夫がコロナにかかったら。

現代社会の教科書には確実に載りそうな世界的なパンデミックに当事者として立ち合ってしまうなんて、きっとこの先なさそうだし(ないよね)せっかくだから記録を残しておこうと思う。

30代共働き夫婦、子ども二人(年少、小3)の家庭で、夫がコロナウイルスに感染した場合に何が起こるのか。

「感染者である夫は10日間の自宅療養
濃厚接触者である私と子どもは夫を隔離した日から7日間の自宅待機」

ある日曜日の朝、突然の高熱を出した夫。頼む!インフルであってくれ!!!!という願いもむなしく、高原検査でコロナウイルス陽性がわかった。それから2日後にかかってきた保健所からは、上記の指示が出た。

コロナ感染者が、感染者じゃなくなるのは、症状が出てから10日目、
濃厚接触者が、濃厚接触者でなくなるのは、最後に接触した日から7日目とのこと。

ただし、一つ屋根の下に住んでいても、部屋を分けるなどしてきちんと「隔離」出来ていれば、私+子ども達の「感染者と濃厚接触した日」のカウントが止まるということらしい。

だったら夫だけ、ホテルとか施設に隔離させてもらえたらありがたかったが、保健所からは特にそんな提案もなく、夫は自室に引きこもり、結婚生活10年目にしてまさかの家庭内別居となった。

一番最悪なのは、家族内感染を起こすこと。私と子どもたちは隔離できないから、新たな感染者の10日間の療養が終わってから、さらに7日間、つまり計18日間の自宅待機となってしまう。

絶対にうつってはいけないコロナ回避生活の始まりである。

夫と私の職場、小学校、保育園へ連絡し、休む旨を伝える。私の職場は理解があったが、主人の職場ではこの期に及んで従業員に感染者が出た場合の対策を考えていなかったらしく、割と大変だったみたいだ。

まず一番困ったのは買い物。感染者はもちろん、濃厚接触者も待機中は基本的に外に出てはいけないので、当然買い物には行けない。目醒めた瞬間から寝るまでモグラやラッコのように食べていないと飢え死にする系男子二人を持つ我が家にとって、これは大変な問題だった。

ニュースなどでは、市町村から救援物資が届いている様子も見ていたけれど、私の住んでいる地域ではそういうのもないらしい。
ネットスーパーに登録してみたものの、頼んだものが届くのは2日後。だめだ。間に合わない。子ども達が和室の襖まで食いだす前に何とかしないと。
悩んだ結果、同じアパートに住む長男の同級生のお母さんに助けを求めることにした。とても申し訳なかった。
その後は共に県外に住む夫と私の実家に救援物資を頼み、ネットスーパーで先々のものを頼み、何とか事なきを得た。

次に困ったのは、日中の過ごし方。
長男はオンライン授業で昼過ぎまで時間が潰せたし、割とインドアな子なので助かったが、問題は次男。保育園帰りに公園で1時間は遊び倒す体力オバケにとって、リビングと和室だけの世界は狭すぎた。
怪獣のように暴れまわり、ストレスからか夜泣きがはじまり、おねしょもやらかし最初の3日間は地獄オブ地獄。

悩んだ末にリングフィットアドベンチャーを購入。まだうまく扱えないけど、車が好きな次男にとっては、ハンドルっぽいものをもって画面に合わせ走るだけでも楽しかったようだ。これは長男にも好評で、夢中になって遊んでいた。ありがとうニンテンドーほんとありがとう。ジョイコンすぐ壊れるとか文句言ってごめんな。

それからクタクタに柔らかくした段ボールを天井からつるし、簡易サンドバックを作成。同じく段ボールで適当に勇者の剣を作って持たせ、好きなだけ殴る蹴るをする物騒な遊びをさせた。

夫はといえば、トレイとお風呂以外は決して部屋から出ず、共用部の廊下に空気清浄機を置き、こまめに喚起と消毒をした。

食事は部屋のドアの前に置いて、食べ終わった食器にアルコールをぶっかけてから下げ、即洗う。
せっかくだから、夫のご飯を乗せたお盆に「お願いだから出てきて」「おかあさん、信じてる」「同級生の山田君、結婚したんですって」などのメモを添えて、将来的に息子が引きこもった時の練習をしたりもした。

幸い高熱は1日でさがり、あとは微熱が続いたくらい。夫もインドアな人で、半年くらいは外に出なくてもストレスを感じない特異体質持ちなので、割と楽しく過ごしていたみたいだ。
連絡はラインと通話。一つ屋根の下遠距離だー!などと盛り上がった。

