【2010年代のベストアルバム100枚】Vampire Weekend "Contra" (2010)

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概要

"Contra"は、アメリカのインディーロックバンドVampire Weekndのセカンド・アルバムです。プロデュースは当時のバンドメンバーRostam Batmanglijが務めています。全米では初週に124,000枚を売り上げ、アルバムチャートで初登場1位を記録しました。

タイトルに込められた意味と今作のテーマ

Contra(コントラ)とは、一般的に中米ニカラグアの反政府民兵のことを指し、1987年に稼働した日本のコナミによるアーケードゲーム『魂斗羅』のことも示唆されますが、このタイトルが付けられた意図は別のところにあるようです。

「僕は1984年生まれだから、Contraをアルバムのタイトルにしようとして、あのビデオゲームのことを考えずにはいられないんだ。すごく思い入れがあるわけじゃないけどさ...。ふと立ち止まって考えたことがあったんだ。『ワオ、僕の歳くらいの人はみんな、"Contra"といえばあのビデオゲームのことを考えるのに、僕の親の歳くらいの人たちはあのニカラグアの反政府民兵のことを考えるんだ。その二つってこれ以上ないってくらい異なるものなのに』ってさ」とEzra Koenigは語っています。

つまり、このタイトルが示唆しているのは「衝突があるけど、どっち側がいいとは単純に言えない」ことについてなのだそうです。

意見の相違を乗り越えた共感と思いやり

「僕らのバンドとしてのアイデンティティにも繋がってくると強く思う。突然誰かが自分について何か書いたり言ったりしてくる状況になると想像通り、何かを象徴するような戯言を並び立てて決めつけようとするんだ。お前はこういうシャツを着てるからとか、こういう家庭で育ったからとか、ある曲でこういうことを言ってたからみたいな理由で、こういう政治的信念を持っているんだねみたいなことを言うだろ」

少しの意見の違いが大きな対立に発展している現代社会を予見してるかのようなテーマが2010年の1月にリリースされたという事実は興味深くあります。必ずしも同じ考えを持たない人や物事にも共感を持ちたいという意図があるようです。「世界の平等に関心があると言っているのに、イヤな奴のことなんて信頼できないだろ。すべての基本として、思いやりが人生のミクロとマクロを包括すのに必要な重大なことなんだ」

「簡単なターゲットをこき下ろすような曲を書くのは簡単だよ。そういう曲はファーストアルバムにもあった。間違った解釈をしてる人もいたけどね。自分が賛成できないような人や自分が非難に値すべきことを代表してるような人たちに対して思いやりを持つことについて曲を書く方が難しいよ」

ファーストアルバムの成功で生まれた偏見

またその流れで、ロック・ミュージシャンは貧乏で、経済的に恵まれない反逆者たちであるという伝統的な価値観についてもこのアルバムでは考察をより深めています。また、Ezra Koenigは自身を上流階級の恩恵を受けてるかのように見せていたのは「ジョーク」だったとも明かしており、彼の父親は労働階級の出身であることを明かしています。

「僕らがそういう服装が好きで、曖昧な言葉を使うのを敬遠しなかったり、コロンビア大学に行ってたことによって、そういうあらゆる要素を合わせて、僕たちを特権階級の白人の若者たちだって早合点するんだよ」

さらに「白人で大学教育を受けた批評家たち」はアクティビストになる機会がそう多くないために、「こいつらは搾取しているぞ!」と自分たちの音楽性を批判しているとEzra Koenigは指摘しています。「彼らは実際には存在しないヴァージョンの僕たちを攻撃してるんだよ。Vampire Weekendの神話をね」

今作における多彩なリズム、音楽性

一方で、デビュー・アルバムと比較して音楽的にもより様々な影響がみられていることが指摘されており、スカを取り入れた"Holiday"、シンセポップ調の"Giving Up The Gun"、スピードラップの"Califorania English"、レイヴの"Run"などが挙げられています。また、特徴的なチャンバーエコーやナチュラルリバーブは影を潜め、80年代っぽさを想起させるようなデジタル・エフェクトが用いられているそうです。

「僕らにとってアフリカの音楽を聴くのは、Creamとかを聴くのと同じくらい自然なことなんだ」とEzra Koenigは語る一方で、「人種的な観点から表現に気をつけなければならない」とも認めています。しかし、「エレクトリック・ギターは白人の楽器なのか黒人のものなのか、結局すべての人種に使われているんだ、アフリカン音楽にもパンクロックにもね。じゃあだからといってパンクロックが白人のジャンルと言えるのか?確かに僕はそんなことばっかり考えてしまうんだよね」

また、こうしたジャンルを横断したアプローチの中でも今作ではリズムやテンポに特に着目していることが語られています。Chris Baioは「僕たちが考えたことは、僕らがもっと突き詰められるかもってファーストアルバムで含みを持たせたようなものとか、すごく基礎的なアイデア、つまり曲のテンポや音の強弱、Ezraの歌うキー、どうやって僕が楽器を弾くかとかそんなことだった。そういうことを考えてたから自然と進めることができたんだ」と語っています。実際にコントラストを持たせるために意図的に、前作よりもテンポの遅い曲が増えているとも明かされています。

