スーハー2000に学ぶ譜面制作論

こんにちは、PID.と申します。

この記事はTapeStop100 Advent Calendar 2021の記事となっています。

少し前からTP100で活動させていただいており、ありがたいことに本企画に記事を掲載いただく運びとなりました。今後とも何卒よろしくお願いします。


では本題に移ります。

タイトルにもありますが、皆さんは「スーハー2000」という曲をご存知でしょうか?

有名人気音楽ゲーム「太鼓の達人」のボス曲群、通称2000シリーズの一曲に数えられるのも然ることながら、その極端かつ強烈な譜面も相まって印象に残っている人が多いのではないでしょうか。

今回はこの曲の鬼譜面を分析し、その面白さを究明していきます。

譜面について

まずは譜面を振り返ってみましょう。

動画


基本データ
初出:太鼓の達人 ちびドラゴンと不思議なオーブ
作曲:LindaAI-CUE
作譜:エトウ
難易度:★10
ノーツ数:668

特徴

その1:極端すぎる難易度曲線

スーハー2000の譜面を見たあるいはプレーした人の大半はまず、そのあまりに難易度差が大きい前代未聞の譜面に度肝を抜かれたことでしょう。

この譜面の前半は鬼★10どころか普通★6でも通用するような配置が殆どです。しかし後半に突如豹変し、約12.22打/秒の発狂が最後まで敷き詰められています。驚くことに、この発狂地帯は30~40秒程度にも関わらずノーツ数基準で譜面の半分を占めています。

ここでポイントとなるのが前半部分の譜面です。
「難易度相応の密度はあるが捌き応えの無い譜面」のことを虚無譜面と呼ぶことがありますが、この譜面の前半は虚無譜面ではなく下位難易度相当であることがミソとなってきます。

思い切って極端なまでにスカスカにすることで、後半の高密度譜面との対比が目立ち、加えて譜面を敢えて簡単にしていることがプレイヤーに伝わりやすくなっています。特に後者は後述する不穏の匂わせにも一役買っています。

後半では発狂以外の配置を前半と同じ文脈で置いてますが、これも譜面に大きい緩急をつけてることで対比を強調させ、ジェットコースターのようなプレー感を与えています。

※イメージ

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その2:不穏の匂わせ

前半部分は下位難易度でも通用する配置を置いていると述べましたが、ここでも難易度曲線を歪にし後半に繋げるために所々前後の難易度を無視した配置が散見されます。

例えば33コンボからの突然加速する容赦ない8分16分配置や、

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2回の減速地帯、

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随所に現れる見た目 BPM2142 の追い越し連打や12分追い越し音符など、

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後半の発狂地帯ほどではないにしろ普通★6 にはまずありえない配置が挟まってきます。曲に合わせた配置とも解釈できますが、結果として歪な配置によってプレイヤーの不安を募らせることや、後半の発狂地帯に向けた伏線作りに成功しています。


その3:少ないノーツ数

これはこのような譜面構成にした弊害とも言えます。

約2分の尺のうち、本格的な発狂地帯はラスト30秒にしかありません。それ以外の1分半は(上記の匂わせ高密度配置はあるとはいえ)超低密度の譜面が続いてます。
当然ノーツ数が増えるはずもなく、ほぼ全ての譜面が700ノーツを超え1000ノーツ以上ある譜面も数を増してきた現行鬼★10において668という非常に少ないノーツ数を記録しています。
後述しますが、この少ノーツがプレーにも多大な影響を及ぼしています。


その4:他の曲と一線を画する、地力帯による体感難易度の違い

これまででこの譜面が歪な譜面構成をしているという話をしてきましたが、その譜面構成は難易度にも多大な影響を与えています。

まずクリアについて。
譜面の半分が発狂ということは、裏を返せば譜面の半分が(ほぼ)地力関係なく稼げる譜面でもあるわけです。さらに発狂地帯も後半に行くにつれて単色になっていくお陰で適当に叩くだけでもゲージを稼ぎやすいので、クリア難易度は比較的簡単といえるでしょう。

ところがこれがフルコンボや全良になると話が一変します。
フルコンボや全良では残りの発狂地帯をミス無く通す必要があります。
この譜面の発狂地帯では見た目BPM140の16分や32分が絶え間なく続き、面と縁の切り替えも順手逆手が複雑に入れ替わる、この曲が出た当時としては最上級の発狂耐性を求められた高難易度配置が見られます。

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さらに精度を求めると、クリア段階ではまだ捌きやすかった最後の単色ラッシュが猛威を奮います。単色が続く状態で16分と32分が入り乱れるせいで、リズムを正確に把握していないと精度が全く取れない配置になってしまっています。

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つまり、この譜面はクリア→フルコンボ→全良と段階を踏むごとに難易度が爆上がりするとんでもない譜面になっています。

