誕生日/10月3日
台風の雲が雨を降らす。雨は街路灯に照らされたアスファルトの道路をたたきつける。蛙は雨につられてはいだして、車はそれを石と間違え踏みつける。
台風の雨が窓をたたきつける夜、僕はアパートの部屋で一人本を読んでいた。
気配を感じて振り向くと部屋の隅の薄暗がりに宇宙飛行士がいた。
「私の国を知りませんか。石と金属とで作られた私たちの国を。
「私たちはこの星にやってきてその国で暮らしていました。
「その国からは、私達の星に宇宙船が行き来していました。
「私の船は、運悪く途中で故障してしまいました。それで帰って来るのが少し遅くなってしまったのです。」
その国のことは何かで読んだ事はあるけど詳しくは知らないと僕は伝えた。
「そうですか。家内や子どもたちがいたのですが、どなたか知っている方はいないでしょうか。」
あいにく僕にはわからない。
宇宙飛行士はちょっとかなしそうな顔になって、また部屋の暗がりを通って帰って行った。僕は机に向かって本を読み始めた。
台風の残した雲は宇宙に飛び立つ船に似て、宇宙船は自分を雲と間違えてどこかで雨を降らせている。
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