参照

1. https://www.theguardian.com/music/2009/nov/11/vampire-weekend-new-album-videogame (The Guardian "Vampire Weekend name new album after videogame")
2. https://web.archive.org/web/20120316162859/http://thewarriorbeat.com/2010/02/09/music-review-vampire-weekends-contra/ (The Warrior Beat "Music Review: Vampire Weekend’s “Contra”")
3. https://www.theguardian.com/music/2010/jan/07/vampire-weekend-contra (The Guardian "Vampire Weekend: 'They're attacking a version of us that doesn't exist'")
4. https://pitchfork.com/news/36671-vampire-weekends-ezra-koenig-talks-new-album-confronts-the-haters/ (Pitchfork "Vampire Weekend's Ezra Koenig Talks New Album, Confronts the Haters")
5. https://www.washingtonpost.com/express/wp/2010/01/11/vampire-weekend-contra-interview/ (The Washington Post "Metering Rhythm: Vampire Weekend")


リリース時の評価

2010年のベストアルバム・リストで、『Consequence of Sound』が1位に、『Q Magazine』が5位に、『Pitchfork』と『Rolling Stone』が6位に、『Stereogum』が7位に、それぞれ選出している他、多くのメディアで50位以内に選出をされました。

『Consequence of Sound』は、この作品を1位に据えたことに自身も驚いていることを認めつつ、今作の「サクセスストーリー」という側面に着目し、ファーストアルバムで大きな注目を集めた後の”セカンド・アルバムのジンクス”を打ち破った、「記憶にある限り、よくできたセカンド・アルバムのうちの一つ」であることを指摘しています。「Vampire Weekndの圧倒的に魅力的な部分、そしてデビュー作から素晴らしい進化を遂げた部分が、彼らが楽器に関する知見が非常に豊富で、よく熟練されているという点である。このアルバムは典型的な”インディーバンド”の作品ではない。それは、自分たちのポテンシャルにちゃんと気付き、推し進めてきた本物のバンドだからこそできたことなのだ」

『Pitchfork』は、「時代遅れの2つの区分にこだわっている世界で、コモンスペースを見つける」ための作品であると称し、アルバムのカヴァーアートに使われたAnn Kirsten Kennisが写真を流用されたと訴訟を起こした事件について、これも良い悪いで判断できる話ではないと指摘したうえで、バンドを強く否定している人々が「自分たちを勝手に定義することを、Vampire Weekendは丁重に拒否している」としています。

2010年代における評価

『The Young Folks』が10位に、『Pitchfork』が94位に、それぞれの2010年代のベストアルバム・リストに選出しています。

『The Young Folks』は、ポップミュージックの世界でもアウトサイダーな音楽の世界でも異端だったTalking Headsと彼らを比較し、陽気なデビューアルバムからこの2作目で、より美しくもダークになったことを指摘しています。その上で「"Contra"はどれほどこのバンドを推し進める存在となったか気付かないほど控えめだが、大きな飛躍」だったと語っています。

一方の『Pitchfork』は、上品なディテールの数々、陽気さ、プレッピーなスマートさ、利口ぶったリファレンスといったVampire Weekendらしいあらゆる側面を増幅させていると指摘し、ザブンバやシェレケといった楽器を取り入れたワールドミュージック的なサウンドに着目しつつ、「サウンドがこんなにも魅惑的だと気に留めにくいが、言葉がメロディーと一緒に美しく舞い踊っている」と称しています。

かみーゆ的まとめ

衝撃的なファーストアルバムと軒並み大絶賛されたサードアルバムに挟まれて、今作はバンドのキャリアにおいては地味な立ち位置となる作品なのだと思います。実際、2010年代ベストアルバムのリストに挙げている音楽媒体はかなり少なめだったようです。

しかし、今作が”風化されやすい”音楽だったかと言うとそうではなく、”リズム”にフォーカスを当てることでとてもキャッチーな曲を生み出すセンス、そして「二元論では語れない世の中の問題に対するアプローチ、人とのつながりの持ち方」をテーマにしたリリックは、バンドのわかりやすくも奥深い立ち位置を築く上で、今につながる重要な作品だったのだと思います。

2作目のジンクスを打ち破った完成度の高い中身だけでなく、全米アルバムチャートでも1位を獲得するなどセールス面での成功も収め、インディーやメインストリームの垣根が曖昧となっていった2010年代を予見する作品でもありました。

トラックリストとミュージックビデオ

01. Horchata

02. White Sky

03. Holiday

04. California English

05. Taxi Cab

06. Run

07. Cousins

08. Giving Up the Gun

09. Diplomat's Son

10. I Think Ur a Contra


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