さらにスコア勝負で考えたとき、この譜面の半分を占める低難易度地帯では殆ど差がつかない、即ちもう半分を占める発狂地帯の出来が全てということになります。そこに668の少ノーツという、1音符ごとの失点が他の譜面と比べて非常に大きくなる要因が加わるとどうなるかは言うまでもないでしょう。

したがって、この譜面が得意なプレイヤーにとってこの譜面はこの上ない武器曲と言えます。

……「太鼓の達人 ドンだー!日本一決定戦2013」決勝大会中唯一自選曲を投げ合う形式を取った一回戦において、この曲が飛び交ったことは想像に固くないでしょう。


総括

難易度曲線があまりに歪で、一般的な観点からすればお世辞にも良い譜面とは言えないでしょう。
が、それでいて難易度を含め譜面構成がよく考えられており、個性的な曲をより引き立てている譜面であることを踏まえれば非常によくまとまった良譜面と言えます。このタイプの譜面が1つのゲーム内にそう多く存在する必要はありませんが、数多くの収録譜面のうち1譜面はこのような譜面があると良いアクセントになるのではないでしょうか。


他機種における譜面

太鼓の達人以外の機種にも同タイプの譜面が存在するのでいくつかを抜粋して紹介していきます。


1:夏色DIARY 懐色DIEARY [HARD 14] (REFLEC BEAT)

夏色DIARY といえば当時のBEMANI全機種合同イベント「BEMANI SUMMER DIARY 2015」の最終解禁楽曲であり、各機種ごとにオリジナルアレンジがなされ収録されていることで知られています。

この曲はラスボスではなくエンディング的立ち位置の曲であるため、基本どの機種にも易しめの譜面がつけられています。しかし、REFLEC BEAT だけは10+ (収録当時の機種内最高難易度)という高難易度譜面になっています。

それもそのはず、前半こそ BPM156 の哀愁を感じさせるチューンですが、後半で突如 BPM230 のデスメタルに変貌します。

当然曲に合わせて譜面の難易度も劇的に変化し、後半はただでさえ忙しい中で BPM230の16分のトリルや乱打を捌かなければなりません。
特に16分乱打は非常に難しく、現準最強格 Rebellio [HARD 15]の難所の一つである BPM234 の16分乱打とほぼ同速であることからもその難易度が伺えます。

ノーツ数が 599 ととても少なめであったり前後半で密度が倍近く異なるなど、以下に挙げる曲の中でもこの譜面は特にスーハー2000と傾向が近いです。
中でも序盤の不自然な5個押しやしつこく絡むLOは「簡単だが割と尖ったレベル12相当の譜面」という印象をプレイヤーに与えており、スーハー2000同様に不穏を匂わせることに成功しています。

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2:chaplet [WHITE HARD 15] (REFLEC BEAT)

chapletはイベント「パステルくんとスミス氏のRUNRUNマラソン!」にてjubeatと共に収録されたDJ TOTTOの書き下ろし楽曲です。

10+の数が増加していた当時のREFLEC BEATにおいては10+の中でも高難易度の譜面がつけられていましたが、そこから4,5年の時を経て上位譜面が追加されました。

HARD譜面をご存知の方であれば、上のWHITE HARD譜面動画を見て何か違和感を抱いたのではないでしょうか?

こちらの比較動画を見れば分かる通り、全体のオブジェ数こそ微増してるものの休憩地帯のノーツがロングオブジェを中心にごっそりと削られています
その上でサビや道中の密度・配置を難化させる方針でこの上位譜面が作られたため、結果としてイントロ・ブレイクと道中・サビの難易度差・密度差が凄まじいことになっています

しかしながら、ミニゲーム譜面になりやすいこのタイプの譜面としては珍しく、地力に尖った譜面に仕上がっていることは特筆すべきでしょう。

これは元々地力寄りであったHARD譜面の難所、その強化配置のスコアに占める割合がより大きくなったからと考えられます。削られた部分は一定以上の地力があれば確実に零さない休憩地帯であり、プレーの差がより顕著な差となってスコアに表れるようになったとも言えます。

このように、難所の配置次第ではその譜面をミニゲーム譜面にも地力譜面にもできる点は一般譜面と変わりません(とはいえ、構成が構成だけに大抵の場合はミニゲーム譜面になってしまいますが……)。


3: Go Beyond!! [SPA ☆12] (beatmaniaIIDX)

弐寺でも特に(様々な意味で)有名な譜面ですね。この譜面の異質さは ☆12参考表 においてノマゲ地力Eに対しハード地力S+との評価を受けていることからも察せられるものがあります。

この譜面の本質はサビの8小節。全体密度約10.68 notes/s 、ブレイクのスカスカな不穏配置を経て降ってくるのは…

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30.66 notes/s 10秒間耐久の縦連混じり二重階段発狂です。

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これを超えると(☆12としては)易しめの配置になるためノマゲ以下は☆12でも簡単な部類となっています。しかしながらこの300ノーツを耐える必要のあるハード以上の難易度は、10年以上経った今でも地力S+に置かれていることからお察しください

