憧れの人

数年前アメリカに行った時、ある憧れの人に出会った。いや、憧れというのも憚られるほど遠い存在だが。

彼女は十代の頃日本からアメリカに渡り、音楽活動をしている。加えて、私が参加したようなプログラムの支援をするなどの教育活動も行っている。

初め、私は自分が彼女が英語に堪能で自信に溢れていることに憧れていると思っていた。でもそれは少し違った。

彼女は私たち日本人の生徒の行動をプログラム中ほぼずっと見守っていてくれた。彼女は私たちの内面をよく見ていた。何も行動できずに日本人同士で固まっていたいた私たちにこのままでいいのか、と厳しく問いかけることもあった。でもただ叱るだけではなく、私たちが何か恐れていることを知っていた。プログラムに参加していたアメリカの高校生(兄、姉のような存在。実際はほぼ同い年。)にさらけ出しを求めた。彼らはそれに応じて自分の失敗した過去をちゃんと話してくれた。そうして、私たちは少しずつ安心を獲得していった。

彼女はただポジティブに!と叫ぶ明るい人ではなかった。すべてを包み込むように笑っている人だった。

帰国してしばらくして、ふとその人を検索するとインタビューが出てきた。そこには彼女の背負ってきた過去と、mentorのおかげでそれを乗り越えたことが書いてあった。

私は今少し後悔している。同じ空間にいたにもかかわらず、直接話したのは、コインランドリーで使うお金の両替を頼んだだけだったからだ。

実現するのはきっとまだまだ遠い先のことだけれど、私も彼女のように寂しさや悲しみを抱えながら、強く、優しい人でありたい。そしてこんなふうに誰かの背中を押すような存在になりたい。人はずっとつながっている。

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