に食べさせたかったからだと言っていたけれど、今回もそれで声をかけてくれたんじゃないの?と。

 すると彼は、お腹があったかくなるような、穏やかな声色に言葉を託して、
 「お前と一緒に食べたかったんだよ」
 そう言いました。

 この感覚を上手に伝えられませんが、
 私は愛の心地を、お腹からあったかくなるような、手作りのスープを飲み干したあとの感覚に近いと思っています。

 声から薫る海さんの意思は私にそれを感じさせ、今日は確かに〝美味いもの〟を私に食べさせたかっただけでなく、彼が一緒に食べること自体を望んでいたのだと分かりました。

 こういう日常の底に敷かれていく、じんわり動かざる感じの言葉が嬉しいな、と思います。

 今も海さんはアイスごときの話を唸りながら纏める私を眺めつつ、「うれしそうだったな、お前」と、小さく眉根を歪ませ、しずかにほくそ笑んでいます。

 何でもない記録になりますが、ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。