こんな感じで、塞ぎこまないよう、精いっぱいの努力はしたが、それでも引きこもり生活はつらかった。
作り置きをしようとしても、まったく置いとく暇がないくらい食べられるし、1日の大半キッチンにいる気がしていた。給食ってありがたいなとしみじみ思った。

なかなか人とも話せない。あらゆるおもちゃと永遠に続く兄弟げんかの騒音で、部屋の中は工事現場のようにうるさかった。自宅待機期間中、次男は目を離した隙に室内のエアコンの配管をよじ登り、化粧カバーをべりべりにはがしたし、長男はどういうわけかレゴブロックを飲み込んだ。
二人で作ったスライムを頭からかぶり、何らかの呪いを受けた人たちみたい
になったりもした。

遊び相手をしてやり、ご飯を食べさせ、勉強をみてやり、ご飯を食べさせ、風呂に入れて、寝かしつけ、合間に掃除、洗濯。これを延々と一人でこなす。食器洗いやお風呂掃除を長男が手伝ってくれたのは本当に助かったし、仕事にいってないから、その分を家事に回せばいいんだろうけど、なかなかうまくいかない。ほんとしんどかった。

とにかく人間はシロクマみたいに、母親が一人で子どもを育てる生態の生き物ではないとつくづく思った。ゾウさんみたいに、群れで子育てする生き物だ。ワンオペ育児は生物として間違っている。ゾウさんだって母親一匹で子ゾウを育てろって言われたら気が狂うに違いない。

いっそ部屋にいるだけでご飯が出てくる夫が羨ましいとすら思ったけど、私が感染していたとして、子どもと隔離できていたとも思えないし、状況変わらないだろう。部屋に引きこもっているだけでご飯が出来る生活は一生できそうにない。残念だ。

うちの場合は、子どもが人間の言葉を理解できる年齢だし、家庭内感染も起こさず比較的短い期間の待機ですんだからまだよかったが、もっと小さい子どもがいたり、家庭内感染を起こして待機が長引いたりしたら、精神的にかなりしんどいと思う。
ワンオペ育児の末に、お子さんを3人殺害した母親のニュースはとても胸が痛む。あそこまで追いつめられることはなかったけど、ちょっと状況が違ったら、同じようになっていたかもしれない。まったく他人事ではないなと思った。

仕事には行けないので、収入面でも不安があった。色々調べてはみたが、コロナに感染したせいで仕事に行けなくなって収入が減った場合の、助成金制度などは見つけられなかった。
ただ、医療保険に入っていれば保険金が下りることもあるようだし、傷病手当も申請出来るらしい。私の場合は扶養内のパートなので、残念ながら全くのゼロ収入になるようだ。

待機生活をしてみて、全体的に感じたことは、「手が回ってないな」感。陽性が分かってから、保健所からの電話が来るのに2日。その後、自宅療養している夫に体調確認の電話などは一度もなかった。
家族全員で待機しているけど、食料の支援などもないし。

待機が開ける前、念のために再度、全員でPCR検査を受けてから登園登校出勤したかったが、以前は1~2日で出ていた結果が、3~7日かかるというので断念した。

それでも、濃厚接触者のための専用ダイアルを教えてもらえたし、実際にかけてあれこれ相談した時には、とても丁寧に対応してもらえた。
少ないリソースの中で、現場の人たちは出来る限りのことをしてくれているのだろう。文句ばかり言ってもしょうがない。

コロナウイルスのパンデミックが起こってかれこれ3年。学んだのは本当に知りたい情報こそ、簡単には見つけられないということだ。

検索エンジンに知りたいことを入力すれば、調べられないことなんてないと、漠然と思い込んでいたけれど、本当に命に係わる大切なことを知ろうと思うと、途端に広くて深い海に放り出されるような感覚になった。

次々と新しい株が生まれて、WHOすら言うことがコロコロ変わり、信頼が揺らいだ。本当のことがどこに書いてあるのかわからない。ワクチンを打つべきか打たざるべきかでも随分悩んだ。

感染症にしろ、自然災害にしろ、未曾有の事態が起こった時、きっと今と同じことが起こるだろう。大の字に寝転んで支援を待っていても、誰も助けてくれない。手が回手ってないんだからしょうがない。貪欲に情報を集め、選択をし、備えをして、自分と家族を守らなければならないと思った。

ちなみに。夫の症状は
発症当日…39度の発熱、関節痛、筋肉痛。咳、喉の痛みはなし。
発症翌日…微熱。おなかがゆるい。咳が出始める
~待機解除日まで…咳、鼻の奥で変なにおいがする(異臭症)

という感じ。ほんとに人によって症状が違うらしい。家庭内感染でも症状の出方が違うことはよくあるそうだ。
この咳と、異臭症は恐らく後遺症で、しばらく治らない可能性が高いとのこと。


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