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『僕の心で、かろやかに舞う天使』


冷めきった重たい心に、
彼女は、そっと温かい光(あい)を灯す。
彼女の穏やかな光に包まれて、僕は夢を見る。
目が覚めると、彼女は、僕に、いつも優しく微笑みかける。これは、僕が出会った彼女との物語。
最初でとわの僕と天使との物語。

カッ、カッ、カッ 
ザーザーザー
リリリリリリリリリリr…

慌ただしい雑音の中、僕はまっすぐ会社に向かう。すれ違う人なんて、いちいち見向きもしない。
新しくできたカフェなんぞに一切、興味がない。
いつもの通勤ルートで、決まった時間に入社する。会社では、まずデスクのパソコンを立ち上げ、取引先とのメールをチェック、
それから部署ごとに朝礼、そして、それからは…
業務、業務、業務、
ノルマ、ノルマ、ノルマ、
成果、成果、成果………
代わり映えのしない僕の生活、都心に勤める社会人の平凡な日常。

やっと、昼食休憩の時間だ。
僕にとって、昼食休憩は、午後の業務を円滑に進めるための栄養補給でしかない。
ゆえに、昼食は、会社前のコンビニで済ます。
鮭おにぎりと、体に気を遣った結果のサラダと、レジ横の揚げ物、食後のコーヒー、決まりきった僕の昼食。昼食を考える時間が短縮され、効率がいい。そして、昼休みの空いた時間で、午前中の仕事の続きを行う。

まじか………。

コンビニが、まさかの改装中で入店不可。
加えて、今日はいつもより仕事量が多い。12時30分には昼食を済ませ、仕事に取り掛かりたい。
僕は、コンビニ横の牛丼屋さんに駆けこんだ。
店内は混雑を極め、男性会社員たちの異様な熱気に包まれていた。きっと、僕のようなコンビニ昼食主義の残党も多くいるのだろう。

なんとか昼食を済まし、僕は急いで会社に戻る。
会社前の信号を待っている間、僕の中に、一つの思いが浮かんできた。忙しい日々の中で見ないようにしてきた、誤魔化してきた思い…

「今の生活は、僕にとって〝幸せ〟といえるのだろうか…」

信号が変わり、人々は進み始める。
時刻は12時45分。
僕はかすかに抱いたこの思いを振り切り、会社に駆け足で向かった。

「ん?」

会社の横の妙な看板が目に入った。
妙に惹きつけられる看板…ここにこんな店はあっただろうか、でも正直どうでもよい。

僕は、会社の扉を開け、中に入った。
仕事、仕事……

**

……僕はたしかに会社の扉を開けたはずだった。
しかし、僕の目の前には、いつのも社内ではなく、淡く神秘的な空間が広がっていた。
空のような、海のような…どう表現すればいいか分からない、広くいきわたる果てしない空間。
ふわりと、この空間が僕の体を包み込み、どこまでも、自由に連れて行ってくれるような、そんな予感がした。

「ようこそ。こんにちは!」

突然、奥から、女性の明るい声がした。

「初めまして、私はこういうものです。」

女性から名刺を差し出され、僕は社会人の癖でつい、その名刺を受け取ってしまった。

『いやし屋さん・天使りゅうちゃん』

僕の人生で、初めて出会う天使と初めて聞く職業に戸惑いながらも、僕は、我に返り時刻を確認する。

………え?まだ12時45分……

信号を渡った時に確認した時刻のままだった。
あれから、確実に5分は過ぎているはずなのに、時計は明確にその時刻を示していた。
僕の疑問を察してか、天使なる女性が口を開く。

「ここには、時間をいう概念が存在しないんです。だから、ゆっくりと安らぐことができます。
せっかくですし、少し休まれてはいかがですか?」

自分の身に起きた出来事を飲み込めず立ち尽くす僕に、天使は、楽しそうな様子で、微笑みかける。

「占い、興味あります?」

すると僕の目の前にテーブルと椅子が現れ、僕は言われるがままに腰を下ろした。
僕の横から、さわやかな甘い香りが漂ってくる。僕は思わず香りのする方へ目を向けると、二人の女性が、紅茶とケーキをこちらへ運んでいる。

「リアと、ロマです。私の助手みたいな…私のお友達です。彼女たちのティーとスイーツはどれも絶品なんです♪」

そういうと天使は、2人が運んできたティーセットに目を輝かせていた。天使のときめく瞳につられて、僕は、思わず笑みをこぼした。
テーブルには、紅茶とミルクレープ、そして色彩豊かなカードが並ぶ。ミルクレープには、宝石にように輝くフルーツが、断面を鮮やかに飾る。
天使は、テーブルに並ぶカードを一枚、一枚、丁寧に手に取り、僕に話しかける。

