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『辞書で読むドイツ語』遺言版 第三回

 さて、理解文法をはじめから順に読んで行きますと、多くの説明が英語との比較となっており、「英語とほんど同じだから、分かるでしょう」といった調子で書かれていることに気づきます。
なぜこういう書き方をしたのでしょうか。それは、人は相手にとって新しい事を説明するときは、相手が知っているであろう事を思い出させた上で、それと結びつけて説明すれば一番よく分かってもらえる事を本能的に知っているからです。
 かつて、私の長女A子が五歳くらいで次女B子が三歳くらいだった時、庭で小さな池の金魚を見ていたことがありました。A子がB子に「大きい金魚が小さい金魚に餌さを譲ってるんだね」と説明しました。「譲る」という言葉の意味が分かからなかったB子は「譲るって?」と聞きました。A子はとっさに、「朝、顔を洗う時、Bちゃんに先に洗わせてあげるでしょ。ああいうのを『譲る』って言うの」。B子「フーン」。
 この会話をはたで聞いていた私は、A子のとっさの説明の適切さに驚いた事を今でも鮮やかに覚えています。
 
 閑話休題
 ドイツ語文法が英語文法に似ているのは、英語がドイツ語から生まれたからです。ですから本当は関係は逆なのです。又、英語がドイツ語と「少し」違っている点もあります。有名なのは「形容詞と副詞の比較級と最上級の形の違いです。
 即ち、英語の形容詞には原級に -er をつけるのではなく、more を前置するものがあります。これはフランス語から来たものです。
 このように他の言語と比べながら或る言語を学ぶ事は面白いだけでなく、理解を深めることにもなります。
 英文法でみなさんは「三単現」というのを暗記させられたと思います。これはドイツ語文法では「動詞の人称変化」に対応します。こう対比させますと、あまりきれいな対比になっていない事が分かります。英語では「三人称単数だけは語尾に -s をつける」という個別的事実を暗記するだけですが、ドイツ語では人称変化の全体をとらえているからです。
 
 さらに比較を広げて見ますと、日本語文法で「動詞の変化」と言うと、それは「人称変化」の事ですらなく、「五段活用」とか「サ行変革活用」とかの事で、後に来る品詞などとのp関係のことになります。これはもちろん西洋の言葉と日本語とが根本的に違うからです。
 こういう広い視野から考えることは面白いことですが、英語やドイツ語の授業でここまで考える先生はマレでしょう。
 今回はこのへんで終わりにしましょう。

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