見出し画像

焼餃子に癒されたい

忘れものを受け取りに 東急線田園都市線 鷺沼駅 まで来た。自宅と真逆の方面へ、残業終わり50分の長旅。駅に着き、なんとなく久々にお店の餃子が食べたくなったので食べログで「中華料理 現在地」と検索してみた。一発目にヒットしたのは、

『佐賀餃子 ぜん』

これ以上スクロールの必要はない。時刻は19:45。まん防のおかげで時短営業の可能性が高い。餃子屋が最上位にヒットした嬉しさを胸にお店まで走った。年相応に息は切れるが足取りは軽やかだ。

佐賀の餃子とは一体どんなものだろうか。
安兵衛の高知餃子も美味しかったが、果たして…。

たどり着いた店先に営業中の札を見つけ安堵する。入店。早速メニューを渡された。「今日水餃子ないんですけど、良いですか?」と店主に聞かれ、「(う…なんと…よ、よくはない…が…)大丈夫です。」と答えて焼き餃子とニラ玉、レモンサワーを注文。

早速運ばれてきたレモンサワーをぐいと飲んで、くぅと一息。そこであることに気がついた。

水餃子がない…
焼き餃子はある…

ということは…

水と焼で違う餃子を使っているということでは……!

名推理だ。名推理だよ私ったら。
これまでの調査において、大抵の店では水餃子と焼餃子で同じ餃子を使っていた。

しかし、数店舗、皮と餡を変えている本気の餃子屋があった。

本気餃子万歳!

興奮のあまり動悸がする。

厨房から白き柔き個体たちが焼かれる音がする。
中華鍋の中からささやきが聞こえて来る。

期待をダダ漏れにうすら笑いを浮かべて餃子幻想に浸っていたところに、タレと小皿が運ばれてきた。

小皿には青ネギがこんもり入っている。この青ネギの小皿にタレを注いでくださいと言い残して店主はまた厨房へ戻っていった。容器の頭に貼られた「餃子のタレ」というテプラにドキドキしつつ、どんなものかしらと注いだタレを舐めてみる。…薄口だ。やはり佐賀餃子と言うだけある。甘めの薄口醤油。そしてマイルドなお酢。期待はより高まりをみせる。

そして。

ついに焼餃子が運ばれてきた。

取り皿くらいの丸いお皿に盛られた、10個の餃子たち。小ぶりで、綺麗な焼き目をしている。小柄で華奢な女の子のような守ってあげたい可愛さがある。ひだはなく、湯気に任せてうねったのであろう薄皮に少しばかり清純な卑猥さを感じる。


一旦落ち着こう。

身を寄せ合う餃子たち

いけない邪念を振りほどき、餃子に箸を伸ばす。
軽く咀嚼しただけで、口の中でふわりと甘さが広がりとろけてゆく。こんなにもやさしい餃子がこの世にあるなんて…。焼餃子を食べて癒されたのは生まれて初めてのことだった。

店内にある張り紙を見るに、甘さの正体は玉ねぎのようだ。あとこだわり豚肉の脂身。肉のギュッとした感じや繊維質な感じが全然なく、口の中で自然と消えて無くなってしまう。はじめは一人前10個もあるなんて…!と思ったが、ふと気がつくとお皿が空になっていた。

帰りにお会計をしながら思わず店主を質問攻めにしてしまって、ちょっと反省した。佐賀餃子は地元ではB級グルメ的なものなのかとか、水餃子と焼き餃子で違いはあるのかなど。ちなみに佐賀餃子は全然有名なものではなく、店主の実家が餃子屋をやっていて、そこと同じものを出しているというだけのことらしい。それから水餃子は焼き餃子より少し皮を厚めに作っているとのことだった。推理が当たってマスクの下でニヤリとしてしまった。

冷凍餃子の販売も行なっているというので残り1つとなっていた餃子を購入させていただく。餃子を買うとタレも付いてくるらしく、ほくほくした気持ち。ちなみに冷凍は焼き餃子のみだそうなので、結局メインの研究対象である水餃子は食べれず仕舞い。

もう一生来ないだろうと思って降り立った鷺沼に、再び来る理由ができてしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?