「これは、オラクルカードというものです。このカードたちで占いますね。といっても、私は、占いは当てることが目的って思ってないんです。どんな絵柄と出会うかワクワクしたり、出会ったカードの言葉から、ちょっと、幸せのヒントがもらえるかも♪って思ったり、そうやって、まずは、純粋に占いを楽しんでほしいの。占いって、ハッピーな贈り物なんだよ。早速、やってみませんか♪?」

カードを見ながら、僕は彼女に、僕がずっと抱えていた思いを話した。
今の生活に対する虚無感、将来に対する不安、僕のやりたいこと、本当の願い…
彼女の優しく和やかなベールに包まれて、僕は、自然と僕の心と向き合った。

ああ、僕は、ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない…僕が抱えているこの気持ちを、誰かに受け止めてほしかった…そうか、そうだよな…

彼女の中にある淡く、でも確かに輝く光は、僕の心となじみ、そっと穏やかな光を灯す。そして、いつの間にか、僕は僕の心をゆるしてしまう。
雪原に、あたたかな日差しが降り注ぎ、春の訪れを知らせるような、あたたかい紅茶に、角砂糖がスッと溶けて、なじんでいくような、モノクロのデッサンが、水彩絵具でカラフルに彩られていくような、そんな夢見心地な空間の中で、彼女は、僕の心にそっと寄り添ってくれる。

彼女は、触れるだけで人を幸せな気持ちへ導く世界観(まほう)を持っているのだろう。

僕の心は、久々に安らぎ、満ちたりた気分だった。

「うん、あなたは、だいじょうぶ。私とお話しして、少しでも心がかるくなったら、嬉しいな。」

***

「今日は、素敵な時間を一緒に過ごしてくれてありがとう。これは、ささやかな贈り物です。」

そういうと彼女は、ガーベラのチャームがあしらわれたブレスレットを僕に渡した。
ピンクのガーベラが光に照らされ、キラキラと輝きを放つ。その光に呼応するかのように、チャームの一つひとつがそれぞれの輝きを放ち、ブレスレットは多彩な光を纏っていた。
その輝きに見とれる僕に、彼女は笑みを零す。

「男性には、少し可愛すぎるかな?」

「ううん、とても素敵だ…りゅうちゃんらしくて、なにか、不思議な力を感じるよ。大事にする。」

すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。 

「これをお守りだと思ってほしいな。もし、不安になった時は、このブレスレットを見てみて。そしたら、きっと元気が出るはずだから。あなたは、もう大丈夫。いつでも見守っているよ。」

僕は、ブレスレットを手に付け、そして彼女とまっすぐ向き合った。

「りゅうちゃんのおかげで心が楽になった、救われたよ。ありがとう、出会えてよかった。」

「こちらこそありがとう。焦らず行こう。私たちの未来は、明るく楽しいんだって…私と約束しよう。大丈夫、すべて良い道のりだよ。」

僕は、扉を開け、外に出る。
出た先は、会社の入り口の前だった。ふわっと、風に乗って漂う花の香りに僕は包まれる。
あたたかい日差しが僕の心に優しく差し込んだ。
僕は大きく深呼吸をする。
僕は時刻を確認する。時刻は12時46分。
「よし」と僕は小さく口ずさみ、会社のドアを開ける。手には、時計と一緒にブレスレットが小さく、でもたしかに強く輝いていた。

****

私は、毎朝、外に向かって、大きく深呼吸をする。朝の空気に誘われて、花の香りや土の香り、小鳥の囀りが私の中に入ってくる。
そして、私は、みんなと対話をする。

「おはよう、今日も素敵な朝だね♪」

対話をすることは、私にとって生きがい。

今は、いやし屋さんとして、人の心に寄り添える存在でいたい。そして、気軽に立ち寄れる対話屋さんとして、継続的に人と向き合っていきたい。
その人が今抱えている気持ちを、私が半分お引き受けする。相手の気持ちを私も感じながら、「大丈夫」と伝えていきたい。そうして、心が素直になる瞬間を、なごむ瞬間を共有していきたい。

私は、目をつむり、私の心に耳をすます。
私が今、どんなことを感じているのか、見失いたくない。だって、悲しさも、苦しさも、楽しさも、嬉しさも…全部、大切な私の気持ちたちだから。

「私は、もう、私らしく生きるんだ。」

すべては、私の中にある。
大事な学びに感謝を込めて、これからも、私は、私の心の声を大切に、私らしく生き続けたい。

魂の幸せを追い求めていきたい。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございます☺️
『あなたの物語』を発信中です!

🌼「天使りゅうちゃん」について🌼
「お話を聴くこと」「絵を描くこと」が好きな、
占いありのリラックスバーの店主✨

りゅうちゃんと一緒に時間を重ねると、いつのまにか心が癒され、幸せの種がゆっくりと芽吹くようなあたたかな気持ちになります☺️
ぜひ、天使の休息に、足を運んでみてください✨

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