この曲の初出は CS 13 DistorteD (AC 初出は 16 EMPRESS) ですが、その11作後 24 SINOBUZ にて同作曲者による「Go Ahead!!」が収録されました。どのような譜面かはお察しください


4:Real [SPA ☆9] (beatmaniaIIDX)

先日の BEMANI PRO LEAGUE 2021 でもプレーされたことから知っている人も多いでしょうか。

5th style 初出のこの譜面の本質は中盤の☆9を逸脱した16小節です。

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ここだけ見ると☆10~11でも通用する難所ですが、前述の Go Beyond!! と同じくノマゲはここからでも十分に回復可能であるため、結果として☆9に置かれているものと思われます。

前半は普通の配置であり、先程から述べている不穏の匂わせが足りないのでは?と思うかもしれませんが、発狂直後に「すまん忘れとったわ!w」と言わんばかりの16分トリルが唐突に降ってきます。BPL でも点数がひっくり返りましたね。

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余談ですが、この Real 勝負は衝撃の結末となりました。まだこの試合を見ていない人がいたら こちら から是非ご覧ください。


5:ドラムンフライ(テンプラ揚三) [Hyper 45] (pop'n music)

ポップンにおけるラス殺しの代名詞とも言える譜面です。

譜面画像 を見ればわかりますが、曲の大半がスカスカです。ノーツ数はなんと 474 、平均密度は 4.24 notes/s と、この記事で挙げた譜面の中でも一番といえる程、本当にスカスカです。中盤に変に密度が上がります (これがこの譜面における匂わせと考えられます) がそれも一瞬で、それ以外の道中はレベル37程度と非常にスカスカです。

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この譜面の本質はラスト1小節。これのせいでレベルが45になっていると言っても過言ではありません。
3小節前から徐々に密度を上げつつ最後に降るは BPM171 の 32分乱打。密度だけで言えば 22.8 notes/s で、ニエンテEXの二重階段発狂より少し低い程度の高密度です。

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幸いにも、ここしかクリアに関与しないこととゲージが軽いこともあり、初クリア難易度は45の範疇に収まっていますが、それでも運に大きく左右されることは言うまでもありません。


6:サイレント(音楽) [EX 50] (pop'n music)

一時期は「どうしようもないもの」とまで称された有名なポップンのラスボス格ですね。

曲が 2:14 と比較的長めでノーツ数も辛ゲージ回避の 1530 とレベル50で2番目の少なさ、と平均密度こそ低めですがラスト25秒に436ノーツが詰めこまれている恐ろしい譜面です。

このラスト25秒にはかの有名な産卵発狂と、

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レベル50最強格のラス殺しが降ってきます。

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譜面画像を見るとそこまで詰まっているようには見えませんが、この曲のBPMが倍取りされているためわかりにくいだけで、産卵発狂は BPM130 の16分24分混フレ発狂

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ラス殺しは 40 notes/s を超える BPM175~180 の三角押し縦連や上下振りを含む超発狂であるのが実態です。

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登場時(17 THE MOVIE)はまだSUDDEN+オプションが存在しなかったため、産卵発狂とラス殺しいずれかのハイスピが必ず合わなくなることもその難易度に拍車をかけていました。

また、密度の低い道中も開幕の発狂12分同時縦連などといった局所発狂がしっかりと不穏を匂わせています。

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余談ですが、この譜面をクリアした知り合い曰く

産卵まで赤ゲージで耐えたらラス殺しの餡蜜組んで後はおみくじ

とのこと。


7:その他の譜面

都合により名前のみの紹介とさせていただきますが、他にも各機種の「もぺもぺ」や、K-Shoot MANIA の「εmodec」(SFES2020)の全難易度、「半壊悦楽生命体[RARE]」(第4回 Effectors Challenge)も似た傾向の譜面となっています。


最後に

いかがでしたでしょうか?

私自身普段の譜面制作では難易度曲線や密度,譜面傾向などを含めた譜面のメリハリを意識することが多いのですが、今回はこの観点の一部分に焦点を当て、メリハリを過剰なまでにつけた極端な難易度曲線の譜面はどのような譜面なのか?ということを考えてきました。

メリハリをつけすぎた譜面は個性やインパクトが非常に強烈なものとなり、普通の譜面とはまた違った面白さがあることが伝わったのではないでしょうか。

また、これらの譜面ほどではなくとも、メリハリや緩急を意識し適切に調整する(勿論メリハリをつけないのも択の一つとして十分存在する)ことで制作譜面をより楽しくできるかと思います。

本記事が皆様の譜面制作の一助になることを願い、記事の〆とさせていただきます。それでは。


参考文献

太鼓の達人 譜面とかWiki
REFLEC BEAT memo
TexTage
ポップンミュージック上級攻略Wiki