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27時30分

27時30分。夜の街を歩く。
思ったよりも生きていて、思ったよりも気だるげな、不思議な空気が胸を満たす。

「まるでゆっくりと息してるみたいだね」

引いている手の先で妹が呟く。
点滅する信号はやがて赤に変わり、誰もいない空間で確かに役割を果たしている。

遠くで光っているのはコンビニだろうか。
24時間365日の輝きの一瞬。毎日の中のほんの少し。けれどそれが僕には特別に見えた。
黒に染まる街に抗う白はそれだけで目立つ。

「まだ歩けそうか?」

「うん!」

こんな状況を楽しんでいるかのように妹は無垢な笑みを僕に向けた。
強いな、と思う。
僕らの旅には終わりがない。光のない暗闇をただひたすらに歩くだけ。
たまに何か見つけても、たどり着く前に消えてしまう。

確実なのは不確実な毎日が続くことだけ。
それがたまらなく怖かった。

明日を生きるための今日なのか、今日があるから明日があるのか。それとも昨日があるから明日のある今日が来るのか。
思考が変に空回る。どうでもいいことが脳裏を駆け巡っては消えていき、酸素を無駄に消費したかと思えば肺がまた膨らんでいく。

似てると思った。
意識しなくても呼吸は続くし、何もしなくても明日は来る。待って欲しいと願っても、それが叶うことは決してない。
もういっそのこと考えないほうが楽なんじゃないかと思う。
けれどこの思考を続けることが、今できる1番の暇つぶしだった。

「ねえねえ、いつ着くの?」

ふと思い出したかのように妹が言う。先ほどよりも歩む足に力がない。
僕は優しく微笑むようにして答えた。

「きっともう少しだよ。だから大丈夫。」

嘘だ。もう少しなんてあるわけがない。妹もきっとどこかでそれを感じとっているはずだ。
こんな気休めに意味はないのかも知れない。でも少しでも、ほんの僅かでも、一歩を刻む力になれたら。

そう思いながら言葉を吐く。息を吸っては吐いて、吐いては吸って。その繰り返しの中に時折言葉を混ぜる。こうして生きてきた僕たちはきっとこの先も変わらない。
絶望を抱きながらも僅かなの希望を捨てきれず、終わりの見えない道の上をひたすらに歩いて行くのだ。

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