遠くへ行くこと
生きていたい場所がみつからない。
だから雨の味がするコーヒーをのんで
私はいつも優雅な記憶に助けをもとめた。
叫びはうねり、捻り、鋭く色を変えて
電車の揺れる音に不協和音を溶け込ませた。
木々が淋しく冷たい風に当たる様子を眺めて
沈黙の言葉だけがつづいている世界から
静かな生命のことばを分けてもらった。
「どこか遠くへ行ってくれる人を募集します」
そう書いた貼り紙をしようかと考えたけれど
孤独が二人分に増えることは、長旅の荷物を増やすことでしかなかった。
知らない場所へ行きたい。
帰り道も忘れる程の遠くへ行きたい。
これ以上の思考を続けて
感情が混ざって濁ってしまうことが
私は何よりも嫌だった。
汚い色になってしまう前に
スキップして遠くまでいきたいのに。
どうしてみんな邪魔をするの?
行く場所もなく諦めて眠りにつくことは
とてつもなく苦しかった。
そんな、繰り返ししか。
そうすることしか、できなかった。
ただここにいた。
ただ、ここにいる。
ただ、ここに今日もいた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?