「この僕を裏切るなんて」『さらば、わが愛 覇王別姫 4K』(2023)
7月28日よりさらば、わが愛 覇王別妃の再上映が始まったということで見に行ってきました。映画館の中では中国語らしき言語が飛び交っていたので国際的な人気を博していることを実感し、そんな映画に時代を超えてスクリーンで会えることに興奮しました。
普段のnoteでは映画の良かった点をいくつか語っているのですが3時間にも及ぶ今作ではあまりにも語り尽くせないと感じたので、今回は思わず涙が止まらなくなってしまった二つのシーンについて書いてみようと思います。
一つ目のシーンはレスリー・チャン演じる蝶衣が舞台袖で小楼に舞台用衣装の帽子を被せるシーンです。
このシーンでは蝶衣がかつて命を救った捨て子が成長し虞姫の役を奪おうと企てていたことが発覚します。弟子の裏切りに気付いたものの上映開始はもうすぐ。客席では観客たちがいまかいまかと目眩く舞台が繰り広げられるのを待っています。しかし蝶衣にとって役を譲ることは小楼を失うこと。蝶衣は現実のみならず舞台上での覇王と虞姫としての関係すらも壊れることを恐れるほど小楼のことを愛していたため、他の人が姫の役を担うことはすなわち蝶衣が小楼を失うと考えたのです。窮地に立たされた蝶衣はしかし小楼に舞台に立つことを促します。彼は京劇のために自分の愛に別れを告げたのです。その決断に心が痛く、彼の表情に切なさと諦め同時に覚悟めいたものを感じました。おそらく京劇のためにというよりも内なる葛藤があまりにも大きく、何かの糸がプツンと切れて彼に諦めさせたのだろうと思いました。しかし愛が終わることはなく後にどんどんこじれていくこととなります。
余談ですが衣装用の被り物がキャストによって菊仙を経て蝶衣に回されるというあのシーンも帽子の重みを増すように感じさせるものだったと思います。
もう一つのシーンは文革のさなか民衆の前で糾弾された小楼が菊仙へ愛していないと告げる場面です。
菊仙が過去に売春行為で生計を立てていたことが糾弾され、小楼は京劇に対する罪に加えて二つめの「罪」を背負わされることとなります。そこで小楼は自分の周りで起こるこれ以上の災いを避けるために菊仙を愛していないと叫び、愛を捨て去るのです。
この場面が印象的な理由は、直前に菊仙と小楼が2人でソファに座りながら自分たちの行く末を案じているというシーンとの対比になっているからです。そのシーンで使われているオレンジ色はそのまま2人の関係性が持つ温かみを写しているようで、2人の愛情、居心地の良さを感じさせてくれます。そんな2人を見た後に引き裂かれる愛に苦しむ2人の姿を見ることはあまりにも残酷だと感じました。
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